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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

ユニセフ報告会
『子どもの命を守る方程式』
−アフリカで成果を上げるユニセフの包括的保健戦略−

■日時 2006年10月16日(月) 14:00〜15:30
■場所 東京・港区 高輪ユニセフハウス
■主催 (財)日本ユニセフ協会
■報告 國井 修 氏
ユニセフ本部 保健戦略シニアアドバイザー

1・ミレニアム開発目標4

今日はミレニアム開発目標の4についてお話します。これは、子どもの死亡率を1990年に比べて2015年までに3分の2減らすという目標です。ある国で1,000人子どもが生まれて、そのうちの300人が5歳になるまでに死んでしまうような国があります。そういう10人のうち3人の子どもが死ぬような国があったら、2015年までに1人に減らすという目標です。この目標4に向けたユニセフの戦略と実践、そして課題についてお話します。

シエラレオネという国全体の死亡率を表した“死亡ピラミッド”を見てみると、0〜4歳までにたくさんの人が死んでいます。そして、5歳以降に死ぬ人が急に少なくなります。これを先進国と比べてみると、例えばデンマークでは0〜4歳ではほとんど死なず、年齢が高くなるにつれてより多くの人が死んでいきます。つまり本来、人は0〜4歳で死んではいけないのです。

シエラレオネの平均余命は40歳、日本の半分以下です。平均が40歳ということは、もっと早く死んでいる人もたくさんいるということですね。本来だったら死ななくて良い年齢でたくさんの人が死んでいます。このような本当は死ななくても良い人の命を救いましょう、ということが、今ユニセフが取り組んでいることです。

0〜4歳の子どもの死は、死ななくてすむ、予防可能で治療可能な病気が原因であることがほとんどです。そして、それらを予防したり治療する手段が30くらいあることがわかっています。今現在、年間1,050万人、1日あたり3万人の子どもが死んでいますが、サービスをきちんと行い、その国の90%以上に広げていけば、そのうちの66%、数にして660万人、1日あたり1万8,000人以上は死ななくてもすむのです。ユニセフは150以上の国と地域で色々な活動を行っていますが、とくに60カ国に子どもの死亡の90%近くが集中しています。これらの国々にとくに目を向けて、全国的な予防や治療の展開をしていけば、これだけ多くの人が救えることになります。

しかし、こういった活動をするにはお金が必要です。追加資金として51億ドル、5,000億円ほどが必要とも言われています。例えば長崎県の一般会計が7,000億円ですから、ひとつの県の一般会計分のお金があれば、世界の子どもたちが十分救えるのです。

© UNICEF/HQ05-2136/Giacomo Pirozzi

ただし、99%のカバー率というのはとても大変なことです。なぜなら本当の意味でサービスがカバーできたというためには、まずワクチンや薬などが全ての地域に届かなくてはなりません。また、ワクチンを打ったり患者さんを診る保健・医療人材−医師や看護師、保健師、村の保健員−が必要ですが、絶対的に少ない状況です。人材がいたとしても今度はサービスへのアクセスが悪い。例えばネパールではヘルスポストと呼ばれる場所が全国に800箇所くらいあり、そこには薬や看護師も揃っています。しかし、そこに行くまでに歩いて1日がかりということもあります。さらに、サービスへのアクセスがあるからといって、必ずしも皆が利用するわけではありません。例えば、HIVで大変な国がアフリカにはたくさんありますが、コンドームが容易に手に入るにも関らず、それを使うのは男として恥だと言って使わない国がたくさんあるのです。ですから、一般の人の意識を変えていくことが重要です。

また、例えば予防接種や妊産婦検診は、1回だけでなく、何回か受けないと意味がないというものがあり、それを受け切らなければきちんとしたサービスを受けたとはいえません。きちんとした保健医療サービスが提供されていない場合もあり、サービスの質も問題のひとつです。5歳未満の子どもの死亡を減らすためにはこれらすべてに対処しなければならず、大変長い道のりがあるのです。

