祖母が手紙を書くところを、男の子がじっと見つめていました。ある時点で、彼はこう尋ねました:
「僕たちが一緒に遊んだことを書いてるの?僕の話?」
彼の祖母は手紙を書くのをやめ、こう孫に言いました:
「あなたのことを書いているわ。でも本当は、何を書いているかより、私が今使っている鉛筆のほうが大切なの。私はあなたが大きくなったら、この鉛筆のような人になって欲しいの」
その言葉に興味を惹かれ、男の子は鉛筆を見ました。しかし、彼には特別な鉛筆には見えませんでした。「今まで見たことのあるどの鉛筆とも同じだよ」
「それは自分の見方によって変わるのよ。ずっと守れば、世の中と安らかに過ごせる人になれる五つの本質を、鉛筆は持っているの」
「一つ目の本質:あなたは素晴らしいことを成し遂げる力があるけれども、いつも歩みを導いてくれる手があることを忘れてはいけないよ。私たちは、その手を『神』と呼び、神のご意志に従って私たちはいつも導かれているの」
「二つ目の本質:時には、書くのをやめて鉛筆削りを使わなければいけない時もあるでしょう。鉛筆は削られる痛みに少し耐えないといけないけど、その後は前よりずっと尖っている。だからあなたも、何らかの苦しみや悲しみに耐えることを学ばなければいけないよ。なぜなら、それらはあなたをより良い人間にするのだから」
「三つ目の本質:鉛筆は、私たちが消しゴムで失敗を消すことをいつも許してくれる。これは自分が一度起こした行動を正すことは悪いこととは限らない、という意味で、私たちを正義への道の上を歩み続けることを手助けしてくれるの」
「四つ目の本質:鉛筆の本当の価値は外側の木ではなく、中にある黒鉛の芯にあるでしょう。だからあなたも、いつも自分自身の中身に起こっていることに注意しないといけないよ」
「そして最後に、鉛筆の五つ目の本質、それはいつも痕跡を残すこと。まさに同じように、あなたが人生で行うことすべてが何らかの跡を残すことを知っておくべきよ。だから、行動の一つひとつを意識するように努力しないといけないよ」


パウロ・コエーリョ 【Paulo Coelho】(作詞家・小説家)

ブラジルに生まれる。代表作に『アルケミスト - 夢を旅した少年(O Alquimista)』や『星の巡礼(O Diario de Um Mago)』などがあり、世界中の読者を魅了している。数多くの国際的な受賞経験があり、作品は65カ国語以上に翻訳されている。パウロ・コエーリョ・インスティチュートを通じ、自身の国際的な訴求力を使い、貧困に取り組みブラジル社会の恵まれない人々を支援する活動も行っている。