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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

ユニセフ東ティモール報告会
「混乱の中の国造り」

■日時 2006年10月2日(月) 14:00〜15:30
■場所 東京・港区 高輪ユニセフハウス
■主催 (財)日本ユニセフ協会
■報告 ピーター・ニンネ 氏
ユニセフ東ティモール事務所 教育担当官

東ティモールの現状

東ティモールは非常に小さな国で、インドネシア、そして南はオーストラリアと国境を接しています。ティモール島のおよそ半分が東ティモール。首都のディリには4月の政変が起こるまで約17万人の人口がいました。山岳地帯が多い国で、周囲を海に囲まれています。

2006年4月、政府軍と軍を解任された一部兵士らによる反乱部隊との衝突により、政府や各省庁の機能が停止。ディリを中心に略奪や焼き討ちが発生しました。しかし、衝突のレベルは1999年の東ティモール独立のときと比べればそれほど深刻なものではありませんでした。

政府の機能は少しずつ回復してきていますが、特に首都ディリやその周辺で、多くの人が家を失い、あるいは自ら家を捨てて避難民としての生活を送っています。たとえばディリでは、ほとんどの小学校が3カ月間機能しておらず、小学生3万人と中学生1万人が3カ月もの間、教育の機会を奪われています。

現在、ディリの総人口数は把握されていませんが、周辺地域から避難してきた人を含めると、およそ10万人にのぼります。そのうちディリの収容所やキャンプでの生活を余儀なくされている人は7万人。また、避難民の45%は14歳未満の子どもたちであると推定されています。

現在は国連警察部隊が派遣され、武力衝突は収まりましたが、治安状況は依然として悪く、略奪や焼き討ちは今でも日常的に起きています。治安状況が回復せず、安心して家にいることができない人々が避難民キャンプに避難しているため、この2〜3カ月の間も避難民の数は少しずつ増えています。また、自宅が焼き討ちの被害にあい、帰りたくても帰れないという状況もあります。さらに、最近ではギャングの数が増え、そういったグループの中に若い子どもたちや、青年が巻き込まれているということが大きな問題になりつつあります。東ティモール政府は、“Simu-Malu”と呼ばれる和平プロセスを始め、子どもたちが生まれ育ったコミュニティに戻るための活動を始めています。“Simu-Malu”とは、現地語で「お互いを受け入れよう」という意味です。

ユニセフの支援活動

教育

4月から5月にかけて混乱が生じた際、ユニセフが最初に行った主な支援は、安全な飲料水や適切な衛生環境、トイレなどを避難民に提供する活動でした。また、東ティモールではまもなく雨季が始まり、マラリアなどの水を媒介とする病気の発生が予想されることから、その対策を講じる必要もあります。

9月の新学期の始まりにともない、教育状況について簡単な調査を行った結果、首都ディリでかろうじて学校として機能しているのは全体の3分の2程度、残りの3分の1はまだ学校としての機能を回復していませんでした。校舎が完全に破壊され、略奪の被害にあうなど治安が未だ確保されていないために子どもたちが学校に戻りたがらないという理由から、学校の再開は困難です。また、多くの人々が以前住んでいた所から別の場所へ移動したため、ディリ周辺地域の学校では子どもの数が増えすぎてしまい、十分な教育を提供できません。さらに、避難民を受け入れてきた家も小学校も、本来の収容能力を超えているため、衛生状況の悪化も懸念されています。

教育分野においては主に二つの調査を行いました。一つは避難民キャンプで子どもが教育を受けられているか、もう一つは校舎は使用可能な状況にあるのかについて調べました。この調査結果をもとに、教員の研修プログラムを作成。プログラムでは、子どもだけでなく先生を含めた心のケアを重要な要素と位置づけています。というのも、暴力が蔓延する環境下で過ごしてきた子どものトラウマ(心的外傷)の進行を予防する必要性があるからです。

避難民キャンプは、大きな小学校や大学、修道院などで多く見られます。カトリック系の小学校に避難してきた子どもたちは、宗教関係者の支援により一時的に教育を受けることもできます。一方、空港の近くや首都から離れたところで、テントだけを立ててキャンプを形成している地域でも教育を受けることができるよう、ユニセフは努力しています。スクール・イン・ア・ボックスなどを配布し、緊急事態下でも子どもが教育を受けられるように支援しています。

保健・栄養

今回の治安悪化による一番大きな影響は、首都ディリに住んでいた多くの人々が郊外の親戚などの家に身を寄せていることです。避難してきた人を受け入れている家では、乾季が終わりに近づくにつれ、食料不足が懸念されています。

緊急支援が開始されて以来、東ティモール政府を中心として、国際機関やNGOなどさまざまな組織が活動していますが、ユニセフはその中でも主要な役割を担っています。ユニセフは、避難民キャンプの子どもたちの教育や衛生状態、保健や栄養状態などの状況把握を迅速に行い、政府や子どもの福祉を担当する関連省庁にスタッフを派遣し、各分野での支援活動にアドバイスしています。