さらに、僻地や非常に貧困な家庭、スラム街の奥地など、サービスを必要としている人々がいる場所に政府のサービスが行き届かないことがあります。1日に死亡する約3万人の子どものうち、9割は自宅で死んでしまいます。良いお医者さんがいて、良い薬が診療所にあっても、そこに行き着く前に人々が死んでいるのです。ですから、このような人々にどのようにしてサービスを届けるかということが別の問題として重要です。

© UNICEF/HQ02-0298/Giacomo Pirozzi

8つのミレニアム開発目標の中で、1番目の目標−極度の貧困と飢餓の撲滅−が非常に重要です。ほとんどの目標は、「1990年に比べて2015年までにこうしましょう」という数値目標です。例えば極度の貧困については、1日1米ドルで生活している貧困者の割合を半分にしましょう、栄養不良については、例えば栄養不良の子どもの割合を半分にしましょう、ということです。そのほか、初等教育や男女格差、そして5歳未満死亡率の3分の2削減、妊産婦死亡率の4分の3削減、HIV/エイズやマラリア、結核などの感染症抑制を掲げたミレニアム開発目標4、5、6が保健医療に直接結びついています。このように、保健医療はミレニアム開発目標の中で非常に重要な位置を占めています。 サハラ以南のアフリカでは1990年に1,000人の5歳未満の子どもの中で155人が死んでいました。2015年の52人というターゲットに向けて死亡率が減っていかなければならないのに、1999年の時点では160人と死亡率が上がってしまっています。このままでは、

サハラ以南のアフリカは2015年に目標を達成することはできません。他の地域、例えばヨーロッパや中央アジアは目標どおりの道をたどっており、このまま行けば確実に目標を達成できる見込みです。先進国は子どもの死亡率がぐっと下がっていて、目標の3人に余裕で届くことが予想されます。南アジアは121人から40人まで下げなければならないのですが、目標達成は少し難しい状況です。すなわち、南アジアとサハラ以南のアフリカの2つの地域が重要で、特にサハラ以南のアフリカをどうにかしないと、このままでは目標が達成できないということになるのです。

2・UNICEFの戦略

「では、この目標を実現するためにはどうすれば良いか」ということで、ユニセフの保健医療、特にミレニアム開発目標4を達成するために必要な中心戦略を私がまとめました。サービスの選択と統合、そしてそれを全国的に展開し、モニタリングや分析・評価を行い、それを政策に反映させ、これらを実現するために色々な開発パートナーと一緒に強力なパートナーシップを組んでいくというものです。

1番目の介入・サービスの選択は、優先順位をつけ、効果的なサービスを選ぶということです。途上国では保健・医療の予算が少ないにも関らず、大きな病院を作ったり、高い治療費を要する治療にお金を使うことがあります。本来はお金が少ないので、費用対効果が高い、たくさんの子どもが救えるものに目を向けてほしいのですが必ずしもそうでない。それは、田舎よりも大臣などが住んでいる首都を中心に整備していくことが多いからです。ですから、選択をきちんとして効果的なサービスを選びましょう、と呼びかけるのです。

子どもは成長していく中で色々な病気にかかるため、継続的なケアが必要です。最近は、生後1カ月までに死亡してしまう新生児死亡がとても多く、5歳未満で死亡する子どもの約3割を占めています。生まれたての小さな子どもを救わなければなりませんが、多くの場合、子どもは病院ではなく自宅で生まれています。病気になって、死亡寸前の段階で病院に連れてこられる場合もあるため、本当に早い時期にこのサービスを提供しなければなりません。生まれてきてからでは遅く、子どもが生まれる前、妊娠している間からお母さんの健康や分娩、妊娠中のお母さんの生活などが重要になるのです。このように継続的なケアが必要になります。

一例を挙げると、例えば破傷風の予防接種や母親のHIVの感染予防、母乳育児、子どもの死亡率を20%も下げることができるマラリアを媒介する蚊を防ぐ殺虫剤処理済みの蚊帳や安全な水の使用、亜鉛や免疫力を高めて下痢や肺炎などによる死亡を減らすビタミンA補給、Hibワクチンなどの予防接種など、重要なものがたくさんあります。

