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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

2.何をしなければならないのか?そして日本の子どもたちの問題は

アグネス:次のラウンドに進みたいと思います「何をしなければならないのか?」。では、ゴータムさん、わかりやすくお願いします。

クル・ゴータム ユニセフ事務局次長(以下ゴータム):そうですね。三つのことがあります。例えば人権の侵害といったもので一番大きなものは何ですかというふうに聞かれることがあります。人権の侵害で一番大きいものは何か。食べ物が与えられないことなのか。または、教育が施されないことなのか。そしてまた、表現の自由がないことなのか。それとも、ほかに自由がないことなのか・・・いろいろあります。そのときに、メアリー・ロビンソンさん、前国連人権高等弁務官として活躍された方の言葉を私は引用したいと思います。「最も大きな人権侵害とは、最も大きな貧困である」と。

先ほどアグネスさんのほうからもインドの例を見せていただきましたけれども、子どもにとって最も権利を奪うもの、そしてまた、人権侵害となるものは、例えば収入のなさもあるかもしれない、病気もあるかもしれない、しかし、最も基本的なものは、やはり貧困であります。ですから、そこに最も我々もプライオリティを置いて、何とかしなければならないわけです。

そして、二番目の人権侵害でありますけれども、今、我々には資源がないからなかなか子どもに人権といっても差し伸べることができない、擁護することができないと言っています。リソースが無いのが理由・・・それはほんとうではありません。

そして、最も貧しいと言われている国であっても、その軍隊に対しては出すお金があるわけなんですね。世界全体で、年間約一兆ドルを戦争に対して使っている現実があります。そして、子どもの教育に対し、子どもの健康に対しては、リソースがないからお金が払えないというわけです。最も大きな問題というのは、やはりそこにあると思います。社会がどこにプライオリティをつけるのか、最も重要な問題に対して、最適な資源を活用する、そこに最も大きな問題があると思います。

そして、三番目に、子どもたちの参加する権利、こちらにいらっしゃる方々のように、J8サミットに参加する子どもたち。そして、若い人たちが、子どもたちが、いかに創造性を持ち、そして、想像力を持ち、そして、さまざまなアイデアを持ち、さまざまな問題解決の方法を持っているかということを我々は過小評価しがちになります。

子どもたちに力を与えて、そして、参加をさせてあげる、そして、自分たちが、自分の将来に何が必要なのかを自分たちで決めさせてあげる。そのようなエンパワーメントを子どもたちに与えることができれば、子どもたちみずから、自分の問題に対して答えを探してくると私は思っています。若い人たちを、今までよりもっともっと信頼して、もっともっと参加する権利を与えてあげるべきであります。これは権利なのか、そうではないのかといった意見がありますけれども、これは立派な権利であります。そしてまた、この権利を与えることによって、世界は変わっていきます。私は、子どもたちをほんとうに信じています。

アグネス:ありがとうございます。二つ目の提言の中で、私たちは優先順位を間違っている。確かにそうかもしれないです。私はほんとうに、戦時中、戦後の国をたくさん歩いて、ああ、これは一日どのくらいお金かかっているんだろうと考えてしまうのです。例えばイラクへ行ったとき、とても多い数のトラックが絶えず走っているのを見ました。何を運んでいるかというと、駐留する兵士が必要としている物資なんです。でも、イラクの子どもたちは、水がないとか、食べ物がないとか、薬がないとか、麻酔がなくて、そのまま押さえられて手術されているとか、破片がささったままでも病院に行けない・・・そういうことが起こっています。私はさっき、ゴータムさんが言った、私たちは優先順位を間違っている。本当にそう思います。戦時中の国に行くと、どうしてもそのようなジレンマに落ちてしまう。これはきっと私だけじゃないと思うんですね。

のっぽさん、世界の子どもたちもそうですけど、日本の場合はいかがですか。

高見:そうですね。世界の子どもたちのことはちょっと置いておいて、日本の子どもたちは取り残されているのか、いないのかというお話を聞きたいですね。

アグネス:そうですね。東郷さん、いかがですか。

東郷:国連の開発指数とか貧困指数、こういうもので、国連機関の一つとしては、ユニセフとして考えざるを得ないので、そういう範囲においては、日本は対象外なんですね。にもかかわらず、権利条約がいかに守られているかという問題から見れば、やはり日本でも、家庭、いわゆるドメスティック・バイオレンスとか、子どもの自殺の問題であるとか、いじめの問題があるわけですから、まだまだ対応しなくちゃならない。そのためにも私ども日本ユニセフ協会は、アドボカシー活動を進めています。1989年に権利条約ができて、1994年に日本で批准されるまでに5年かかったんですね。批准されるまでに、私どもがやったことは、子どもの権利条約の批准促進委員会というのをつくって、そのリーダーシップをとって、批准をしてもらうように、外務省として国会に働きかけたというようなことがまずあります。

それ以外の部分では、いろいろあるわけですけれども、先ほどから話が出ている子どもの兵士を何とかしてなくしていきたい。それから、児童労働の問題、これはもうほんとうに、日本国内ではほとんどないだろうと思われていることですけれども、世界的には非常に大きなゆゆしき問題なんですね。それから、子どもとエイズの問題、これは近年、特に言われていて、我々は力を入れて訴えているところです。