栄養や保健の分野では、はしかの予防接種とビタミンAの配布を行い、子どもたちの栄養調査を実施しました。母乳育児のほか、効果的な母子保健の推進にも取り組んでいます。

保健衛生分野におけるユニセフの主要活動の一つは、安全な飲料水と衛生環境の確保です。ユニセフは給水タンクや各家庭への飲料水の提供、ゴミ処理などの活動を支援しています。ディリには現在60カ所の避難民キャンプがあり、ユニセフは60カ所すべてのキャンプの汚水を回収・処理する作業なども行っています。

子どもの保護

子どもの保護については、フォーカルポイントとなる人材をキャンプに配置し、各キャンプで、子どもに対する暴力行為や子どもの権利が脅かされるような状況を発見した際、すぐに警察や社会福祉の関連省庁に報告できるシステムを作っています。

また、HIV/エイズの広がりが懸念されるため、若者や子どもたち同士でHIV/エイズの危険性について学べる教育を支援したり、そのほかにもスポーツ、演劇など、若者が若者らしく、子どもが子どもらしく活動できるような場を作る支援を行っています。

治安悪化によりメディアも機能停止に陥ったため、正確な情報を得る手段が失われました。人々がありもしない噂によって不安を抱き、さらに地方に避難するなどの事態を防ぐため、ユニセフは、避難民キャンプの中に掲示板を作ったり、コミュニティラジオを開設し、子どもたちの状況や、現状を正確に伝える活動をしています。


復興期の支援

緊急支援にはさまざまな形態がありますが、東ティモールのケースはコンプレックス・エマージェンシーと呼ばれています。たとえばスマトラ沖地震・津波やジャワ島地震では、ある一点で地震が発生し、それによる被害に対して支援を行います。一方、東ティモールの場合は、政府は機能を回復し始め、復興計画も立てられましたが、その計画は効果があるのか、状況を改善することができるかどうかについては、現段階ではまだ分かりません。

ユニセフははしかの予防接種キャンペーンを実施してきましたが、他の予防接種を含め、今後全国でキャンペーンを展開していく上で様々な困難が予想されます。また、学校や避難民キャンプを中心にした安全な飲料水や衛生設備、子どもの栄養状況の改善も継続的な課題として残されています。

教育分野では、新学期にあわせてバック・トゥ・スクール・キャンペーンを展開。子どもが安全に学べる状況にある学校に対しては、必要な建設資材の提供や教員に対する研修を行っています。学校に子どもたちが戻る動機づけになるよう、文房具入りの通学用バックの提供もしています。東ティモールの小学校の多くは車でアクセスできないところにあるため、時には30キロ以上の道のりを人力車や馬を使いながら学校資材を運んでいます。

支援活動に必要な資金確保のため、国連機関が合同で国際社会に対し資金援助のアピールをしました。6月〜9月の3カ月間に必要な資金として、ユニセフは340万米ドルの支援を求めました。この要請に対し、日本政府からの150万ドルを含め、各国政府やユニセフ各国内委員会から430万ドルの資金援助が表明されました。しかし、今後も避難民の帰還や雨季の到来による子どもたちへの影響が懸念されており、また、2007年5月開催予定の総選挙を控えて、国が再び不安定な状況に陥る可能性もあり、これからも多くの支援が必要です。

ユニセフは通常3〜5カ年計画で支援を行っています。政治的混乱が発生する前に策定された計画では、東ティモールの支援は2007年末までとなっていますが、2006年の緊急事態に対する支援活動が2007年以降もしばらく続くことを予想し、当初の計画を2008年まで延長し、緊急支援を元来の活動の一部に組み込む準備を進めています。

【Q&A】

Q:4月の危機以降、国連の東ティモールへの関わりはどうなりましたか?

A:国連の中心的な役割は、東ティモール政府の人材育成、2007年に実施される総選挙をきちんと行えるようにするための技術支援などです。ほぼすべての国連機関が人員を増やしており、ユニセフの場合、危機発生前の50人規模の体制から、今回の危機を受けてスタッフの数を100人ほどに増やしています。

Q:若者に対する平和のための教育について。

A:2002年の独立後に国家が取り組むべき課題について国民調査が行われ、保健・医療と教育が課題として特定されました。この課題についてユニセフは、小学校の教育ガイドライン作りや先生の研修などの活動を支援しています。その中でもユニセフが重視していたのが、民主的な社会の中で責任ある役割を果たせる人作りです。物事を話し合いで解決していく方法を身につけられる教育を行うことを目的としています。民主的な社会の中で責任ある役割を果たせる人を作る教育という、長期的な取り組みです。

 

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