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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

レバノン帰国報告会 「紛争が子どもたちに残した傷跡」

■日時 2006年9月25日(月) 13:00〜14:30
■場所 東京・港区 高輪ユニセフハウス
■主催 (財)日本ユニセフ協会
■報告 平林 国彦 氏
ユニセフ東京事務所シニアプログラムオフィサー(前ユニセフ・レバノン事務所 保健栄養部臨時チーフ)

レバノンという国

レバノンは地中海の東端に位置し、東と北はシリア、南はイスラエルに国境を接しています。人口は約400万人といわれていますが、政治的な理由により長い間人口調査が実施されていないため、現在の正確な人口はわかりません。このほかに1,500万人が国外に住んでいます。また、国内には36万人のパレスチナ難民が住んでいて、キャンプが形成されています。面積は群馬県と埼玉県を足した程度の小さな国。各宗教間の微妙なバランスの上に成り立っている国で、1970年代からたびたび紛争を経験し、90年にようやく停戦が合意されました。観光産業が盛んで中東のパリと呼ばれると同時に、金融業が発達しているため、中東のスイスとも呼ばれています。

レバノン・イスラエル紛争

2006年7月12日、ヒズボラの兵士がイスラエル領内に侵入し、2名のイスラエル兵を拉致したことを発端に紛争が勃発しました。イスラエル側はヒズボラ支配地である南部の幹線道路や橋、発電所、テレビ局、携帯電話の基地局、水道施設を攻撃しました。また、陸・海・空の交通を封鎖し、南部に侵攻。国境沿いの町は多くの建物が破壊されました。イスラエルによって破壊された火力発電所からオイルが漏れ、ベイルートの港ではいまだにオイルが残っています。

レバノン政府などの発表によると、この紛争のために双方合わせて約600名の兵士が死亡し、さらにレバノン側では1,187人以上の市民が死亡、約3,600名が負傷しています。イスラエル側では44名の市民が死亡し、約3,600名が負傷しましたが、その約40%が子どもでした。戦争は子どもたちの未来を壊す、意味のないことだと思います。(数字はすべて非公式)

緊急事態下のユニセフの活動

8月11日に国連安全保障会議で停戦決議が採択され、両国政府もこれを受け入れましたが、14日の発効直前の2日間にイスラエル側は集中的な爆撃を行い、たくさんのクラスター爆弾が落とされました。クラスター爆弾は爆弾の中に爆弾があり、それらが広範囲に広がりますが、その10%は不発弾になるといわれており、100万個が投下されたとされているため、10万個が不発弾として残っていることになります。オレンジやバナナの木に引っかかり、収穫しようとした農民が被害にあう例や、ボールのような形なので子どもたちが遊んでいるうちに爆発することがよくあります。また、農業を手伝っている若者も被害にあっています。ユニセフでは10万枚のリーフレットやポスター1万枚、テレビスポットを製作し、啓発活動に取り組んでいます。

また、学校の中に不発弾が残されていたり地雷が埋められたりしているので、学校をはじめるのも簡単ではない状況です。

特に南部では、家屋の破壊はもちろん、学校の近くに爆弾が落ちて破壊されたり、施設が破壊されたりしています。医者や教師が逃げているので、医療や教育サービスも途絶し、住民が元に戻りにくい状況になっています。水・教育・保健医療サービスを再建しなければ、人々は戻ってくることができません。そこで、ユニセフは破壊された貯水槽や学校の再建を行い、地域住民や子ども達が早くこの地域に帰って来られるように活動しています。爆風で破壊された保健施設も世界保健機関(WHO)と協力して再建に取り組んでいます。

様々な人々から、被災地の赤ちゃんのために粉ミルクの寄付があります。しかし、粉ミルクは適切なものではありません。粉ミルクを作るのに必要なきれいな水、水を温めるための燃料の確保が被災地では非常に難しい。また、赤ちゃんにミルクを与えるにはきれいなほ乳瓶も必要ですが、きれいな水の確保が難しいためほ乳瓶を清潔に保つことも難しいのです。このような状況下で赤ちゃんに粉ミルクを与えても、下痢を起こして栄養失調になってしまい、かえって状況の悪化を招いてしまいます。これらの理由から、被災地への粉ミルクの援助は非常に大きな問題になっています。

そこでユニセフは母乳によって赤ちゃんに栄養を与えることを推進しています。母乳はきれいな水や温める必要もなく、消毒をする必要もありません。簡単かつきちんと栄養が確保できるため、このような状況下では母乳を推進することが非常に重要です。

そのほか、約2万人の避難民の子どもにはしかの予防接種を、約9,000人の避難民の子どもたちにポリオワクチンやビタミンAを投与。必須医薬品や石けん・おむつ・タオルなどの子ども衛生キット約1,000キットを配布しました。また約50万リットル分のボトル入りの水を配布し、貯水タンクを避難所に設置しました。

紛争は子どもたちに、恐怖と喪失感、不眠などのストレスを残し、それは今も続いています。表面上はわからないものの、1年も2年も続く問題であり、慎重にフォローしなければなりません。

復興期のユニセフの活動

まずユニセフは、バック・トゥ・スクール・キャンペーン(学校に戻ろうキャンペーン)を10月中旬から行います。政党や宗教の違いなど、様々な価値観の違いから人々が協調することは難しいものですが、教育の場である学校は、そのような違いを気にせず協調して行動できる唯一の場所です。学校は平和の象徴であり、学校の再建は復興の第一歩を示すことができるのです。

また、このキャンペーンの良い点は全国均一にできるということです。戦争の影響でレバノンの南部に注目が集まっていますが、貧しい人々は北部に集まっています。インフラを整えるなどの支援だけを行おうとすると被害の大きい南部に集中してしまい、国内の経済格差を助長してしまいます。北部にも焦点を当てるという点で、全国均一に実施できるこのキャンペーンは重要です。

