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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

≪2004年9月6日掲載≫

クロコダイルをもしのぐ脅威−汚れた水の恐ろしさ
<アンゴラ>

 ファティマにとって、ワニはとても恐ろしい存在です。彼女の住んでいるアンゴラの農村では、1年の間に7人もの友だちが、近くの川に水をくみに行ってワニに襲われたからです。しかし彼女は、ワニのほうが病気よりまだましだと言ってはばかりません。アンゴラは様々な苦悩に直面しています。ですが、汚染された水の前にはワニの脅威も色あせてしまうことを考えるとき、安全な飲料水の大切さは何にもまして明らかになります。
 物心ついたときからずっと〜幼かった頃からお母さんになった今日まで〜不衛生な水がファティマの人生全てに暗い影響を及ぼし、ダメージを与えてきました。

 アンゴラの首都ルアンダから1時間ほど北に行ったマブイア村。この村で生まれ育ったファティマは、毎日4時間もかけて水を集めていました。それは危険な仕事でした。洪水の時期になると水の中にワニが潜んでいるからです。一方、病気は1年365日の間、毎日欠かさず水の中に潜んでいます。結果として、病気になったきょうだいや自分の子どもたちのために、ファティマはさらに多くの時間を費やさければなりませんでした。

 1999年に、最初の子どもイサベルが何度も下痢を起こして死んでしまったとき、ファティマと不衛生な水との戦いは最高潮に到達しました。「イサベルはいつも病気がちで、どんなことをしても丈夫な体にはならなかったわ」ファティマは2人目の子、フェルナンド(13カ月)を抱きながら言います。「フェルナンドと同じ歳になるまでに、イサベルは12回も病気になったんです。でもこの子は一度も下痢になったことがないいんですよ。ただの一度も」

 ファティマの顔に、特大の笑顔がさっと広がりました。ファティマはさっとフェルナンドを背中におんぶして、パイプから勢いよく流れ出す水でバケツを満たし、水を飲みました。「きれいな水のおかげよ!」彼女の言葉は、それがあたかも金の水であるかのようです。実際に、アンゴラの田舎町にもたらされた影響を考えるとき、その水はまさに金の水と呼べるものでした。

 2000年、マブイアの村の子どもたちの驚くべき死亡率の高さに対処すべく、ユニセフはアンゴラ政府と協力して川から町へと水を運ぶパイプラインを設置しました。さらにトイレや手洗い場、蛇口やシャワーを作り、ろ過システムを取りつけて、一滴たりとも飲料に適さない水がないようにしました。その結果は目を見張るものでした。下痢を起こすケースはほぼゼロになり、子どもの死亡率が急激に低下しました。数時間の道のりを歩いて水を汲みに行かなければいけない重労働から突然解放された女の子たちは学校に行くようになりました。お母さん達は農作業に時間を使うことができるようになり、家族の収入が増えて、より多くの種類の食べ物やかや(蚊帳)を買うことができるようになりました。さらに、ユニセフはコミュニティの水と衛生委員会の設立を手伝い、今ではこの委員会がシステムのメンテナンスを行うとともに、コミュニティの人々に衛生に関する知識を提供しています。給水システムは村の委員会によって確実に維持されるようになり、ユニセフは新しいプロジェクトに取り組むことができるようになりました。

 ファティマの近所の住民の一人に、セリーナ・カンディドがいます。学校に通いはじめるのが遅かったセリーナですが、マブイアの水プロジェクトがなければ、学校に通うこと自体かなわなかったでしょう。セリーナが1日5時間の労働をやめても暮らしていける−彼女の両親がそう決めたとき、セリーナは10歳でした。2001年、村にパイプラインが引かれてからわずか6カ月後のことです。それまでセリーナの1日は、世界中の何百万人もの女の子と同様、何時間も川まで歩いて、15リットルの水を頭にかついで帰ってくるという日課で始まる生活でした。この作業を毎日3回も繰り返すのです。これが彼女の毎日でした。これが子ども時代でした。セリーナの生活にとって、水がすべてだったのです。

 しかしきれいな水がマブイアの村に来るようになってから、セリーナはこの嫌な仕事を、それまでに比べてほんのわずかな時間で済ませることができるようになりました。そして重要なことは、水がきれいなのできょうだいが病気にならなくなり、看病をしなくてもすむようになったことです。「一日の中で、学校が一番好きです」水くみ場から70メートルの場所にある家まで歩きながらセリーナは語ります。「家の日課をこなすのは楽しいです。でも、一番楽しいのは教室で授業を受けたり、歌を歌ったりしている時なんです」

 しかし、今週発表されたアンゴラの飲料水の普及率が50パーセント上昇したという報告にも関らず、マブイア村は例外的なケースのままです。約30年にもわたる戦争の結果、アンゴラ全体の給水システムは壊滅的な被害を受け、数百万人もの人々がきれいな水と基礎的な衛生設備を奪われました。この報告によると、アンゴラの衛生事情は悪化しています。基礎的衛生設備の普及率は、都市部で62%から56%に、地方では19%から16%に低下しているのです。ユニセフはこの状況に対して、アンゴラ全土で井戸を掘ったり、主要なパイプラインを建設したり、全国的な衛生教育キャンペーンを行っています。ユニセフはまた、学校に水を供給する作業も引き続き行っています。「安全な飲料水がどのような影響をもたらすのか−それはファティマとセリーナを見れば一目りょう然です」とユニセフ・アンゴラ事務所代表のマリオ・フェラーリは言います。「貧困にさいなまれている人々に、きれいな水や適切な衛生設備を提供することは、彼らの生活に劇的な成果をもたらすのです」

 「国際的な支援を継続し、政治的意志を持ちつづけることによって、はじめて子どもの死亡率を大きく改善することができます」フェラーリは続けます。「アンゴラでもそれは可能です。しかしもしこの2つの条件が満たされないなら、持てる者と持たざる者との格差はさらに広がりつづけるでしょう」

 今、ファティマと息子のフェルナンドは幸せな「持てる者」のひとりです。「母親は子どもの面倒を見なければなりません」バケツに汲んだきれいな水をわらでできた小屋の前に置いてあるバケツにあけながら、ファティマは言います。「でも汚い水しか手に入らないとしたら、それもできません。このプロジェクトは村の運命を変えてくれました。息子を見てください。この子はとても健康です。これが、すべての母親たちが願っていることなんです−もうこれ以上、涙はいりません」


<2004年8月26日 ユニセフ・アンゴラ事務所>

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