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ライブラリー 報告会レポート

南スーダン現地報告会 開催報告
「命の危険と隣り合わせの支援活動」
ユニセフ 子どもの保護専門官 山科真澄氏

【2014年5月21日 東京発】

昨年12月に武力衝突が発生して以降、不安定な情勢が続いている南スーダン。命の危険と隣り合わせの支援活動を続けるユニセフ・南スーダン事務所 子どもの保護専門官 山科真澄氏が、5月21日、ユニセフハウスで開催された現地報告会にて、南スーダンの子どもたちの状況や課題、ユニセフの役割について報告しました。

世界一新しい国、南スーダン

南スーダンは、2011年7月9日にスーダンより独立した、世界で一番新しい国です。2015年の選挙を前に、行われるはずだった世帯調査が紛争により頓挫し、正確な人数を把握するのも難しい状況にありますが、総人口は1,083万人、そのうち約53%が18歳未満、72%以上が30歳未満の若い国です。しかし、乳児死亡率、5歳未満児死亡率、妊産婦死亡率は非常に高く、世界の中でも状況が悪い国のひとつです。改善された飲用水源を利用している人は世界では89%を占めますが、南スーダンでは57%にとどまっています。さらにこのうち90%以上が、安全な水を手に入れるために片道30分以上歩かなければなりません。また、改善された衛生設備を利用する人の割合も世界の64%に対し、南スーダンでは9%と非常に低い状況です。出生登録をされている子どもの数も35.3%にとどまり、法律上存在しない状況に置かれる子どもたちが多数います。児童婚も非常に一般的で18歳までの女子52%が結婚、既婚女性の79%が夫からの暴力を受けているという現状です。
(*文中のデータは、世界子供白書2014より引用)

武力紛争後、更に状況が悪化

マラカルの国連施設に避難している住民
© UNICEF/NYHQ2014-0423/Kate Holt
マラカルの国連施設に避難している住民

2013年12月の武力衝突が起きるまで、南スーダンでのユニセフの活動は、人道支援から国づくりを支援する開発へと移行しているところでした。しかし、その武力衝突後、再び人道支援を必要とする危機的状況に陥りました。首都ジュバは、銃声が鳴り響き、街中で戦車が走り回る異様な光景が広がりました。この紛争開始以降、既に130万人以上が国内外へ避難をしていますが、劣悪な環境で避難生活を余儀なくされ、さらには避難途中で命を落とす人もいます。国連基地内の避難民キャンプでも許容人数を大幅に超えた8万7,000人が暮らしています。長年緊急人道支援にあたっているユニセフのスタッフですら、過去に見たことがない、最悪の状況だと言います。避難民の数が非常に多く、最低限の生活環境を定めた国際基準にも満たない環境下で暮らす人々。その状況はインド・ムンバイのスラム街の5倍の混雑とも例えられるほどです。しかし、基地外に出ると命の危険にさらされる状況で、避難民たちに選択の余地はありません。また、他の国際機関やNGOの事務所と同様、ユニセフの倉庫や事務所も襲撃に合い、車や支援物資などを奪われています。それでもユニセフのスタッフは、残されたわずかな物資を命がけで集め、避難民に配布しました。

劣悪な避難状況下、限られた保健サービス

22万3,000人の子どもたちが急性栄養不良・消耗症にかかっており、ユニセフの支援が入らなければ8月までに5万人の子どもたちが命を落とすと危惧されています。また、慢性的な栄養不良に加え、雨季による伝染病の蔓延など、保健サービスを必要とされている一方で、十分な治療を受けられずに、風邪でも命を落としてしまう人々がいるほどの劣悪な状況です。病院は襲撃をうけ、医療従事者も避難しているため、ユニセフや他の国際機関からの支援がなければ、避難民の多くが治療を受けられない状況です。南スーダンの保健省は、5月15日にジュバ市内でのコレラの発生を発表。これまでに188人のコレラ患者が治療を受け、3人が亡くなっています。一昨日には、更に50人のコレラ患者が入院しました。コレラ治療センターの設置、医薬品や安全な水の提供を行う為に、更なる支援が必要とされています。