このこと以外に、1996年にストックホルムで「子ども買春、子どもポルノの根絶のための国際会議」というのがありました。その場で日本はかなりオープンに非難されたんです。日本からの旅行者がほかの国の子どもたちに危害を与えているとか、日本が子どもを題材にしたポルノグラフィの発信国になっていると。そういうようなことを相当非難されました。私どもは、この1996年の会議には、政府の代表も出られたんですけれども、政府はまだそこまで対応する余裕がなかったわけで、我々日本ユニセフ協会が中心になって、この問題を何とか解決していこうということで、いろいろな活動を始めました。そのなかで、特に日本の法制上の不備ということを痛感しました。したがって、この子ども買春、子どもポルノの問題を解決するための法律をつくっていただくように、これはもう、平野さんをはじめ、日本のNGOの皆さんに集まっていただいて、1999年に児童買春・児童ポルノ等禁止法ができて、発行したわけですね。そういうような形で、我々は子どもの権利を守るという活動をしているわけです。

アグネス:要するに、子どもたちの環境の整備ですよね。やっぱり日本も、日本の国の中だけではなく、世界の子どもたちも、日本の子どもたちも一緒に考えたときに、いろんな環境の整備、法整備がとても必要となる。私も大使になるまではそういうことが、全然わからなかったので、1998年に大使になってからはほんとうに日々勉強です。一つの問題解決をするためには、たくさんの仕事に取り組んでいかなきゃいけないというのがわかりました。児童買春の問題でも、法律はつくらなきゃいけない。つくったら、警視庁の連携も必要だとか、子どもを保護したらどうすれば守られるとか、あるいは保護するとき、NGOとどうやって手を組むとか、そして、予備策として、仕事があるようにどうすればいいのか。親たちに子どもを売ることをやめさせるようにするためには、どうすればいいのかと、たくさん問題があるんですよね。国内外の問題というのは決して別々じゃないというのは思いましたね。

東郷:法整備の段階で、日本の国内でも非常に大きな問題があったんです。援助交際という言葉があるのですが、あたかもいいことをするような、おとなが子どもに対していいことをするような呼称ですが、実態は子ども買春なのです。これを非常にオープンにやるような風潮ができた。実際そういうことが起こったわけです。私どもは、何しろ援助交際という言葉をなくそうということをまずしたのと、それから、この法律ができたことで、実は、加害者として挙がったのは日本で、その援助交際をしたおとな、それもかなりの知識層がそこに捕まっているんですね。

したがって、そういう意味での副次的な効果もあったわけですけれども、まだまだ、特に今はポルノグラフィの面では、サイバーポルノが非常に多いという状態になっています。摘発が難しい部分がありますので、関連業界と連携して進めています。

また、旅行業界との提携というのをやっています。実は、やはり海外旅行に出られて、よくないことをする方もいるわけですから、やはり旅行業界が現地のオペレーターとの契約のときに、そういう子ども買春に携わるようなことをした場合は、契約を解除することになりうるという条件のもとで誓約してもらう、そのような約束ごとをまとめたものをコード・オブ・コンタクト(行動規範)と呼び、日本旅行業協会との間に結びました。もう二年ぐらい前になりますけれども、そういう形でのご協力も頂いております。

アグネス:日本ユニセフ協会は、私たちは募金をあずかり、海外の子どもたちを助けていくということなんですけど、でも、日本の子どもたちの環境もやっぱりよくしていかないと、行く行くは、私たちの足もとで問題が起きてしまうんですね。 平野さん、今日は子どもの権利条約の問題ということなので、例えば日本の政府とか、市民社会、日本の子どもたちの問題の取り組みについて、ご意見がありましたらお願いします。

平野:まず一つは、まず子どものことについて考えるときに、子どもの権利条約をもとにして考えるということがあまりにもないと思います。例えば教育の問題にしても、少子化対策の問題にしてもですね。そこで、じゃあ、子どもの権利条約には何て書いてあるのか、それをまず確かめてから議論しようということがあまりにも少ない。

それからもう一つは、そのときに子どもたち自身の声を聞いてみようじゃないか、それもほとんどない。おとなたちが勝手に話し合って、勝手に決めていることがあまりにも多過ぎるんですね。のっぽさんが、賢さは同じ、大きな人間も、小さい人も同じだと言いましたけれども、あるいは子どもたちに意見を聞くことで、いろいろなすばらしいアイデアというのは必ず出てくるはずなんです。だから、ちゃんと子どものことについて話をするときには、まず子どもの権利条約について考える。そして、子どもたちの意見を聞く。それが一番の課題だと思っています。

アグネス:そうやって考えると、日本の子どもたちは、今、たくさんの問題があると言われますよね。例えば、プレッシャーが多いとか、子どもに対する犯罪、あるいは子どもたちが自分で犯罪を起こしてしまうとか、あるいは自殺とか、いじめだとか、そういう問題は、ほんとうに私たち一人一人が子どもたちを孤独にさせない、必ず何を考えているかわかるような努力もしていかなきゃいけないなと思いますね。

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