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日本ユニセフ協会
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アグネス・チャン ユニセフ・アジア親善大使
グアテマラ帰国報告会
「見えない脅威と闘う、"最初の1000日"」

【2016年6月21日  東京発】

ユニセフ・アジア親善大使のアグネス・チャンさんが、6月12日から1週間の日程で中南米のグアテマラを訪問。現地で見てきた「発育阻害」の実態と、その改善のためにユニセフが力を入れている取り組みなどを、6月21日にユニセフハウスで報告しました。

「発育阻害」(スタンティング)は、栄養不良状態の一つで、特に出産前後の最初の 1000日間に適切な栄養が与えられないために、子どもたちの身体的・精神的発達が阻害される問題です。「発育阻害」に蝕まれた身体は、元に戻ることがありません。このため、子どもたち自身の成長のみならず、地域や国の発展を妨げる一因にもなっていることが、国際社会でも深刻に考えられ始めています。

緑豊かな国グアテマラ、貧富の差は大きく

コーヒーの産地として知られるグアテマラは、高原や山岳部が大半を占める国土におよそ1,600万人が暮らしています。しかし国全体の貧困率は近年上昇しており、特に人口の40%を占める先住民族の8割は、貧しい暮らしを余儀なくされています。そして、グアテマラの5歳未満児のほぼ2人に1人が慢性的な栄養不良が引き起こす「発育阻害(スタンティング)」で、これは世界で6番目に高く(悪く)ラテンアメリカ・中央アメリカ地域では最も高い数値です。

グアテマラ政府は2012年に「ゼロ・ハンガー・パクト」を掲げ、「最初の1000日」の栄養問題への取り組みを最優先国策の一つに位置付け、国をあげて取り組みを進めています。

 先住民族の家庭を訪問

レベッカさんと、2人の子どもたち。

©日本ユニセフ協会/2016/H. Nozawa

レベッカさんと、2人の子どもたち。

グアテマラ西部のトトニカパン県は、先住民が多く住んでおり、貧困層も多い地域です。山あいにあるチョキ村で出会ったレベッカさんには、3歳と1歳の幼い子どもがいます。1歳の子どもは下痢やおう吐が続いて、病院に連れて行くと、二人とも急性栄養不良であると判断されました。3歳の姉は一見すると元気そうに見えますが、身長は2歳児程度しかなく、発育阻害であることが分かりました。

母親のレベッカさんは、自分の子どもは他の子どもたちよりも大きいと思っていたらしく、栄養不良に対する認識が足りていないことがうかがえました。現在は治療に通っています。

続いて訪れたティエラ・ブランカ村で出会ったのは、ロゼリアさん(29)の家庭です。ロゼリアさんは身長135cmで、日本の子どもの9~10歳の平均身長ほどしかありません。2人の娘たちも平均よりも身長が低く、地域の保健師が定期的に訪問して、子どもたちの成長を見守っています。そのような中で、1歳半のアリソンちゃんの身長は1カ月で1cmも伸びたと、保健師さんは喜んでいます。

足りていない栄養を“栄養ふりかけ”

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©日本ユニセフ協会/2016/H. Nozawa

"栄養ふりかけ"を手にするアグネス大使。

ユニセフが推進する栄養支援の一つに、“栄養ふりかけ”があります。これは、栄養不良を改善するためのふりかけタイプの微量栄養素パウダーで、食べ物に混ぜて子どもたちに食べさせます。安価で効果の高い方法として、グアテマラでは2年前から政府が予算を組んで各家庭に配布されています。

ロゼリアさんの家庭では、ご飯を作る様子も見せてもらいました。自分たちの畑で採れた野菜を中心に、トマト、玉ねぎ、にんにくなどを調理し、トウモロコシの粉を薄く引き伸ばして焼いたものに巻いて食べます。肉を食べるのは、月に1・2回、卵は週に1回など、子どもの成長に必要な栄養が十分取れていないことが分かります。栄養不良の背景には、貧困だけでなく、伝統的な食習慣なども隠れているのです。

栄養に取り組む病院や学校を訪問

バスケス小学校の学校菜園で育ったラディッシュをガブリ。子どもたちが嬉しそうに見守るなか、「とても美味しかった」とアグネス大使。

©日本ユニセフ協会/2016/H. Nozawa

バスケス小学校の学校菜園で育ったラディッシュをガブリ。子どもたちが嬉しそうに見守るなか、「とても美味しかった」とアグネス大使。

次に訪問したトトニカパン病院は、「赤ちゃんにやさしい病院」としてユニセフにも認定されています。ここで行われている『最初の1000日』の取り組みの一つが母乳バンクです。母乳がたくさん出る母親が寄付した母乳は、殺菌し、栄養価や安全性を検査して冷凍保存され、様々な理由で母親の母乳を飲めない赤ちゃんのために使われます。

入院している男の子の食事の様子を見ていたアグネスさんは、男の子がトウモロコシの粉を焼いたものを、スープの上澄みにつけて食べているのをみて、疑問が湧きました。「スープの具にこそ栄養があるのに、なぜスプーンを使わないのだろう?」

聞いてみると、男の子のお母さんはスプーンを持っていないのでした。慌てて、病院内を探しまわってスプーンを渡すと、男の子は嬉しそうに食べたと言います。子どもたちの栄養を改善するには、お母さんへの知識普及も大切な要素です。

そして、食育に力を入れているバスケス小学校を訪問。ここの学校菜園では、トウモロコシやブロッコリー、キャベツ、ラディッシュなどが栽培されています。またここの生徒たちは、地元のテレビ番組でプログラムを持っていて、自分たちの育てた野菜を使った料理教室など、栄養の大切さなどを伝えています。アグネス大使は、子どもたちが育てた野菜を食べたり、栄養の大切さについて話したり、子どもたちと楽しく交流しました。

地域で学び合い、最後のひとりまで

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©日本ユニセフ協会/2016/H. Nozawa

妊娠7カ月の妊婦のもとを訪れた助産師歴20年のマルガリータ・フリアさん。「最初の1000日」の栄養改善は、お母さんのおなかの中にいる胎児の期間も含まれる。

『最初の1000日』の取り組みでは、妊婦に寄り添う助産師たちも重要な役割を果たしています。アグネス大使は、初めてのお産を控えた妊娠7カ月の妊婦の検診に同行しました。助産師は母親に、出産までの準備やお産の流れ、母乳育児、母子の栄養などについて説明していました。

そして、人々の習慣を変えていくには、住民たちが自ら行動することが何より重要です。チュイスック村のコミュニティセンターでは、地域の女性たちがゲームや料理教室などを催しています。栄養のことだけでなく、正しい手洗いなど衛生についても、楽しく学び合う活動が活発に行われていました。

栄養不良のは池には、貧困、食生活、教育、ジェンダー格差などさまざまな要因が隠れています。グアテマラのような中所得国では、底辺にある人々の状況は、平均値に隠されてより見えにくくなるのもまた事実です。

訪問を終えて、アグネス大使は、「最後のひとりまで手を差し伸べていくには、こうした見えにくい問題に光を当てて、人々の習慣や行動を変える地道な活動をしていかなくてはいけない」と力を込めて訴えました。

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