親とはぐれた子どもの保護

家族と再会を果たした少年。
© UNICEF South Sudan/2014
家族と再会を果たした少年。

親とはぐれた子どもの情報を集めて家族を探し、再会させることもユニセフの重要な使命です。その方法として、部族間のつながりが強い、南スーダンの地域ネットワークを利用したり、子どもと離ればなれになった親の情報も登録しデータベース上でマッチングしたりすることが可能です。また、携帯電話の普及により、携帯電話番号から追跡可能なこともありますが、避難所は100カ所以上もあり、家族探しは難航している状況です。家族が見つかった場合、再会するための旅をアレンジし、同行することもユニセフの仕事です。平和維持軍に護衛してもらいながら、20人ほどの子どもたちを空港まで送り届けたことがある山科専門官は、家族の再会の瞬間は最も嬉しく、子どもたちの溢れる笑顔を見ると、すべての苦労を忘れるほどやりがいのある仕事だと語ります。しかし、家族探しには、途方もない時間とお金がかかります。これまで、ユニセフの支援で登録されている3,000人余りの子どものうち268人が再会していますが、子ども一人が家族と再会するためには平均で12万円ほどかかっています。

制限される支援活動

現在15カ所で支援活動を行っていますが、さまざまな事情により支援活動の拡大を行うのが非常に難しい状況です。5月9日に停戦合意の再確認が行われたものの、翌日から戦闘は再開、不安定な治安状況が続いています。山科専門官自身も流れ弾が頭のそばを飛んで行った経験があり、一歩間違えば命さえ危険な状況です。支援活動のため避難所間を移動するとき、通る道は安全が確保されていない上、水はけが悪い土なので雨季になるとさらに移動が困難になります。電気もなく非常に厳しい生活環境に加え、近隣諸国やコペンハーゲンから支援物資を運搬しなければならないため、高いオペレーションコストがかかります。また、国ができて間もないこともあり、政府が避難民を支援できる状況ではないため、人道支援団体に大きな負担がかかっています。ユニセフの試算では、2014年上半期で7,500万米ドルの資金が必要とされますが、5月6日現在で48%の資金しか集まっていません。今後2カ月で、栄養、コレラ関連、水と衛生関連、保健、子どもの保護、教育の分野を中心に更なる資金が必要となります。日本政府は、南スーダン事務所における最も大きな人道支援募金提供者の一つです。また、日本ユニセフ協会からも5,000万円の資金が提供されています。日本からの支援なしには活動が滞ってしまうほどで、日本のみなさまからの支援は、非常に感謝されていると、山科専門官は語ります。

南スーダンの子どもたちに届く支援

<ユニセフの支援による成果>

  • 約31万人に安全な水を提供
  • 約26万人にはしかの予防接種を実施
  • 6カ月〜59カ月の急性栄養不良の子ども2万人弱の治療
  • 約3万人の子どもに保護サービスを提供
  • 学齢期の子ども2万人弱に教育支援
  • 即応対応メカニズムの開始(WFPと協力し、アクセスが非常に困難な場所に赴いて人道支援を10カ所で開始、3.9万人の5歳未満児を支援。今後15カ所に拡大予定)
  • 子どもの心のケア、国の将来のために重要な、教育の提供
  • 「子どもにやさしい空間」を25カ所に設置(9,236人がアクセス)
  • 国境なき医師団と協力し、心のケアを必要とする子どもたちへプレイセラピーを実施

<日本からの支援による成果>

  • 約26万人の15歳以下の子どもに予防接種を実施
  • 約6,000人の妊婦に母子保健サービスを提供
  • 1,000人分のすぐに食べられる栄養治療食を購入
  • 2つの仮設教育スペースを建設中(400人が通学可能)
  • 女子200人、男子400人が教育の重要性について学習
  • 教育関係者135人の研修実施予定
  • 両親とはぐれた子どもの保護
  • 子どもにやさしい空間の運営

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ユニセフでは、南スーダンや中央アフリカなど、緊急人道危機にある国々への支援のため、「人道危機緊急募金」をお預かりしております。また、ユニセフの活動全般に使わせていただくユニセフ募金のほか、シリア緊急基金、自然災害緊急募金などをお預かりしています。子どもたちのための支援活動に、ぜひとも募金の協力をお願いいたします。

山科真澄 子どもの保護専門官
© 日本ユニセフ協会/2014
山科真澄 子どもの保護専門官

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山科真澄(やましなますみ)氏プロフィール
大学院(神戸大学国際協力研究科)を卒業後、イギリスの法律事務所の勤務を経て、日本紛争予防センターで東京、アフガニスタンに勤務。その後、日本赤十字社でスリランカの津波および紛争被害者の支援、国際赤十字連盟にて中国の四川大地震の復興支援に従事。2009年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)としてユニセフ・ジンバブエ事務所に勤務。2013年9月よりユニセフ・南スーダン事務所 子どもの保護専門官。

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