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日本ユニセフ協会
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ヨーロッパ難民危機
海を渡る子どもたちが増加
様々な事情、支援の不足

【2015年10月13日  プレセボ(セルビア)発】

ギリシャのレスボス島に到着した、難民を乗せた大型のボート。

© UNICEF/NYHQ2015-2557/Gilbertson VII

ギリシャのレスボス島に到着した、難民を乗せた大型のボート。

安全でよりよい場所を求めてヨーロッパにたどり着く何千人の難民の影で、保護者を伴わない子どもたちがそれぞれの事情を抱え、支援の手が差し伸べられるのを待っています。

* * *

荷物の山に紛れ、独りぼっちの男の子

すすり泣きながら、男の子は何かを伝えようと懸命に声を出そうとしますが、なかなか声を出すことが出来ません。道にあふれかえる何千人という群集に圧倒され、ユニセフ職員と警察官が話しかけますが、その言葉を理解することができません。彼の周りに家族らしき人も見当たりません。

「ハッサン」彼はようやく、自分自身を指差しながら声を出すことができました。彼の名前は、ハッサンです。ハッサンくんは、自分が10歳であることを、両手の仕草で伝えました。

アラビア語の通訳が加わり、さらに情報を引き出すことができました。ハッサンくんはシリアからやってきて、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国を経由して、プレセボの一時受け入れセンターで手続きを待つ人混みの中で、父親とはぐれてしまったのでした。

警察官と人道支援団体のおかげで、ハッサンくんの父親がセンターの反対側のゲートにいることが分かりました。二人は無事に再会する事が出来ました。ハッサンくんの表情から恐怖や不安の色はまだ消えてはいませんが、父親と一緒にいれば安全です。

移動を続ける子どもたち

母国において激化する紛争、迫害、剥奪などから逃れるため、毎日何千人という難民たちがヨーロッパ大陸への国境を越える中、このような光景はあちこちで見られます。ヨーロッパを渡る子どもたちのほとんどは保護者同伴でやってきますが、その中には、何らかの理由で両親あるいは保護者を伴わずに、旅を続ける子どもたちも多くいます。

例えば、集団で行動している10代の男の子たちや、ハッサンくんと同じように混沌とした国境付近で親とはぐれてしまった子どもたち、その他にも厳密には「ひとり」ではない子どもたち含め、子どもたちはいずれにせよ危険と背中合わせの状況に置かれ、それぞれが持つ権利が侵される危機に晒されています。

ハッサンくんのように保護者とはぐれたり、一人でいる理由が明らかな場合は、対策もすぐに講じることができます。人々が殺到し、混雑する一時受け入れセンターには、時として何千人にものぼる人々が集まるため、幼い子どもたちは特に保護者とはぐれてしまう危険が高まります。しかし、中にはもっと複雑なケースもあるのです。

命を懸けて海を渡った兄弟

9月28日、アリ・アブドゥル・ハリムくん(17)と弟のアーメッドくん(15)はギリシャのレスボスにシリア、イラク、アフガニスタンからのほかの難民とともにたどりつきました。ボートに乗っていた子どもたちの中で、保護者を伴わないのは、アブドゥルくん兄弟だけでした。

アリ・アブドゥル・ハリムくん(17)はギリシャのレスボス島のスカラ・エレソス村の海辺で携帯電話で話す弟のアーメッドくん(15)を見つめる。

© UNICEF/NYHQ2015-2587/Gilbertson VII

アリ・アブドゥル・ハリムくん(17)はギリシャのレスボス島のスカラ・エレソス村の海辺で携帯電話で話す弟のアーメッドくん(15)を見つめる。レバノンのバークベックから保護者を伴わずにここまでたどり着きました。

兄弟は、レバノンのバールベックからトルコを経由し、二人きりでギリシャへ渡ってきました。暮らしていた地域で武装勢力が拡大し、安全ではなくなったため、家族は二人をヨーロッパへ旅立たせたのです。アリくんとアーメッドくんも、命の危険を脅かされるような流血の惨事に巻き込まれたこともあります。「危険だし、仕事もない。毎日、誰かが命を落としているような状況です」とアリくんは語ります。

海を渡っていたとき、ボートが浸水し、このまま転覆してしまうのではないかと人々が恐怖にかられました。アリくんの脳裏には、家族のことが浮かんだといいます。「母親のことを真っ先に思いました。ものすごい恐怖でした。泳げない僕たちは、もうあの瞬間に死ぬのだ、と思いました。ちゃんとした船ではなかったし、ゴム製のボートで波に激しく揺られていて、いつ転覆してもおかしくないほど人が乗り込んでいましたから」

レスボスの岩の海辺に打ち上げられたあと、アリくんは両親に電話をかけました。「みんな僕たちを心配してるかと思って。安心して!ギリシャに着いたよ」

 未来への希望、家族への思い

アリくんとアーメッドくんはギリシャを通過して東南ヨーロッパを渡り、最終的にはドイツを目指します。「ドイツに非常に好感をもっています。あそこに行けば未来が開ける気がするのです。友達がそこにいるし、彼らが仕事もあると教えてくれました。そこに行けば、きっと尊厳のある暮らしができると思うから」

アリくんは弟の面倒を見ていく責任をかみ締めています。17歳のアリくんも、自身も子どもではあるけれど、家族の中では立派な大人として、弟の面倒を見ていかなければならないのです。実際、中学3年で退学して以来、美容師として働いてきました。「僕の夢は成長して立派な男になり、お金を稼ぐことです。そしたら家族だけでなく世界を助けることができるから」とアリくんは教えてくれました。

不足する子どもたちへの支援

人道危機の多くの場合において、保護者を伴わない子どもたちは、定期的に特別なケアを提供され、また安全が保障されるよう、人道支援団体によって支援が行われています。しかし、今回の難民・移民危機下では、アリくんやアーメッドくんのような子どもたちは見過ごされることも多く、人道支援団体がそういった子どもたちを見つけ出し、保護や支援を行うことが非常に難しくなっています。子どもたちは、自力で、そしてお互いを助け合いながら、最終目的地を目指しています。

ヨーロッパへ単独で移動を続けている子どもたちへの対応には、決められた方法があるわけではありません。様々な事情がある中で、必要とする支援も子ども一人ひとりによって異なります。10歳のハッサンくんは、プレセボで荷物の山に紛れて一人でいたため、父親を見つけるまですぐに保護する必要がありました。

子どもが親や保護者を伴わず、また、離れ離れになってしまうことは、まさに危機下で起こっている危機なのです。明らかに支援が不足している一方で、安全とよりよい生活を求めてヨーロッパへと渡る子どもたちは増え続けています。

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