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日本ユニセフ協会
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ユニセフ日本人職員 講演会
『五輪スイマーから国連職員へ スポーツの力で平和を』
ユニセフ・マリ事務所 教育専門官 井本直歩子

【2016年4月12日  東京発】

公益財団法人日本ユニセフ協会と外務省 国際機関人事センターは、4月12日(火)、西アフリカのユニセフ・マリ事務所に勤務している井本直歩子(いもと なおこ)教育専門官の講演会を開催しました。

井本氏は学生時代にアトランタオリンピック日本代表の競泳選手として活躍し、留学やインターンを経てユニセフ職員に転身しました。講演では、お集まりいただいた国際協力志望者やスポーツ、人道支援に関心が高い方々に向けて、このような経歴を歩んだ経緯や、教育専門官としての職務、特に現在マリで進めている「スポーツを通した平和構築」の取り組みを紹介しました。

きっかけは途上国出身のスイマーへの関心

ユニセフ・マリ事務所 井本直歩子 教育専門官

©日本ユニセフ協会

ユニセフ・マリ事務所 井本直歩子 教育専門官

井本氏が貧困や紛争など国際的な問題に関心を持つようになったのは、競泳を通しさまざまな国の選手と出会ったことがきっかけでした。14歳の頃から10年間にわたり、多くの国際大会に出場したなかで、泳力の優れた選手だけでなく、環境に恵まれず十分なタイムを出せない途上国の選手にも注目しました。特に、貧困国や紛争国出身の選手のなかには、Tシャツ1枚しか着るものがない、泳ぐのにゴーグルを持っていないといったスイマーもいたため、自分自身の置かれた環境の豊かさに気づいたと言います。

このような経緯で「貧困に苦しむ人々のために働き、紛争を解決する仕事がしたい」と思った井本氏は、日本とアメリカの大学で競泳に励みながらも紛争に関する勉強に取り組み、スイマーを引退した後、イギリスの大学院にて紛争・平和構築の分野で修士号を取得しました。

 

 教育分野でユニセフ職員としてのキャリアを蓄積

子どもたちの教育支援にあたる井本教育専門官

©Naoko Imoto

子どもたちの教育支援にあたる井本教育専門官

国連職員になるためには、一般的に修士号のみならず専門分野での職務経験を有する必要があります。井本氏は大学院を修了後、紛争解決の実務経験を積むため、JICA(独立行政法人 国際協力機構)のインターンとしてガーナ、同機構の企画調査員としてシエラレオネ、ルワンダで活動しました。その後、外務省JPO派遣制度(若手邦人を原則2年間、国際機関に派遣する制度)に合格し、2007年にユニセフ職員としての活動をスタートさせました。自身のJPOへの挑戦を振り返り、井本氏は「英語が話せれば合格できる、というわけではありません。『書く』ことも含めた総合的に高い語学力に加えて、動機、職務経験、やりたいことと応募ポストとの一貫性、バイタリティや『図太さ』を持ち合わせることが大切です」と述べています。

井本氏はユニセフ職員として、これまで「教育を通した平和構築」に一貫して取り組んできました。「ユニセフには水や保健などさまざまな職種がありますが、私が教育の仕事を選んだのは、インターン時代に教育に関するプロジェクトを数多く経験し、現場で知識を身に着けたことが理由です」と話します。最初の赴任地となったスリランカは内戦下にあり、数十万人もの国内避難民が生じていたため、避難民のキャンプで子どもたちの学習再開を支援しました。また、その後赴任したハイチでは2010年の大地震の直後の緊急支援、フィリピンでは大型の台風で被災した子どもたちのための教育支援に携わり、2014年9月よりマリ事務所に赴任しています。