教科書代などを補助し、経済的な負担を軽減することも重要です。家を破壊された人々は他の親類の所に集まり、ひとつの家に5家族以上が住むような事態も起きるため、経済的な負担が非常に大きくなるからです。このように避難民が親類を頼る傾向はレバノンの文化的特徴でもあります。

キャンペーンの成果として大事なことの一つに、子ども達に安心して遊べる場を提供できるということが挙げられます。至るところにまだ不発弾が放置されているからです。学校を通して、下痢や食中毒の予防法、喧嘩をしないで問題を解決する方法など、ライフスキルにもとづく教育を行い、子どもたちの健康維持やストレスの軽減ができます。これらの利点から、ユニセフはバック・トゥ・スクール・キャンペーンを開始する予定です。

また、子どもの保護の分野では、不発弾・クラスター爆弾に関する啓発活動を続けます。不用意に触って命を落とさないように、ポスターやパンフレットなどによって不発弾に関する知識を与えています。またテレビスポットも出しています。

きれいな水の確保という点では、すべての家族に1人分1日1.5〜2リットル分のボトル入りの水を配っています。また、このボトルに不発弾に関するポスターと同じ内容のラベルを貼って、不発弾の啓蒙を同時に行っています。今後は、特に南部で貯水槽や上水道施設の補修・再建をしなければいけません。難しい問題であるため1〜2年で終わらせることはできませんが、できるだけ早い再建を目指しています。

また、保健システムが機能していないため、定期予防接種事業を再開させることを目指しています。そのために、ワクチンを保存するための冷蔵庫の整備やワクチンの供与、人材の育成を行います。そして全国で麻疹・ポリオの予防接種をやり直します。また、もっとも重要な母乳育児の推進を中心に保健活動を行っていきます。

質疑応答

Q:他の国連組織とはどのような協力をしていますか?

A:「クラスターアプローチ」というものが採用され、各分野ごとに活動が重複することがないように調整を行いながら、さまざまな分野ごとに各国連機関やNGOなどが一つの共同体を作って支援にあたっています。例えば保健のセクターであれば、世界保健機関(WHO)が主導していますが、ユニセフや世界食糧計画(WFP)も参加して支援を行っています。WHOは保健分野の中でも予防接種以外の活動を行い、ユニセフが予防接種を行っています。食糧支援についてはWFPが指揮をしています。子どもやおとなの保護については、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が中心となってシェルターなどの配給を行っています。水の分野は、ユニセフがリーダーとなって、主にNGOと協力して支援を行っています。不発弾処理は国連の不発弾処理専門の団体が中心となって行っています。

Q:NGOとの連携はどのように行われていますか?

A:特に紛争終結後のNGOの役割は非常に大きいものです。機動性の確保という点で、NGOとの連携なしに復興活動は行えません。そのため、今ではクラスターの中にNGOも入って主要な役割を果たしており、特に保健の分野ではすべてのサービスをNGOが行っています。国連は、サービスに必要な衣料品や資金をNGOに支援するという形をとっています。
  ただし、NGOに関しても課題はあります。緊急支援のような短期的活動はできますが、復興期に入ると資金的問題等から持続的な活動が困難になるケースが多いため、この問題に関する調整も行っています。

Q:避難民の現状をどのように把握していますか?

A:ホストファミリーの中にずっといる避難民もいれば、住んでいた場所に一時的に戻る避難民もいて、人の流動性が高く、現状の把握は困難です。現状を把握するためにも我々は世帯調査を行う必要を感じており、ユニセフと国連人口基金(UNFPA)が中心となって調査を計画しています。ですが、レバノンでは人口は政治的にセンシティブな問題なので政府との調整が容易ではありません。それでも家屋ごとにインタビューを行い、家屋ごとの状況や国としての優先事項を把握していかなくてはいけません。

Q:就学前の子どもたちや小さい子どもを抱えた母親に対する支援は行っていますか?

A:就学前の子どもたちにははしかの予防接種を計画しています。また、幼稚園などの施設を通してストレスの低減や教員の能力育成などの支援を行っています。特に保健や子どもの保護の分野において、就学前の子どもに対する支援を行おうと考えています。
  母親への支援は非常に大事です。アフガニスタンやパキスタンに比べると非常に女性に近づきやすい国ですが、それでも女性にインタビューを行うことは簡単ではありません。おとなの男性と女性のニーズは大きく異なっています。女性を集めてインタビューを行い、家が破壊されたことなどが原因でうつ病を患っている母親が多いことがわかりました。一家の中心である母親がうつ病になってしまうと、その家族にも大きな影響を与えるため、NGOと協力して、母親の精神的サポートを行うパイロットプログラムを特に南部で行っています。

Q:戦争によって、恐怖や憎しみなどといった感情はどれだけ強まったのでしょうか?

A:特に若い世代で、非常に憎しみが強いことは間違いありません。そのため、逆にこの世代をどのようにコントロールするかが将来の紛争に対する予防になると考えています。ユニセフではなるべく若い世代へ重点を置いた若者参加型の復興を提言しています。若い世代が、報復ではなく和解への一歩を踏み出せるような支援を考えています。
  学校に戻ろうキャンペーンや学校で行われる予防接種事業においても、できるだけ若い世代のプログラムとして行い、成功体験を得ることによって、若者がストレスや憎しみを軽減できると考えています。また、学校を基盤にしたカウンセリングにも力を入れていきたいと考えています。非常に重要な問題で、若い世代の考え方が変わることなしに、次の紛争を防止することはできないと考えています。

(写真:© 日本ユニセフ協会)

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