ユニセフは“パッケージ化”ということをよく行います。さまざまなサービスをバラバラに行うとお金も人も時間もかかるため、パッケージにしてなるべく効率よく行おうということです。例えば「拡大予防接種プラス」は、予防接種のときにビタミンAも一緒に補給しましょうというものです。“妊産婦ケアプラス”は、産前検診のときに破傷風の予防接種を行い、マラリアが非常に多い地域においては検査をせずに薬をあげてしまいます。検査自体にお金も時間もかかること、副作用もほとんど無いため、ある程度の集団ではかえって薬をあげてしまった方が貧血などを防ぐことができ、お母さんが子どもを産むときに死亡する数も減り、お母さんがマラリアにかかることによって子どもの発育が遅れることもかなり防げるからです。さらに、子どもを産んだあとにビタミンAを与えることによって、母乳から赤ちゃんにビタミンAが行き、免疫力が上がり、肺炎や下痢症で死亡する率が下がります。

子どもの病気の中で特に死にやすいものがマラリア・肺炎・下痢症・はしかです。こうした病気によって病院に来る前に死亡しているため、コミュニティの保健員ができるだけ早くこれらの病気の兆候を示している子どもを見つけ、病院に連れて行きます。ですが、病院に連れて行く前にコミュニティ・ベースの小児医療・ケアも行いましょう、というものがIMCI(Integrated Management for Child Illness)です。この中にはORS(経口補水塩)というものも含まれ、下痢による脱水症で死亡する人にポカリスエットのようなものをあげたり、蚊帳を提供するなどの対策を行っています。

パッケージも重要ですが、我々はもっとシステム化をしたいと考えています。日本も昔は貧しい国で、特に戦後は子どもの死亡率も高く途上国並みでしたが、現在では自分自身で国の保健システムを運営しています。途上国も最終的にはこうならないといけないのです。その意味では各家庭でのセルフケアと予防、地域における予防やケアのアウトリーチ・プログラム、施設・診療所などでの対策などを含む包括的なプランを立てなければなりません。プランを立て、ひとつひとつパッケージ化・統合化して子どもやお母さんの死亡を減らすサービスをシステムとして作り、このシステムに保健省や各国政府はお金を費やして、保健員がどれくらい必要かなど、一括して計画をする必要があります。つまり、応急処置だけではなく、根本的な人の体力をつけるためのプログラム作りを進めていかかければならないのです。ユニセフは最近、この点についても支援を行っています。

また全国展開することが大切で、単なるパイロット・プログラムに留まってはいけません。NGOのプロジェクトは重要ですが、ある地域で良くなったとしても最終的にはその国ではその何倍もの人々が苦しんでいるわけです。ですから、いかに全国展開していくかがミレニアム開発目標達成のためには重要となります。

99%のカバー率といっても実際はなかなか難しいものです。そのため、ある時期における目標値を立て、その目標に向けて計画を実行していきます。「この国の全ての子どもを救う」と理想では言えますし計画も立てられますが、砂漠もあればたくさんの民族もいるような地域で年間10万人が死んでいるとすると、どのように減らしていくか、という戦略を立てなければならないのです。そのために、まず拡大予防接種や妊産婦ケアについては40〜50%のカバー率から80%まで上げ、IMCIに関しては10〜20%しかカバーしていないので50%まで上げましょう、蚊帳の使用率も60%まで上げましょうという目標を立てました。このように、目標値を決め、やりやすさなども考えて行うと達成できるものなのです。

例えば蚊帳は、アフリカの人は昔は使いませんでしたが、色々なキャンペーンによって人々の意識が変わり、実際に子どもの死亡率が減った時、お母さんたちも使って見ようという気になったのです。例えばタンザニアではほとんど使われていませんでしたが、今では市場に並び、1張約5米ドルと結構高い価格にも関らず買っている人がいて、普及率がグングン上がっています。昔5%以下だった地域でも、今は目標値を越えているところもあります。ですので、努力は重要ですし、意識改革も必要だと感じました。このペースでいくと、3年間で15%、5年間で25%ぐらい減らすことができるので、ミレニアム開発目標の目標値に到達することもできるだろうと考えています。

