公益財団法人日本ユニセフ協会
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アフリカ干ばつ緊急募金 第85報
ナイジェリア:世界的なイメージと現実のギャップ

【2012年8月28日 ナイジェリア発】

まだ午前9時だというのに、灼熱の太陽が地面を照り付けています。あたり一帯に日陰はなく、真っ白な景色が広がっています。唯一見られる色といえば、泥だらけの井戸のそばに、きちんと並べられた10個の黄色いポリタンクだけ。アル・ハジ・ヤハヤさんが、まだ幼い息子を連れて、そのポリタンクに、砂地に開いた小さな穴のような井戸から、手際良く、茶色く濁った水を汲み上げています。

深刻化する危機

こうした光景は、ヤハヤさん一家をはじめ、サヘル地域に暮らす数え切れないほど多くの人々にとっては、日常的に見られるもの。ヤハヤさんは、ロバを引きながら、往復2時間かけて水を汲みにやってきます。これが、飼っている家畜や生活に必要な水を手に入れることができる唯一の方法なのです。「この水が清潔でないことは分かっています。子どもたちも、たまに病気に罹ります。でも、他に何ができるというのでしょうか」ヤハヤさんはこう話します。

ヤハヤさん一家は、サヘル地域8ヵ国のうちのひとつ、ナイジェリアの北部に暮らしています。ユニセフは、サヘル一帯で、110万人の子どもたちが、重度の栄養不良の脅威にさらされていると推定しています。貧困や政情不安、清潔な水へのアクセスの欠如もその引き金となっています。しかし、ユニセフ・ナイジェリア事務所のバミデレ・デイビス・オモトラ上級栄養担当官は、アフリカの最も人口の多い国であるナイジェリアの危機は、そのほとんどが“静かな危機”であると訴えています。「ほとんど認知されていないことですが、ナイジェリアの子どもの41パーセントは、(今回の食糧・栄養危機が発生する以前から)発育阻害の状態です。このことは、何かが根本的に間違っていることを、私たちに示しています」

ナイジェリアに対する世界中の人々のイメージが、この国で実際に起こっている状況を覆い隠してしまっています。アフリカで最も豊かな油田に恵まれた国として、ナイジェリアは、マリやニジェールといった他のサヘル地域の国々とは一線を画していると思われているかもしれません。危機に見舞われているサヘル地域のひとつであるナイジェリアの現状は、ここに来て、少しずつ国際社会に明らかになりつつあります。

危機にさらされている子どもたち

© UNICEF Video
ナイジェリア北部では、清潔な水を手に入れることが難しい。人々は、毎日2時間掛けて泥で濁った井戸水を汲みにくる。

ユニセフは、ナイジェリア政府と協力して、病院や地域の中に、支援の拠点となる保健施設を設置。以前より多くの母親たちが、こうした施設を利用するようになっています。2012年に実施されたSMARTと呼ばれる調査は、全急性栄養不良率は6.4から13.1パーセントの間、重度の栄養不良率は0.7から2.2パーセントの間にあるとしています。

(こうした支援拠点の一つの)カツィナ総合病院では、数人の乳児が、深刻な栄養不良で治療を受けています。この数は、雨期の始まりとともにさらに増えるものと見られています。深刻な栄養不良の子どもは、コレラやマラリアなどの疾患に罹りやすいのです。「こうした感染症は、脳に影響を与えることもあります。全般的な健康状態を悪化させ、呼吸器にも影響を及ぼすことがあります。しかし、ここで最も一般的に見られるのは、消化器系の疾患です」乳児の治療に当たっているハヤナ・モハメッド医師は、こう説明します。

ナイジェリアは、世界で最も乳児死亡率の高い国のひとつ。7人に1人が、5歳の誕生日を迎える前に命を落としています。こうした状況を少しでも改善させるため、ユニセフは、最も厳しい状況に置かれている子どもたちの元に専門家を派遣し、支援活動を強化しています。

栄養不良との闘い

© UNICEF Video
ナイジェリアでは、7人に1人の子どもが、5歳の誕生日を迎える前に命を落としている。栄養不良が、主な原因のひとつ。

入院や外来の患者で溢れかえるカツィナ総合病院。入院治療を受けている重度の急性栄養不良の子どもたちには、特別な食事が与えられ、治療が施されています。状態が安定し退院しても、「OTP」と呼ばれる8週間の“通院”を通じて、外来治療と経過観察が続けられます。OTPは、(病院ではなく)地域の中に設置された施設で行われます。この施設では、“通院”する子どもたちには、栄養の外来治療のみならず、必要に応じて、定期的な予防接種をはじめとする他の医療サービスも提供されます。

現在、政治的な混乱に直面している隣国のマリに比較すれば、ナイジェリアの状況は、いくらか安定していると言えるでしょう。多くの人々が農業を営む北部では、そこに暮らす人々の多くは、行商のため、ニジェールをはじめ国境を接する国々との間を行き来します。しかし、そんな北部地域でも、宗教間の衝突が発生。教会や学校が襲われる状況も増えており、すでに厳しい状況に置かれていた何万もの人々の生活が脅かされています。

ユニセフをはじめとする人道支援団体は、この地域での支援を継続していますが、現地は、かなり緊迫した状態です。人々は、大きな町にできるだけ近寄らないようにしています。安全上の不安から、農民や商人の移動も脅かされる可能性があります。広大な国土を抱えるナイジェリアには、それ故に、さまざまな面で、厳しい状況も存在します。病気や貧困、栄養不良により、すでに多くの人々が命を落としています。今年10月に期待されている穀物の収穫高は増加が見込まれているものの、乾燥しきったサヘル地域の他の国々と同様、ナイジェリアも予断を許さない状況に置かれています。