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No.27
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世界のニュース(3)

エイズとともに生きる子どもたちの心の傷をいやそう
〜タイのアートプロジェクト〜

(C) UNICEF Thailand/2006/Thomas
エイズとともに生きる子どもたちの描いた絵を見るナーネ・アナンさん

15歳のインさん(本当の名前ではありません)は、ステージにあがるまえ、大きく息をすって、顔につけたマスク(お面)をしっかりとおさえました。このマスクは、インさんの緊張をおさえるだけではなく、顔をかくすこともできます。

インさんをはじめ、ステージに立つタイの15人の子どもたちはエイズとともに生きています。今、舞台に一列にならび、マスクを顔につけると、見に来た人びとの方へふりかえりました。「私はだれ?なぜ私はここにいるの?」というのが、この展覧会のテーマです。HIV/エイズとともに生きているタイの子どもたちがかかえている差別の問題をとりあげています。この展覧会はユニセフのサポートプロジェクトのひとつとして行われました。

若い俳優やエイズとともに生きる10人の子どもたちで作られた、50作品以上の絵や写真が飾られました。これらの作品やおしばいは、2006年のはじめに開かれたワークショップに参加してくれた10歳から16歳の子どもたちによって作られたものです。

2006年5月にバンコクで開かれたこの展示会では、多くの人びとが訪れました。その後、国内の3カ所の地域でも展示されます。このイベントは、人びとにHIV/エイズについて知ってもらうための良い機会になるでしょう。

公務でタイに訪れていた、国連事務総長コフィ・アナンさんの奥さんであるナーネ・アナンさんは、この展示や劇にかかわっている子どもたちをたずねました。劇の最後に、子どもたちはナーネさんへの敬意をこめて観客の前で初めてマスクをはずしました。

「マスクをあげて、みんなの素晴らしい顔をみせてくれて、本当にありがとう」ナーネさんは深く心をうごかされたようすでそう言いました。「これからみなさんと、この劇のことについて、みなさん自身について、話をしていきたいわ」。

「私たちみんなが自分自身をみつめなおし、エイズとともに生きる人たちにむけての偏見や差別をどうやって解決すればいいのかを考えなくてはならないということを、みなさんは教えてくれましたね」。

(C) UNICEF Thailand/2006/Thomas
エイズとともに生きる子どもたちは自分たちがかかえている差別の問題について、劇で表現しました

子どもたちはナーネさんに自分たちが体験した差別について話しました。ある女の子は先生に、学校でスポーツをして遊ぶことを許してもらえなかった体験を話しました。「けれども、スポーツ大会では金メダルをとったのよ。私はHIVに感染している子どもだって、ほかの子どもたちと同じなんだって知ってもらいたいの」。

ユニセフ・タイ事務所代表のイネーズ・ザリテイスさんは、「劇や、ほかの芸術的な活動は、自分を大切にする心や他の人たちに気持ちを伝える手助けになります。どんな子どもたちであっても、みんなおなじように楽しむ権利があるのです」と話しています。

タマサート大学のパニタ・タパナンクル先生は、このプロジェクトで、子どもたちもかわったと話しています。「芸術的な活動をするということだけではなく、子どもたちの恐怖や不安、人びとに自分は受け入れてもらえないのではないかという気持ちがおさえられたのではないでしょうか。今、子どもたちの瞳は将来への希望や自信であふれています」。

お母さんをエイズでなくしたインさん。彼女も自分自身の心の変化に気付いたようです。そして、こういったチャンスにめぐりあえたことを喜んでいるようです。「信じられないくらい素晴らしい気持ちになれたし、希望を与えてくれたの」。

インさんは、お母さんはHIV陽性だと知ったとき、とても怒りました。そして自分の部屋にカギをかけて閉じこもってしまいました。どうすればいいかわからなかったからです。

「だけど今、家族に感謝したい。これまで、私を愛してくれて、サポートしてくれたことに…。もうエイズとともに生きることを恐れたりはしない。だって、私には支えてくれるたくさんの人がいるってことがわかったから」。

インさんとエイズとともに生きるタイの子どもたちが、マスクをはずして生きることができる日がやってくるのは、それほど遠い未来のことではないはずです。

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