© UNICEF/HQ05-1286/Indrias Getachew

ただ、そのためには評価をきちんとしなくてはなりません。国勢調査がないため、アフリカではデータを取ることが非常に困難です。一応、年に1度の国勢調査はありますが、信頼性が非常に低いものです。また、紛争や子どもの親が教育を受けていないなどの理由によって、色々な調査が非常にやりにくい。そのため、ユニセフではMICS(複数指標クラスター調査)という調査を行い、それぞれの家を回り、とても細かい調査を行っています。また、米国のUSサーベイがDHS(人口保健調査)という調査を5年に一度行っています。DSSとは、アフリカのある地域を使って家々を回り、子どもが3〜6カ月の間に死んでいないか、死んだならどのような状況で何が原因だったのかを定期的に調べ、問題点を探るものです。こうした細かい努力をしないとデータが集まりません。ですが、このようにして集めたデータも、現地の人々が生年月日を正確に覚えていないために回答年齢の信頼性が低いなど、非常に厳しいものがあります。また、現状分析も細かく行わなくてはなりません。一例として、蚊帳が地域にあっても配布する人がいないと無駄になります。配布されているけれど家庭で利用する人がいない、家庭で利用されているけれど継続的に利用する人がいない、継続的に利用されていても子どもが利用していないなど、さまざまな段階で格差があるのです。

まず配布率に関して、この国では35%なのでまだまだ蚊帳が足りないとなると、蚊帳を送るという供給に重点を置かなければなりません。蚊帳を送っても、それを配布する人がいないといけない。このギャップを埋めるために、保健員を増やすほか、小売業の人々に売ってもらう、子どもにチケットを配ってそのチケットを持っていくとお店でただでもらえるなど、色々なシステムを考えなければなりません。配布されているが家で使われていないという場合は、色々な形で啓蒙活動を行い、使ってもらえるようにしなければならない。それぞれの段階のいろいろな問題点があるので、どこの段階がどれだけ問題なのかをきちんと調べなければなりません。

最後に政策への反映です。国際レベルで色々な対策を行わなくてはなりません。ハイレベルフォーラムという保健大臣を集めた会合や、AU(アフリカ連合)というアフリカの大統領が集まる枠組みできちんと政策レベルで対応するとともに、各国の地方予算の中で子どもの死亡率をいかに下げるかという計画を立てる必要があります。

保健システムをきちんと考え、単にサービス提供だけではなく、サービスを行うまでの政策・計画・戦略に組み込むとともに、これら全ての支援はできないため、一部のことをサポートしたり他の機関と協力して実施します。私が最近やっていることは、MTEFという中期枠組みを作ることです。これによって保健医療の資金を、どの点にどれだけ費やすのかということが決まります。どういうものにお金を使うべきか、どのくらいの人を育てて、どのような形で実行していくかをこの計画に盛り込み、具体的なお金の振り分け方に至るまで、我々は技術支援を行っています。

パートナーシップについては、世界銀行、世界保健機関(WHO)、その他にマラリアやエイズに対するたくさんのファンド(基金)があります。ビル・ゲイツのGAVI(ワクチン基金)も非常に重要です。このような様々な国連、NGO、その他の専門機関と戦略的にパートナーシップを組んでいかなければなりません。

3・UNICEFの実践〜ACSD〜

その中にひとつ、ACSD(Accelerated Child Survival Development)と呼ばれるプログラムがあります。子どもの生存や成長を促進しようというプログラムで、2002年から2004年まで、最貧国11カ国のおよそ100カ所で行われました。これらの国々を集中的にカバーしてプログラムを組んで実施したときに、どのくらいの子どもが救えるのかということを試験的に行いました。

