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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

「アジア・・・繁栄の陰で」
東アジア太平洋地域事務所代表の報告

【2007年12月4日 東京発】

急激な経済発展を見せるアジアの国々。しかし、マスコミで日本に伝えられる華やかな世界の後ろには、多くの子どもたちが、その繁栄から取り残されています。そうした実態に、ユニセフは、各国の政府は、そして市民社会はどのように取り組もうとしているのでしょうか。

東アジアの14カ国の関係閣僚らが参加した、「公衆衛生と衛生学に関する東アジア関係閣僚会議2007」(11月28日から大分県別府市で開催)に出席するため来日中の東アジア太平洋地域事務所アヌパマ・ラオ・シン代表が、4日、東京・高輪のユニセフハウスを訪問。「アジアの子どもたちの今」を報告しました。

アヌパマ・ラオ・シン代表の略歴

インド生まれ。ニューデリーのLady Irwin 大学を卒業(1970年に家政学—Home Economicsの学位を取得)。71年には、教育学の学位。73年には、児童発達学(Child Development)の修士号を取得している。 シン代表は、1980年、インド・ニューデリー事務所の事業補佐官として、ユニセフに入り、ユニセフが支援するインド政府やNGOなど啓蒙や子どもの保護に関する事業の計画立案やモニタリング、事業評価を担当した。1985年12月には同ジャイプール事務所に転属。事業担当官として、ラジャスタン州におけるユニセフの思念事業全体に関するアドボカシーや計画立案、管理などを担当。

成人を迎えた「子どもの権利条約」

「2007年、18歳未満の子どもの権利を規定した「子どもの権利条約」が「成人」を迎えました。全ての子どもたちは、等しく自分の可能性を最大限に生かすことが保障されています。どの子どもたちもないがしろにされ、弱い立場に置かれてはいけないのです。子どもの権利を守ることは、全ての人の責任です」。報告の冒頭、シン代表はこう述べました。

シン代表が担当する東アジア太平洋地域は、南北7000キロ、東西1万1000キロに渡る非常に広範囲な地域で、世界の人口の3分の1、20億人が暮らし、そのうち、30パーセントあまりが子どもです。非常に多様な文化、言語、社会状況が存在する地域です。

成果
© 日本ユニセフ協会

こうした複雑多様な背景を持つ地域では、子どもたちが置かれている状況も、また、複雑多岐にわたります。シン代表は、まず、この数年〜十数年の間にこの地域にもたらされた「良い成果」を報告しました。

「東アジア太平洋地域では、一部の地域を除いて経済成長が著しく、1990年から2005年まで一人あたりの経済成長率は、年率6.6パーセントでした。この経済成長の結果、貧困化におかれている人々が減少。1990年、一日1ドル未満の生活を余儀なくされている人の割合が、この地域の人口のおよそ30パーセントでした。しかし、2007年には7パーセントにまで減少しました。この結果、ミレニアム開発目標の1.2.3.4.そして7に関しては、2015年までに達成できる見通しです。」

広がる格差
© 日本ユニセフ協会

しかし、まだ取り組むべきことも沢山残されています。貧困は減少していますが、経済成長が進む地域においても、経済格差がひらいています。「裕福な人は、ますます裕福になり、貧困下に置かれている人は、ますます困難な状況に置かれています。貧困下の子どもたちは、経済的に豊かな子どもに比べて、基本的サービスを受け難い状況です。」

また、大規模な農村部から都市部への人口移動が起きています。貧しい地域の人々が、経済が発展している地域へ経済的恩恵を求めて移動します。このとき、子どもたちはないがしろにされ、基本的サービスをうけられないなどの弱い立場に置かれます。中国だけでも、1億人の子どもたちがこの影響をうけている見込みです。

「もうひとつの問題は、自然災害です。近年、特に激しくなった、台風、地震、火山などの自然災害で、甚大な被害がでています。自然災害がおこると、緊急支援が始まり、支援活動のボランティアや、スタッフが活動しますが、緊急支援活動が終わっても、まだ取り残された人々がいるのです。とくに農村部に困難な状況が続いている人々が多く、そういった人々は、都市部に移動します。自然災害は、人口移動の一因ともなっています。」

HIV/エイズの問題も深刻です。この地域の主なHIV新規感染者は、若者です。タイでは、HIV新規感染者の50〜60パーセントが24歳以下の若者であったと、シン代表は報告しています。

地域「間」の格差・地域「内」の格差

「東アジア太平洋地域の27カ国は、大きく三つに分けられます。発展している地域(タイ、マレーシア、モンゴルなど)、発展に向かっている地域(ベトナム、中国、フィリピン)、そして、まだ開発途上の地域(カンボジア、ミャンマー、ラオス、東ティモール、パプアニューギニア)です。」

シン代表は、地域「間」格差の大きさを示す例を二つあげています。

  • 一日1ドル未満で生活する人の割合が、地域の平均は、6.6パーセント。マレーシアでは、0.5パーセント、パプアニューギニアでは、およそ40パーセント。
  • 専門技能者が付き添う出産の比率は、地域全体では、87パーセント。シンがポールでは、100パーセント、東ティモールでは18パーセント。

© 日本ユニセフ協会

一方、地域「内」、すなわち同じ国の中での格差の存在も、次のように報告しました。「カンボジアでは、最低所得の20パーセントと最高所得の20パーセントを比べると、収入に7倍の差があります。国としては豊かなマレーシアでも12倍の差がある。豊かな人は、豊かになり、貧しい人は、貧しくなっています。」「収入、貧困だけでなく、ほかにも格差の要因があります。どこに住んでいるのか。障害を持っているか否か。農村からの移民であるか否か。少数民族も困難な立場に置かれる傾向にあります。」

こうした「格差」は子どもたちの命の問題にも直結しています。「5歳児未満死亡率や妊産婦死亡率も、ほとんどの国で、農村部のほうが高い傾向を示しています。たとえばラオス。農村部は、都市部の4.5倍の高さに及んでいます。子どもの死亡率の多くを占める下痢性疾患の予防などに無くてはならない安全な衛生施設(トイレ)を利用できる割合も、農村部の方が圧倒的に低いのが、ほぼ全ての国に共通の実情と言えましょう。」

「取り残さない」ために

このような格差の中で、貧困の子どもたちは、出生登録をされないことがおおくあります。出生登録をされないと、基本的サービスを受けられず、学校に通うことも難しくなります。教育は、労働や搾取から子どもたちを守り、また次の世代につながり、貧困から抜け出すための大きなきっかけを与えてくれます。

ユニセフや関係者の協力によって、初等教育の就学率は、ほぼ全ての地域で向上しています。 繁栄の影で非常に複雑で多様な「困難な状況」。こうした成果は、そんな困難の中でも、私たちには、そして、この地域の子どもたちには、「可能性」があることを示しています。ユニセフの活動の努力の結果がでていることをあらわしています。私たちは、困難な立場に置かれた子どもたちに対して、何ができるのか常に考えていかなければなりません。

アグネス大使も、繁栄の中で取り残された子どもたちの現状を皆様に訴えるため、今年6月、インド・ムンバイを訪問しました。報告レポートはこちらから>>>

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