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財団法人日本ユニセフ協会

マリ、人と水のストーリー(1)

水の番人

モプティのグロンボ村には、手押しポンプ付の深井戸があります。井戸の前には順番待ちのバケツの行列。女性たちは井戸端会議をしながら、自分の順番を待っていました。子どもたちは井戸の周りで遊んだり、ポンプを押したりしています。

井戸の前はバケツの行列

井戸の前はバケツの行列

© 日本ユニセフ協会

このザルは、自治体から1世帯ごとに3つが無償で提供

ろ過するためのザルを持ったトコロモディさん

© 日本ユニセフ協会

マリ事務所のスタッフから、この井戸を管理するトコロモディ・カサムバラさんを紹介されました。彼は井戸の正しい使い方を住民に教え、問題があった場合には自治体などに相談する役割を担っています。  

井戸と村人の健康を守る

村の人口は約2000人、朝から晩まで、井戸の前から人がいなくなることはありません。人口に対して井戸の数が十分ではないため、水を汲む女性たちは少しでも短い時間で水汲みができるよう、夜中でも井戸にやってきます。また、複数の部族が暮らしているため、村人同士、言葉が通じないこともあります。家族のため、健康のために、毎日水汲みにやってくる女性たちにとって「順番が違う」「横入りをしたのでは」というもめごとはしばしば。様々な部族の言葉が話せるトコロモディさんは、双方の言い分を聞きながら、女性同士のもめごとを解決へ導きます。

また、トコロモディさんは、メジナ虫病を防ぐために井戸からくみ上げた水を、ろ過してから飲むことをすすめています。
このザルは、自治体から1世帯ごとに3つが無償で提供され、目が詰まる、少しでも穴があくなどすれば、新しいものに交換してくれるとのこと。以前は、メジナ虫病にかかる人が多かったそうですが、井戸の水をこして飲むようになってから、発生件数がゼロになったと話してくれました。

現金収入を得にくい農村で、村人たちがお金を出すことは容易なことではありませんが、清潔で安全な水を得るために、村では井戸のメンテナンスに備えて、1世帯あたり毎月50CFA(約12.5円)を積み立てています。しかし、みんなで協力し合っています。トコロモディさんはお金を集めながら、水で困っていることはないかなどを聞いていきます。

井戸を守る理由

ほぼ毎日、朝3時から夜11時まで井戸のそばで仕事をするトコロモディさん。驚いたことに、 彼はボランティアだというのです。村に井戸ができ、誰が管理をしていくのがふさわしいかを相談していく中で、いろいろな部族の人とコミュニケーションができ、人望がある彼が選ばれたとのこと。兄弟が農業を 営み、兄弟の家族、奥さんと子ども5人と一緒に生活をしています。 9人いた子どものうち、病気や飢えで4人を失ったという彼の話を聞いてみました。

井戸ができる前は…

手押しポンプ付の井戸ができる前、村には2つの水源がありました。
ひとつは人が飲むためのもの。いくつかの家が集まった場所の地面を掘ったもので、深さは14メートルほどのものでした。この地域では木材が貴重なためか、囲いもふたもなく、家の周りで遊ぶ小さな子どもたちが誤って落ちてしまわないだろうか、と不安に感じました。この水を飲んでいたころは、特に雨季にはメジナ虫病が多数発生したとのこと、年配の人の中には、足からメジナ虫が出てきたときの傷が残っている人が多いと聞きました。

このザルは、自治体から1世帯ごとに3つが無償で提供

ロバに水を飲ませに来た少年

© 日本ユニセフ協会

もうひとつは家畜用のもので、村人たちが暮らす場所から、10分ほど歩いたところにある池。以前は、野生の動物がこの池に近寄らないように、また飲み干さないように、村人たちが交代で夜中も見張りをしていたといいます。今でも、家畜はこの水を飲んでいますが、以前に比べて水の量も増えたので、見張りをする必要はなくなったとのことでした。