実際には、予防接種とともにビタミンAの補給、妊産婦検診プラスアルファ、蚊帳などの非常に結果が出やすいところからスタートし、現地の能力に応じて拡大していきます。政府と地方政府に主導させて彼らが中心となり、ペースが遅いときはユニセフが協力してペースアップを図りました。

このときに地域や市民組織が重要なので、彼らの共同参加を得ます。その際に無料で協力してくれる所もあればそうでない所もあるため、成果に応じて契約します。例えば、給料はもらっていてもまったく成果を出さないコミュニティ保健員がいるので、この地域の80%以上の人々が蚊帳を使っていたら、これくらいの報酬をプラスしますというインセンティブを与えることも含めての契約です。あとは実際に、政府や地方政府と一緒にモニタリングも行います。

その結果、3年間で子どもの死亡率が20%以上下がっている地域もあります。本来2015年までにミレニアム開発目標を達成するには年間8%の死亡率の削減が必要ですが、アフリカでは子どもの死亡率がまったく減っていない地域もあるので、状況が厳しい地域で3%でも9%でも減らせるということはとても重要なことなのです。

アフリカの死亡率が下がらない地域の多くには紛争があります。復興支援、国づくりの中でどのようにしてミレニアム開発目標を達成していくかが問題です。また、各国の政府に保健医療費を上げて、国家予算の約15%を保健医療に使おうと決め、実行してもらう。同時に援助国のお金も増やしながら援助を行っていくことが目標の達成には必要だと思います。

【Q&A】

Q1:サハラ以南のアフリカの5歳未満児死亡率が1,000人中155人から161人に上がっているということですが、アフリカや中央アジアなどの実際の現場では、子どもたちはどのような形で死んでいくのでしょうか? また、セネガルの5歳未満児死亡率が3年間で25%下がったとのことですが、実際に現場で、子どもを大事にするコミュニティの意識の変化を感じましたか?

A1:子どもが1,000人生まれて、そのうちの何人が5歳の誕生日を迎える前に死亡するかを表す数値が5歳未満児死亡率です。ひとり死ぬということは、実はもっと多くの人が病気にかかっている、つまり死にそうになっている子どもはもっといるのです。子どもが10人いるとそのうちの5人以上は大変な熱が出たり、ごはんも食べられなくなったりしたけれど、何とか生き延びたという感じです。

実をいうと、子どもは簡単には死にません。例えばソマリアでは病院に子どもがたくさん来ます。そのほとんどが髄膜炎やコレラ、赤痢に罹っていますが、それでもちゃんと生きているのです。ところが、そのソマリアでも150〜200人の子どもが死んでいます。そして、家庭を回ると、今度はお母さんも結核で血を吐いている。お父さんも紛争で亡くなっている。他に子どもが5〜6人いてお尻から糞尿を垂れ流し、その中の一人は脳性マラリアになっている。そういう状況でも150〜200人なのですから、150人という状況の背後にある実態はかなりひどいのです。

子どもの死亡原因は肺炎、下痢症、マラリアが多い。HIV/エイズが死亡原因に占める割合は5〜10%程度ですが、少し前のアフリカ諸国では、お母さんから母子感染でHIVに感染した子どもは、5歳未満に発症し、死亡している子どもが多い。こうした子どもたちの死亡原因は肺炎とされていますが、おそらくはHIVによって免疫力が急激に落ち、その結果として肺炎で死亡する場合が多いのです。タンザニアでも子どもが肺炎でたくさん死ぬという話ですが、おそらく根底にはエイズがあることが多いと考えています。

2つめの質問についてですが、コミュニティの意識がそう簡単に変わることはありません。ですが、やはり100世帯のうち1〜2軒しかマラリア予防の蚊帳が使われていなかった村で、いつの間にか30家庭が使いはじめたとすると、急にその使用率が増えるのです。これを「クリティカル・マス」といいます。つまり、社会現象というのはS状カーブを作っているのです。何かを変えようと思うと最初はなかなか変わりにくい、例えば蚊帳にしても最初は使うことに抵抗があった人たちでも、ある程度のクリティカル・マスを超えるとぐっと使う人が増えてくるのです。

