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公益財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち/ストーリーを読む

マリ: 紛争で暴力を受けた女性を保護するプログラムを実施

【2013年8月2日 マリ・モプティ発】

マリ中部のモプティのごみ捨て場で、住民たちが捨てられたごみを分別しています。マリのような貧しい国では、ごみの中から使えるものを探す生活を送るほど、貧しい人たちがいます。そして、このごみ捨て場の周辺には、最も厳しい生活を送る人たちが住んでいます。しかし、16歳のファトゥマタ・トラオレさん*は故郷の北部トンブクトゥ地方のトンカから逃れてきて、故郷に帰るよりもこの場所で生活していくことを望んでいます。

5ヶ月になる息子のムサくんをあやしながら、彼女は、昨年のある「恐ろしい日」を思い返しています。マリ北部の支配権を握った反政府勢力のメンバーが、ファトゥマタさんを誘拐した日のことです。 

気がつくと、ファトゥマタさんは15人の女の子たちと共に、廃屋で拘束されていました。そして、彼女たちは一週間にわたり、集団でレイプされたのです。

「母は市場に出かけていました。家事をしていたら、銃声が聞こえたんです。弟たちを家の中に避難させようとしたとき、武装勢力のメンバーが門を乗り越えて庭に入ってきたんです」とファトゥマタさんは思い起こします。 「反政府勢力のメンバーに捕えられ、私は必死に抵抗しました。まだ、その時に負った手首や腕の傷が痛みます」と彼女は語ります。「私は街外れの廃屋に連れて行かれました。そこには、他にも15人の女の子がいました。中には、私よりも年下の13歳ぐらいの子もいました」

彼女は話を続けます。「メンバーは私たちを殴らず、レイプしたんです。外に見張りを立て、部屋に入ってきて私たちをレイプしました。動物の肉を与えられましたが、きちんと調理されていませんでした。そんな生活が1週間続きました。そして私たちを置き去りにしていったのです」

相次ぐ性的暴力

© UNICEF/Video
ファトゥマタさん(16歳・仮名)は2012年、マリ反政府勢力に誘拐されたあとレイプされ、マリ北部のトンカにある自宅を捨てて逃げてくるしかありませんでした。

2012年、イスラム教徒や分離論者に占拠されたマリ北部。この紛争の影響を最も受けたのは女性と女の子です。イスラム原理主義の法律を強いられ生活が激変しただけでなく、彼女たちは相次ぐ性的暴力の標的にもなっています。

現在、マリ北部は奪回され、情勢は落ち着いてきましたが、マリ中部や南部に身を寄せている何十万人の避難民の大多数は女性たちです。

ごみ捨て場の隅にある、わらや黒いビニールシートをつなぎ合わせて作った住まいに、ファトゥマタさんは38歳になる母親と一緒に住んでいます。貧しさゆえ、毎日食事をすることもままなりません。ふたりは交代でムサくんに食事を与えます。ファトゥマタさんも母親も、ファトゥマタさんの父親がどこにいるのか知りません。ファトゥマタさんがレイプされたことを知った時、父親は家族を見捨てて去っていったのです。

ファミリー・ケア・インターナショナル(FCI)の家庭訪問員であるアイサッタ・シッセ氏は、マリの社会では、レイプがこの上ないタブーであり、このように父親が失踪することは典型的なことだと述べています。

「マリでは、レイプがあっても、たいていは公にされません。家族だけが知っているということがほとんどです。裁判所や警察に行くことはありません。女の子は、レイプにあったことを母親にでさえ、話せません。レイプ被害者と知られることで、更なる苦痛を受けるのです。学校でも友達やほかの児童にいじめられてしまいます」と、シッセ氏は続けました。

被害者への支援

© UNICEF/Video
昨年誘拐された後に生まれた、生後5ヶ月になる息子を抱くファトゥマタさん。

今年2月にモプティの診療所でムサくんを出産したときに、シッセ氏は、ファトゥマタさんが経験した恐ろしい出来事とおかれている厳しい状況を知りました。「彼女は妊娠していることに気が付いていませんでした。それどころか、陣痛を消化不良による腹痛だと思っていたのです」とシッセ氏は言います。FCIは、ファトゥマタさんの医療費を負担し、カウンセリングも手配しました。

ユニセフはFCIを支援し、紛争に巻き込まれた女の子や女性1,500人に、生活を支えるための現金を支給し、支援を開始する予定です。

ユニセフ・マリ事務所のムサ・シディベ子どもの保護専門官は、マリの避難民の女性は身体的な傷だけでなく、心の傷も抱えていると述べています。多くの人たちは、故郷の村や町から逃げてきたため、経済的にも困窮しています。

「この紛争は女性に甚大な被害をもたらしました。避難民女性のなかには、恐ろしい体験をした人々もいます。心に深い傷を負い、カウンセリングが必要な女性が何百人もいるのです。モプティのような紛争下にない場所に到着すると、新たに多くの課題に直面します。夫が北部に残っている、もしくは失踪しているという状況下で、彼女たち自身が大黒柱として一家を支えなくてはいけません。食事をし、子どもたちを養い、家賃を捻出するために、売春などの極端な手段に追いやられてしまいます」とシディベ子どもの保護専門官は述べています。安全な場所に避難しても、心の傷や癒えることなく、新たな困難が待ち受けているのです。

マリ国内の35万人に上る避難民の大多数は女性が占めています。迅速な緊急支援の展開が必要とされているおり、ユニセフは、現地NGOの専門知識を活用、強化する役割を担っています。紛争に巻き込まれ、性的暴力を受け、経済的にも心身的にも厳しい状況にある女の子や女性へ、現金支給やカウンセリングなどの支援を行うほか、避難民女性には、性的暴力への注意喚起なども呼びかけています。

ファトゥマタさんとムサくんの支援は、若い母親が未来を切り開くことに専念できるよう十分な場所と財力を提供する、という新たな段階にきています。 近所に住む10代の女の子や子どもたちがスラムの木にかかるロープで遊んでいる一方で、ファトゥマタさんは 「どうしたらこの恐ろしい出来事を忘れることができるのだろう」と、考えています。あまりにもつらすぎる経験です。

「もし私と母とムサがきちんとした場所に住むことができて、食べるものが十分あったら……。それさえあれば、十分なんです」

※文中の名前は仮名です。

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