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HOME > 特集:栄養不良 > 【連載特集】世界の栄養不良、伝統と習慣が絡む複雑な背景 第四回
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栄養不良になるってどういうこと?

連載 第4回 栄養不良、伝統と習慣が絡む複雑な背景

第4回_01 / 02 / 03

■栄養不良・食料不足や貧困だけが原因ではない!

日本

(質問・畑生理沙さん)
ミャンマーでは「お母さんのビタミンB1が不足していることが大きな問題」ということは、母親が豆を食べられない何らかの理由があるということですよね・・?

お母さんたちのお料理競技会では、みんなビタミンB1を補うために、豆が良いことを知っていたということでしたが・・・。

家族の中で母親だけが豆を食べられない、というのはどういうことなのでしょうか? 悪い言い伝えか何かが? 嫁姑問題?? 段々と問題が難しくなってきました(笑)

ミャンマー

<錦織信幸> ドンピシャです。妊産婦さんに対する禁止食品(フードタブー)が大きな原因のひとつとしてあげられています。妊娠中にこれをしちゃいけない、これを食べてはいけないという慣習は日本も含めてどこにでもあるものなのですが、これが文化、伝統、慣習、家族システムの中に強固に根付いているので非常に厄介です。

エチオピア風景
© UNICEF Myanmar/Norani

ヤンゴンから車で30分も走って、普通の町のヘルスセンターに行くとします。そこで妊婦検診に来ているお母さんに「妊娠中に食べないようにしているものはありますか?」と聞くと肉類、豆類だけでなくたくさんの食品がどんどん挙げられます。ひどい場合には「じゃあ、いったい何を食べているの?」と聞くと「白米とバナナだけ」なんてこともあるぐらいです。ちなみにこれは完璧な脚気食です。

そんな馬鹿な、と思われる方も多いと思いますが本当なんですよ。もちろんヘルススタッフは栄養指導をします。でも仮にお母さんがいろいろ食べないといけないということがわかっても、家庭では実施できなかったりします。そう、お姑さんのことがここでも出てきます。

これは、何度か話題になっていますが「栄養不良は食料の不足の問題」と単純に結び付けられない例の一つかと思います。

エチオピア風景

さて、私達のプロジェクトではとにかく出来るだけ早く乳児脚気で赤ちゃんが死んでしまうことをなくしたいので、妊婦さんに対するビタミンB1錠剤の配布を開始しています。また病院できちんと診断が下されて、適切な治療が行われるように医療従事者のトレーニング、ビタミンB1の注射剤の供給を実施中です。これらの活動は単純な乳児脚気で赤ちゃんが死んでしまうという許されざる状況を一刻も早く改善するためにすぐにしなければいけないことなのですが、お金もたくさんかかるし長く続けられることではないです。

やはり長期的にはフードタブー、食生活の変容という大変大きな問題にどのようにアプローチしていくか、これが重要な仕事になってきます。

日本

(質問・畑生理沙さん )
即効性のある錠剤や予防接種は長くは続けられないとのことですが、ということは、なんらかの中期的な対策が必要、ということですよね・・? 当面の間はフードタブーと上手に付き合いながら、問題を改善していくことになるのでしょうか

ミャンマー

<錦織信幸>そうはいっても、フードタブーを放って置いているということではないですよ。妊婦検診などで妊婦さんが理解できるようにヘルススタッフもがんばっていますし、そのヘルススタッフに対するトレーニングも実施しています。ただこちら側の戦略的な見方として、それだけで簡単に解決するとは思っていない、長期的に取り組まなければいけないと考えているということです。

これは単に分類の問題なのですが、私達のプロジェクトでは、医療従事者のトレーニングと乳児脚気に関する啓発活動、注射剤の供給などが短期的活動(これで乳児脚気になった子どもを助けます)、そしてビタミンB1錠剤のサプリメンテーションと食生活変容に関わる活動が中期的活動(これで新たな乳児脚気を減らします)、そして長期的にもやはり食生活変容に関わる活動を続けます。もうひとつ長期的に有効かもしれないとして検討しているのが栄養強化米です。

日本でもビタライスとかプレミックスとか言われて、白米の中に黄色いサプリ米をまぜた商品が脚気対策の切り札として導入されました(昭和52年ごろです)。 覚えていらっしゃる方もいらっしゃるでしょうか。 私は行動変容作戦が完全に成功するよりも、サプリ米を導入する方が結局は最終的な解決になると個人的には考えています。 たとえばヨード欠乏症に対するヨード添加塩は、もうこれ以外の対策はないというほど世界中で認められ成功を収めた戦略です。要するに国中の塩を全部ヨード添加塩に変えてしまえば、それ以外の対策はいらなくなってしまうのです。これによって、極端な話ですが、山に住んでいる人たちにヨードの多いものを食べましょうなどという無茶なことを言わなくても良くなって、それでヨード欠乏は根絶できてしまうのです。なんとなくやり方が気に食わないと感じる方もいるかもしれませんが、こういういろいろな手段の有効性や問題点を考えながら処方箋を考えるのも、栄養対策の醍醐味かもしれません。

しかし強化米を導入するには今のミャンマーはまだ工業インフラが十分ではありません。 私がユニセフのミャンマー事務所にいる間には出来ないでしょう。たとえば10年後にまたミャンマーに戻ってきて、強化米導入でミャンマーの脚気対策に終止符を打つことができればなぁ、なんて、 個人的には思っています。そんなスパンの話です。

今すぐできること

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ミャンマー 錦織信幸(にしきおりのぶゆき) UNICEFミャンマー事務所 保健・栄養担当プログラム・オフィサー 錦織信幸(にしきおりのぶゆき) エチオピアから UNICEFエチオピア事務所 栄養担当専門官ニュートリション・スペシャリスト 岡村恭子(おかむらきょうこ) 岡村恭子(おかむらきょうこ) エチオピアから