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日本ユニセフ協会
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「若者を戦いに行かせないために、できること」
ユニセフ・キルギス共和国事務所代表による報告会


【2015年10月30日 東京発】

2015年10月30日、ユニセフ現地報告会「若者を戦いに行かせないために、できること」が、ユニセフハウスで開催され、ユニセフ・キルギス共和国事務所の杢尾雪絵代表が、5年前に紛争を経験した多民族国家キルギスで展開されているユニセフの平和構築プログラムを中心に、同国の子どもたちへの支援事業について報告しました。

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中央アジアの多民族国家・キルギス

キルギス共和国(以下キルギス)は2014年に低所得国から中低所得国の仲間入りを果たしましたが、決して国民の暮らしは豊かではありません。中央アジア地域の中では民主化が進む一方で、社会的に不安定な状況が多くあります。

キルギスにおいて特に深刻な指標に妊産婦死亡率や、子どもの教育の質の低さ、そして子どもの貧困率の高さを挙げました。妊産婦死亡率は出生10万人あたり75人と、ヨーロッパ・中央アジアを通して最も高い数字です。(※日本では10万人あたり6人)。教育水準についても、未だに農村部には幼稚園や学校のない地域もあります。さらに子どもの貧困率は45%と、およそ半分の子どもが平均水準以下の暮らしを強いられています。これらの指標の裏には、キルギスが社会的に様々なリスクを抱える複合民族国家という背景があります。

キルギスと日本の指標比較

キルギスと日本の指標比較

山岳地帯にあるキルギスは、国境が複雑に入り組んでおり、隣国の領土が国内に飛地で存在している地域もあります。南部にあるフェルガナ盆地周辺部では隣国のタジキスタン、そしてウズベキスタンの国民が点在して共存しています。この地域では現在、様々な要因から貧困化が進んでいます。

2010年6月にはフェルガナ盆地内の都市で民族抗争が勃発しました。この紛争は、経済格差の拡大や枯渇しつつある資源、宗教的過激主義などの様々な要因から、ソ連崩壊以降、周辺地域の中で最も情勢の不安定な地域のひとつでした。この紛争により家を焼き討ちにあった人を含めた40万人もが避難生活を余儀なくされました。国内の貧困や社会情勢の悪化は、青少年の成長へ様々なリスクをもたらすことが考えられると杢尾代表は指摘します。

キルギス共和国
キルギス共和国
緊張が高まり、衝突が起こるフィルガナ盆地
緊張が高まり、衝突が起こるフィルガナ盆地

若者に渦巻く不満

© UNICEF Kyrgyzstan

キルギス国内における社会不安定や貧困は、若者に様々な影響を及ぼしています。特に10代の若者は職を手にすることができない状況の中、将来の希望を見いだせないでいます。そのような現状に対して、政府による適切な介入や格差是正が進まないことで、不満を感じる若者は一層増えており、状況はより不安定になっていくと杢尾代表は言います。若者はナショナリズムなど操作的・搾取的な力の影響をより容易に受けやすく、最近では女子を含めた若者の一部が、報酬を目当てに過激派組織の徴用に応じるケースや、先の見えない人生の中で精神的な充実ややりがいを求めて過激派組織に向かうケースが報告されています。

教育を通じたユニセフの平和構築事業

ユニセフは、地域の政情安定化や近隣国との平和構築を目的に、公平性促進プログラムを実施しています。青少年の教育を行う青少年センターへの支援もその一環です。青少年センターでは、青少年が社会的スキルを身につけて仕事を得ることを支援したり、リーダーシップやコミュニケーションの仕方を学び将来的に平和に暮らしていく為の情操教育を行っています。中でも特徴的なカリキュラムは「複合言語教育」です。キルギス国内の様々な民族の子どもが、自分の民族の言語とキルギスの公用語であるキルギス語を一緒に学ぶことで、自身のアイデンティティを持ちながら、平和なコミュニケーションが出来るようになることを目指しています。

また、地域住民が主体となって幼稚園の場所を見つけ、建物を修繕し家具を作ることで、地域の一体感を築き、今後の地域の安定化に繋がる事業について報告しました。これらの成果は確実に表れています。青少年センターに参加した若者と参加していない若者の両方に、「コミュニティは、異なる民族の人が参加するイベントを支援すべきか」というアンケートを実施したところ、青少年センターに参加した若者の90%が「完全にそう思う」と回答し、「わからない/決めていない」は1%に留まりました。一方で、教育プログラムに参加していない若者の回答の中で「わからない/決めていない」が16%に上ったことから、青少年センターによって自分の意思を明確にする子どもが増えたということが示されています。

キルギスと日本の指標比較

国境を越えた平和構築

公平性促進プログラムは、2015年に始まり成果を上げている一方で、隣国と一体で行う事業が地域の平和構築に必要であると述べました。隣国と国境を接する地域では、塀の向こうは隣国、という状況が存在します。片側だけに支援が届くことによって届かない側に不満が生まれないよう、隣国のユニセフ・タジキスタンの事務所と協力して、国境の両側の支援を実施し、平等化を図っていると報告しました。加えて、ユニセフのこの取り組みが国内の民主化の推進に寄与していると述べました。キルギスは過去の中央集権の歴史から、地方自治が遅れている傾向にあると言います。ユニセフは現地NGOと協力して、市民による市民参加型の地方自治を考え、実現していく機会作りにも取り組んでいます。

子どもの人権・福祉支援からの地域安定化

ユニセフ・キルギス共和国事務所の杢尾雪絵代表

© 日本ユニセフ協会/2015

ユニセフ・キルギス共和国事務所の杢尾雪絵代表

キルギス国内の政情不安定が引き起こす貧困によって、家庭内の暴力や青少年による犯罪がメディアによって多く報道されています。犯罪に手を染める青少年の家庭では、頻繁に家庭内暴力が行われていることがあり、暴力の被害にあった子どもが、今度は学校内での暴力を起こすという負の連鎖が起こっていると伝えられています。

このような事態を未然に防ぐには、貧しい家庭を支援する社会全体の福祉政策が必要ですが、行政が行うだけではなく市民団体によるサポートが必要であると、杢尾代表は訴えます。

中央アジアの情勢不安定の裏には、こうした家庭内の問題が存在し貧困もその一因です。貧しさの為に施設に送られる子どもや、キルギスの国内総生産における30%がロシアへの出稼ぎ労働者からの仕送りによって支えられていることから、出稼ぎに行った親と離れて親戚などの元に取り残された子どもも多くいます。また、障がいがあるために施設に隔離される子どもなど、差別も根強く残っています。

ユニセフは貧困家庭に生まれた子どもや障がいをもつ子どもを含め、すべての子どもたちが生まれながらに平等な権利があるという、子どもの権利条約に基づき活動しています。子どもが社会から隔離されることのない社会を作り、子ども達の能力を伸ばすことが社会の安定化、経済の成長に繋がります。最後に杢尾代表は、ユニセフはキルギスだけでなく子どもの搾取・暴力のない社会を作るべく活動していくと報告しました。


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