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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第5報
トルコ:つらい過去と先が見えない未来の狭間に立たされたシリア難民の子どもたち

【2012年5月10日 トルコ発】

© UNICEF video
トルコ南部の学校で、絵を描くシリア難民の女の子。

シリアの騒乱を逃れてきてから14ヵ月。トルコで避難生活をおくるお母さん方が、南部・アンタクヤ郊外にひっそりと佇む家に、子どもたちのための臨時の学校を開きました。算数、英語、トルコ語、そしてコーランの授業をする声が、その家の居間や寝室に響き渡ります。また、その庭は、元気いっぱいの子どもたちが駆け回る校庭に変身しました。

故郷を破壊されてしまった多くの子どもたちにとって、この学校は、新しい日常生活のスタートです。しかし、図工室の壁に飾られている絵の中には、騒乱によって犠牲となったものを今もなお思い出させる内容のものもあります。

ある絵には、民家に向けて発砲する戦車や兵士、そして血の海と化した路上に倒れている男性の遺体が描かれています。赤いインクで傷がしっかり描かれたお父さんやお母さんを描いた絵や、子どもたちが、喪服を着ている絵もあります。

過去の重さに耐える

校長室には、3週間前にシリアから避難してきた16歳のサイードくん(仮名)が座っていました。サイードくんは、シリアにいた頃、クラスメートたちと抗議(反政府)行動に参加。行動の参加者数が増えると、彼らに向かって、銃弾が飛んできました。

「友達のひとりは、胸を撃たれたんだ。『何があったの?大丈夫?』と訊いたけれど、彼は一言も話せなかった」(サイードくん)

サイードくんが子どもの頃から仲良しだった友達2人は、重傷を負いました。サイードくんは彼らを病院へ運びましたが、治療を拒否されてしまいました。最終的に、その子の親が、シリア中で開かれている“秘密の診療所”のひとつに連れて行きました。しかし、サイードくんが友達の姿を見たのは、それが最後となりました。数日後、2人とも息を引き取りました。

トルコに逃れたこのような子どもたちを苦しめているのは、こうした重い過去だけではありません。シリアに残してきた友達や家族、親族も危険な目に遭わされてしまうのではないかという不安にも、耐えなければならないのです。サイードくんのおじさんも、最近行方が分からなくなってしまいました。

これまで起きた全てのことについて、どう感じているかと尋ねると、とサイードくんは泣き出してしまいました。

今すぐに必要な支援

マスタファ・シャキール校長先生は、全校生徒196人のうち、多くの子どもたちが困難を受け入れようと必死にもがいており、彼らの健全な将来を取り戻すためには、さらなる支援が早急に必要だと言います。

「多くの困難に直面していますが、最も深刻なのは子どもたちの精神状態です。特に、血や遺体、争いを見てしまった子は、なかなか集中することができません」シャキール校長先生はこう話しました。

海外で暮らすシリア人たちの寄付によって、本や教材、スクールバスまで揃えることができました。それでも、さらなる支援が必要なのです。

「毎日、ここには多くの記者やマスコミ関係者が来ます。だけど、何も変わりません」(シャキール校長先生)

国境沿いの難民キャンプ

トルコ政府は、着の身着のまま避難してくるシリア人たちのために、国境沿いに、難民キャンプを設置しました。

トルコ政府は、難民キャンプの子どもたちにアラビア語での教育も提供していますが、お父さんやお母さん方からは、13歳以上の子どもや大学に通えなくなってしまった学生を対象にした授業も必要だと話します。

シリアの騒乱には終わりは見えず、難民の子どもたちが直面する問題は、手付かずのままです。トルコに逃れた彼らの未来は見えない状況です。いつ故郷に帰れるのか、帰れる日が本当に来るのか、それすら誰にも分からないのです。