(財)日本ユニセフ協会  
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アグネス大使 モルドバ視察

 マーシャは孤児ではありません。でも、母親はマーシャを愛しませんでした。母親は、マーシャを産むときに、すでにマーシャを子どものいない家族へ売ろうとしていたのです。しかし、マーシャの祖母がそれを止めました。祖母は自分がマーシャを育てようと思っていました。しかし、そのとき、モルドバは厳しい時代へと入っていました。制度が変わり、社会も変わりました。変わらなかったのは、祖母の収入だけ。小さなマーシャは、貧困、寒さ、空腹、絶望の中で育ったのです。
 マーシャは今16歳。でも、年齢より幼く見えます。栄養不良のためです。
 2年前、マーシャはモスクワでの仕事を紹介されました。ついに自分にも幸運がやってきた、とマーシャが喜んだのもつかの間、たどりついたのは売春宿でした。人身売買の仲買人が被害者を見つけるなんて簡単です。地方の村へ行き、貧しい家庭の女の子たちを誘うだけです。明るい将来を約束すれば、「生きた商品」は簡単に見つかります。
 あるときマーシャは、23人の酔っ払いの建設業者と一緒に売春宿へ送られました。モスクワに公式には存在しない不法の建設業者が「存在しない子ども」を一日中レイプしたのです。2日目、酔いが覚めた建設業者の1人が彼女にいくらかのお金を支払いました。彼女は精神的にもまだ子どもでした。そのお金で、水とお菓子と本を買いました。
 多くの人が、人身売買の被害者はおとなの女性だと思っています。しかし、実際には、18歳未満の子どもも少なくありません。人身売買社会復帰支援センターで心理カウンセラーとして働くリリア・ゴルジャグによると、多くのモルドバの子どもがモスクワの路上で買春の犠牲になっているといいます。子どもたちは出入国管理局を避け、不法なルートでモスクワへ連れていかれます。その多くは二度と祖国の地を踏むことはできません。
 人身売買被害者社会復帰支援センターは3年前に設立されました。キシナウにある医療機関の1フロアを借りています。センターの存在は公にはされていません。センターで被害者たちは「クライアント(患者、相談者)」とも呼ばれません。(クライアントは買春の客の意味もあるため、)その言葉を聞くと女の子たちは震えてしまうからです。過去を思い出させるすべてのものが、深い痛みを掘り起こすのです。
 「初めは、おとなの人身売買の被害者を対象としていました」とリリア・ゴルジャグは言います。「現在では、問題はより広範なものになっており、多くの子どもが人身売買に巻き込まれています。直接買われる被害にあう子どももいれば、被害者から生まれた子どももいます。その数があまりにも多いので、子どものための特別なプログラムを私たちは立ち上げました」リリアは続けます。ユニセフの支援を受け、人身売買被害者社会復帰支援センターに当別に設置された“子どもにやさしい部局”では、子どもとその母親のために、医療、心理、精神、社会、法的支援などの専門的なサービスが提供されています。

www.unicef.or.jp

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