困難な情勢が続くマリで

校内感染ゼロに向けて、学校におけるエボラ感染予防対策に取り組む井本教育専門官

©UNICEF/2015/Mali

校内感染ゼロに向けて、学校におけるエボラ感染予防対策に取り組む井本教育専門官

マリでは2012年に紛争が勃発し、終息の兆しが見えつつありますが、現在でも北部の武力勢力間で戦闘が続いています。また、2015年にはエボラ出血熱の感染が確認されたため、患者の暮らす地域の教育現場で子どもたちに手洗いの重要性を訴えるなど、感染予防を呼びかける活動を推進しました。現在は北部の紛争地域における平和構築教育、つまり紛争の影響を受けた子どもたちが再び学校に行き、学習を再開できるよう、学校運営を含めた幅広い活動に取り組んでいます。井本氏は、子どもたちへの教育支援において、自身の経験を生かしたスポーツを取り入れることで、既存の取り組みをさらに活性化しようとしています。

スポーツを通した平和構築への取り組み

スポーツには、高いレベルの選手の強化や、心身発達の促進に加えて、災害復興や平和構築に役立つ側面があります。「先進国でも、途上国でも、スポーツの可能性は無限大です。途上国に戻ると、どこでも子どもたちが裸足でサッカーボールを蹴っているのを目にします。つらい環境であっても、スポーツを通して子どもたちに勇気や楽しみを与えられるのです」と井本氏は語ります。

マリ北部の平和コンクールでスポーツに参加する子どもたち

©Naoko Imoto

マリ北部の平和コンクールでスポーツに参加する子どもたち

実際にスポーツを平和構築に役立てるうえで、井本氏は単に対立する集団をスポーツに参加させるのではなく、対立の原因に関する分析の重要性を強調します。どのような理由で、誰と誰が対立しているのかを把握したうえで、平和に対する考え方や将来への希望を持てるよう、個々人のキャパシティを育成する必要があります。さらに、国、学校、コミュニティなど複数のレベルで、紛争で心に傷を負った人々を受け入れる「社会統合」を進めていくことも重要です。

このような枠組みを活用しながら、ユニセフ・マリ事務所では現在「平和コンクール」という活動を実施し、高い効果を上げています。このコンクールでは、子どもたちが平和のメッセージを込めた歌や劇を披露します。紛争で大きな被害を受けた子どもたちも参加しており、ある子どもは2012年の紛争のさなか、爆撃で両親を失っています。この活動にはスポーツも取り入れ、異なる民族間での和解を促進し、子どもたちに希望を持ってもらうことを目指しています。

選手時代の心構えで困難な課題に挑戦

参加者からの質問に耳を傾ける井本さん。

©日本ユニセフ協会

参加者からの質問に耳を傾ける井本教育専門官

スポーツを通した平和構築はまだ十分に確立していない分野のため、課題も多く残されています。水や保健などのベーシックニーズに比べ、スポーツは優先度が低いと見なされることも多く、スポーツだけではまだ十分なインパクトがありません。しかし、優先度の高い他の分野とスポーツをうまく組み合わせることで、さらに多くの効果が出るのではないか、と井本さんは考えています。そのためには、他の関係機関や全国規模での取り組みなどとのパートナーシップが不可欠です。また、子どもたちへの効果を追求するため、適切なモニタリングとフォローアップを行い、継続的に活動に取り組んでいくことが重要です。

このように、井本教育専門官は多くの困難な課題に直面していますが、競泳選手時代に培ったチャレンジ精神を忘れず、日々の活動に臨んでいます。「取り組む分野が広いため、多くの努力が必要となりますが、常に高いレベルを追求する、という思いを持ち続けています。つらいときこそ、自分に『できる』と言い聞かせ、自信を持って壁を乗り越えるようにしています。何より学校に通えるようになった子どもたちの姿に接するときが一番やりがいを感じられる瞬間ですから」と述べ、今回の講演を終えました。

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 日本ユニセフ協会は、マリなど、紛争下で人道危機にある国や地域で、困難な状況にある子どもたちのための緊急援助資金として、「人道危機緊急募金」へのご協力をお願いしています。皆様からのご支援をよろしくお願いいたします。


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