このような中で、現状は死亡率が30%減った状況ですので、社会は大きく変わったはずです。ですが、意識や活気が変わったかどうかは私にはわかりません。例えばタンザニアでは確実に利用率が上がっていて、お母さんたちは「マラリアは必ず死ぬ病気ではない」と分かってくるのです。分かることによって行動が変わってきます。いつかは必ず変わってきます。死ぬ子どもが少なくなってきたと分かると、お母さんたちに自信がつくのです。それによって、子どもがたくさん死ぬからたくさん子どもを生むという時代から、子どもを生む数を減らすし、学校に行かせようという気持ちも高まってくるのです。

Q2:最貧国では流産になりやすいのでしょうか? そういうデータや対策があれば教えてください。
また、シエラレオネなどの国の医療やプライマリー・ヘルスケアから逆に日本の小児医療が学べる点があれば教えてください。

A2:妊娠している人が年間2億人くらいいますが、国によって異なるものの、そのうちのおよそ2〜4割が望まない妊娠だと言われています。そのうちの半分くらいについて人工中絶が行われており、人工中絶の約半分のケースが危険な中絶なのです。私が見た危険な中絶の中には、水の中にお母さんがずっと腰をつけているとか誰か人に上に乗ってもらって機械的に出すなど、非常に危ないものがありました。地方によっては、ある薬草を飲んで流産を促進したり、茎を膣の中に入れて子宮口まで入れていって子宮口を広げて出したり、非常に原始的なやり方としては、金属のハンガーを伸ばして、自分で突っついて中絶するなど、こうした危険な中絶で多くのお母さんが死亡しています。  

妊娠中のお母さんに対してやらなくてはいけないことは実はたくさんあります。例えば、葉酸が欠乏している場合、発育が悪くなって胎児がちゃんと成長しないなど、お母さんの栄養状態や生活、病気によって子どもの健康が変わるのです。子どもの死亡とお母さんの死亡は関連しているため、ミレニアム開発目標5で目指している妊産婦死亡率の削減は非常に重要です。

海外から日本が学ぶこととしては、日本では子どもを産んだらすぐ子どもを別の部屋に移すなど、非常に高度な施設分娩をすることは良いのですが、人間的なお産から遠ざかっています。それが途上国では自然な家庭分娩が行われ、家庭で分娩する時に多くの人はまったく問題なく分娩を行えるのです。産んだ後に子どもをお腹の上に乗せて体温で温めることによって感染症の発症を抑えられるという効果もあり、そういったことが途上国の中で見直されています。ですから最近は、おお産の後にすぐにお母さんと子どもと一緒にして母乳をすぐにあげる、自宅とはいかなくても助産所でお産をするなどの流れが最近日本でも出てきています。

Q3:子どもの死亡の大きな要因として、5歳未満の子どもの55%に栄養不良が関係していて、体の抵抗力を弱め、死亡の原因になります。栄養分野の取り組みと保健・医療分野の取り組みの間につながりはあるのでしょうか?

A3:それも今議論中です。栄養不良の改善は、毎日の食事の総カロリーやたんぱく質の摂取を上げなくてはならないため、大変なお金がかかります。そのお金をどうやって出していくかということが問題なのです。最終的には、ユニセフが単独でそれを行うことはできません。おそらく世界食糧計画(WFP)や世界保健機関(WHO)などと話し合わなくてはならないと思います。この問題をどうするか、ユニセフの保健部門だけでなく、栄養部門でも議論しています。ですが、お金をかけてたんぱく質や栄養をたくさんあげたりした時に、どれくらい死亡率が下がるのかというエヴィデンス(証拠)がまったく無いのです。世界的に政府に対してアドヴォカシーを進めていく際にも効果、数値を見せないといけないので、色々な大学関係者と話をして、そのような研究を行ってもらうよう頼んでいるところです。

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