足元にある穴がかつての水源

足元にある穴がかつての水源

© 日本ユニセフ協会

トコロモディさんの思い

メジナ虫病にかかる人が多かったこの村に、ユニセフは井戸を建設、汲み上げた水をろ過して飲むこと、衛生習慣の定着をすすめてきました。トコロモディさんは語ります。

「井戸ができてから、メジナ虫病にかかる人がいなくなったことは、本当にうれしいです。  
しかし、この村の人口は多い。他の井戸もあれば、女性が夜中に水を汲みにくることもないし、より多くの人が健康な生活を送れると思います。今、一番気がかりなのは、たった一つの井戸が壊れてしまわないかということ。もし、壊れてしまったら、また汚い水を飲むことになり、多くの人が病気にかかるでしょう。修理を呼ぶにしても、一番近くの町から片道2時間以上、費用も10,000CFA(2500円)ほどかかるから、すぐには呼べないかもしれません。また、今は一人で井戸の管理をしているので、自分の用で町に行く、農業を手伝うなどで来られないときは、いつももめごとができてしまうのです。」

皮膚を破って出てきたメジナ虫

井戸のメンテナンスに必要な工具

© 日本ユニセフ協会

井戸を使い続けるために

ユニセフは、村の人たちが持続的に、かつ自分たちの力で井戸を管理・運営していくことを目指しています。マリ事務所・水プログラム担当官のトゴタ・ソゴバによると、この秋以降、ユニセフは各村で井戸を管理している人の数人を選び、井戸の修理のためのトレーニングを実施、修理のための工具や予備部品を提供する予定とのこと。他の村のためにも働いてくれ、また1,000ユーロ(約160,000円)以上と高価な工具を提供するため、最も信頼がおけ、強い責任感と使命感を持っている人を探しているとのことでした。トコロモディさん自身、トレーニングを受けたいとの意思表明をしており、「彼は一番の候補」とトゴタが教えてくれました。

持続的な水の供給のために-メンテナンスの必要性

別れ際、彼に名前を教えてほしいとノートとペンを渡しました。しばらくたった後、「正しく書けたか自信がない・・・代わりに書いてほしい。」とトゴタに頼んでいました。目の前のやりとりと自分の言葉に苦い思いを感じつつ、「こんなに村の人に信頼されているなんて、家族にとっては自慢のお父さんであり、だんなさんだと思う!」と伝えました。トコロモディさんは、照れくさそうに笑顔を浮かべ、私たちは再会を約束しました。この村の人たちの健康を願いつつ、村を後にしました。

持続的な水の供給のために-メンテナンスの必要性

2003年に実施された調査によると、マリには14,182の手押しポンプ付きの深井戸があることがわかりました。しかし、34%にあたる4822箇所が壊れていました。
モプティ地方(8つの行政区により構成):1314の手押しポンプ付きの深井戸のうち、34%の447箇所が、壊れて使えません。 ガオ地方(4つの行政区により構成):207の手押しポンプ付の深井戸のうち、53%の118箇所が、壊れて使えません。

国連ミレニアム開発目標7のターゲット10では「2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生 設備を継続的に使用できない人々の割合を半減すること」を目標としています。マリがこの目標を達成するには、 清潔で安全な水にアクセスできない2,200以上の農村において、年に1,000のペースで手押しポ ンプ付の深井戸の井戸を建設しなければいけません。しかし実際には年に600のペースであり、このままではMDGを達成することは難しいと言われています。

マリ政府は、各村に少なくともひとつの清潔で安全な水源を設置することを目標としています。しかし、2,226の村と遊牧民が暮らす土地では、清潔で安全な水が手に入りません。7,776の小学校のうち、ほとんどの学校には清潔で安全な水源がありません。
マリ政府は人口に応じた水供給政策をたてています。

◎ 都市部では、政府が民間業者の参入を促し、民間業者がサービスを提供します

◎ 農村部では、地下の水脈の深さに応じて、掘削し、井戸をつくります

◎ 中規模の都市や一部の農村部では、太陽発電で動くポンプを使い、水を供給するネットワークをつくっています

※村の定義:人口2000人まで(手押しポンプ付の井戸など、人力で動く井戸)

ユニセフでは、清潔で安全な水の供給をするにあたり、清潔で安全な水がない農村への支援を第一優先としています

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