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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第6報
ヨルダン:出口の見えない隣国の武力衝突−心のケア支援

【2012年6月20日 ヨルダン発】

© UNICEF Jordan/2012/Bruere
ユニセフのパートナー団体のNGO、NHFがヨルダンで運営する心理社会ケアプログラムに火曜アムジャッドくん(仮名・8才)は、グループカウンセリングや知育ゲーム、図画工作などのクラスに通っている。

夫のアボッドさんが武装勢力によって拉致され、リームさんと6人の子どもたちは、今年2月、シリア南部の自宅から隣国のヨルダンに逃れてきました。リームさんの子どもたちは、その時、一番下の子が5歳、一番上の子は18歳でした。

「初めてヨルダンに来たときに、子どもたちは怖がって、とても不安そうでした。」「父親を連れて行った車と似たような車を見ると、泣き叫んでいました」 リームさんは、当時を振り返ってこう話してくれました。

ヨルダン北部の国境を越え、バシャブシェの一時滞在所で暮らして始めてから数ヵ月。リームさんは、身の回りの状況が徐々に改善されはじめていることに気がついていました。子どもたちは、ユニセフのパートナー団体のひとつ、ノア・アル・フセイン財団(NHF)が運営する心理社会的支援プログラムと、(心理的な)治療を目的に実施されているクラスに通っています。こうしたプログラムやクラスでは、グループカウンセリングや教育的なゲーム、工作、お絵かきなどが行われています。

シリアの数万人もの子どもたちとその家族は、シリアで続く暴力の連鎖から、近隣のヨルダンやレバノン、トルコ、イラクへの避難を強いられているのです。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、こうした国々では、現在約7万8,000人が難民登録されており、その数はヨルダンだけでも2万4,000人以上に上ります。

暴力の影響を受けた子どもたち

ラムサで活動するNHFの教師のハナア・アル・ゾウディさんは、難民の子どもたちから、シリアで経験してきたことを直接聞くことがあると言います。「一番小さな子でも、さまざまな武器を見分けることができます。3歳の子がいるのですが、武器と思われるものを見ると、『僕たちを殺しにくる。殴りにくる』と泣き出してしまいます」

「他の子どもたちも、家が焼失してしまったことや近親が殺されたことなど、自分たちの家庭に起きたことを話してくれます」とゾウディさん。しかし、時間をかければ、子どもたちは何かを見て怖がったりすることもなくなり、また笑ったり、笑顔を見せ始めると、ゾウディさんは語ります。「大きなチャンスがあるのです」

この施設の他の子どもたちと同じように、リームさんとアボッドさんの子どもたちも、教育を続けられるようになりました。シリアでは、街中で多発する暴力や騒乱により、子どもたちは、家から出ることもできず、何ヵ月間も学校に通うことができませんでした。アムジャドちゃん(8歳)は、ラムサにある公立の学校に通っています。友達もできて、勉強やサッカーを楽しんでいると話してくれました。

「アムジャドちゃんたちは、(心理)治療クラスに参加しています。ですから、この学校は、(他の一般の学校と比較して)通いやすいと思います」「(異国の)ヨルダンの学校に通うことを、とても楽しんでいます」(リームさん) NHFは、一時滞在所にいる子どもたちのために、地元の学校までの通学バスも走らせています。

「子どもたちにとって、ここでの生活はずっと過ごしやすいようです。眠ることも出来ていますし、安心しているのです。シリアでは、爆弾が爆発する音がよく聞こえていました」 リームさんはこう話しました。

ユニセフ・ヨルダン事務所のドミニク・ハイド代表は、暴力や政情不安によって、子どもたちは精神的な苦痛に非常に苦しめられていると話しました。「しかし、協力的な環境での学習や遊びを通して、子どもたちは、日常の感覚を再び取り戻し、回復していくのです」

リームさんは、現在19歳になる上の子どもがひとり出て行ってしまいましたが、残った他の家族は、ヨルダンに落ち着くことになるだろうと話しました。「状況は、もっと悪くなると思っていましたけど、ここには避難生活を送れる場所もありますし、子どもたちは学校に通うこともできます。ですから、状況はよくなっていると思います」(リームさん)

政府が運営するバシャブシェのこのセンターは、旅券等の法的な文書を持たないままシリアから逃れてくる人々に、一時的な滞在場所を提供する場所です。収容能力が最大500名。最近、新たにこうした一時滞在場所が、作られたばかりです。

継続する支援

ゾウディさんは、昨年の12月、ラムサで、NHFが心理社会的な活動と(心理)治療クラスを始めた時は、多くの子どもたちが活動には参加せず、気乗りしない様子だったと話しました。そのため、NHFのスタッフが、各家庭を訪れ、活動の内容を説明して回り、子どもたちの参加を促しました。
グループワークや活動を共有することに重点を置き、無理のない励ましや促しも手伝って、子どもたちは徐々に活動に参加しはじめ、友達を増やしていきました。現在、毎日約100人の子どもたちが参加しています。NHFのスタッフは、新たに避難してきた家族の元を訪れ、こうした活動が利用できることを伝え、子どもたちの利用を促す活動も継続しています。

一時滞在所を離れなければならない時がきても、必要があれば、NHFや他の人道支援団体を通して支援を受け続けることができます。また、NHFは、ユニセフの支援を受けて、ラムサのサイバー・シティ避難所で、避難を余儀なくされたシリアの子どもたちのために、心理社会的な活動と治療的な教育活動を提供しています。

※注:登場人物の名前は、全て仮名。