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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2003年8月6日掲載>

保護という種をまくとき:出生登録
<アフガニスタン>

1階建ての白い建物の中は活気に満ち満ちています。この医療センターでは、本日「女性の日」が開催され、地区レベルでのポリオ予防接種デー(2日目)も実施されています。その上、出生登録の日でもあり、2人しかいない保健員は大忙しです。アフガニスタンの北東部、スルク・ロッド地域の住民38,000人にとって、このクリニックは保健相談所のような場所です。ですから、人が途絶えることはありません。12キロ四方の地域を担当しているこのクリニックは、地域のライフライン(生命線)にもなっているのです。

シャハラ医師はこのセンターの母子保健調整官で、最近のセンターの成果には大変満足しています。タリバンの時代にも、センターは地域の女性たちに必要な医療サービスを提供し続けてきましたし、辺境地へのサービスも届けてきました。移動保健班がサービスを提供できない地域の地図が壁に貼ってありますが、そこにはもう、印ひとつ残っていません。スルク・ロッドでは、誰しもが何かしらの保健相談を受けている、と彼女は自信たっぷりに語ります。

辺境地では、どんなに頑張ったとしても、一部のニーズにしか対応できないのが普通です。いまだに、センターまで、女性が付き添いなしで一人でやって来るのを許さないコミュニティも残っています。こうした地域では、移動保健班が必須です。ポリオ予防接種キャンペーンの一環として、いくつもの移動保健班が各地を回っています。徒歩で、自転車で、あるいは自動車で…。一戸一戸を訪ねては、5歳未満の子ども全員が予防注射を受けていることを確認して回り、予防接種を受けていない子どもにはポリオの予防接種をその場で実施します。アフガニスタンはあと一歩でポリオ根絶を宣言できるところまで来ています。ここ2年は、報告例がほんの一握りに減りました。そして、今年…今までのところ自然発生の症例はひとつも報告されていません。

こうした仕事以外に、今年はもうひとつ重要な役割がこの移動保健班に追加されました。それは1歳未満の子ども全員を出生登録する役目です。内務省と保健省は、ユニセフの支援を得て、2003年末までに出生登録システムを確立し、ポリオの予防注射と連動させて、100万人の出生登録を目指す活動に取り組んでいます。女性の移動にさえ規制を課す文化の中では、こちらから出かけて出生登録を行うことは重要なことです。ポリオの予防接種チームは、すでに長い経験を持ち、地元での信頼と尊敬、ステータスを勝ち得ていますから、出生登録キャンペーンを繰り広げるにはぴったりなのです。

人口1,000人のサイダン・アラビ村で、ファザル・ラーマンとサイード・オマールはワクチンの保冷箱と出生登録証を持ち、一軒一軒を回っています。彼らは村の住人。みんなが知っている人です。家の門の前に立ち、ファザルが一声呼びかければ、家の人たちは出て来ます。ファザルは温かく迎えられ、今日の訪問の目的を長々と説明する必要もありません。家族たちも、今日は何の日か、すでに分かっているようです。

今、この地域ではトウモロコシがたわわに実り、トマト畑では緑の中に点々とトマトの真っ赤な実が彩りにアクセントを付けています。2人の予防接種員たちは、もうひとつの重要な「種をまいている」のです。そう、村の一番若い世代の子どもたちに健康と乳幼児期を保障する種です。この保健員たちも、サイダン・アラビで働くこと5年。普段は農業に従事していますが、その合間を縫って、予防接種プログラムを支援するために時間を割いて、こうやって村の家々を回っているのです。出生登録システムを予防接種プログラムに組み込むのは比較的短期間で行われました。

「数日間の研修を受けました」とラーマンは説明します。「出生登録証の書き方を教わりましたが、これは大して難しくありませんでした。そのほか1歳未満の子どもを登録する必要性についての講義も受けました。一番問題だったのは、私たちが話している相手が父親だった場合に、母親のほうの名前がなかなか出てこないことです。というのは、男性はなかなか妻の名前を他人には明かさないからです」

でも、アフガニスタン人らしく、改革精神に富んだオマールはこの問題をうまく解決しました。「預言者の名前を私たちは知っていますよね、と父親(夫)に言うのです。イスラムでは、次の世では父親の名前ではなく、母親の名前で呼ばれることになります。それを説明するんです。そうすると、父親は妻の名前を教えてくれます」

緑色の出生登録証に書き込む情報—子どもの名前、年齢、母親・父親の名前、出生地—のほかに、2人はなぜ出生登録が大事かを家族に説明します。

「出生登録はよりよい計画を作るベースになります」とラーマン。「子どもの数が分かれば、将来的に必要な学校の数を整えることができるし、子どもにとってより良い保健サービスを提供することができます。家族に対しては、子どもを出生登録しておけば、子どものアイデンティティ、年齢、国籍が保障されるのだ、ということを強調します」

地理的な面でも、広報の面でも厳しい条件下にあるアフガニスタンで出生登録を実施するのは決して楽なことではありません。でも、最初の出生登録が済めば、子どもへのサービスを計画したり管理したりできるようになります。ユニセフは、地域レベルで、データの入力を行うスタッフの研修や編成を支援しています。これらのデータは、子どもの数を正確に把握していなければならない地区レベルの役人に提供されます。また、このプログラムを通して、アフガニスタンのすべての子どもたちのアイデンティティが保障され、彼らが児童労働の犠牲になったり、違法な養子縁組、早婚、子どもの人身売買の犠牲になったりする危険性を減らすことができます。

これはモハマド・ザルメイが気にしているところでもあります。実は、7カ月になる息子ジャファールが今日、ポリオの予防接種を受け、出生登録証をもらったばかりなのです。子どもは8人いますが、一番小さなジャファールだけが出生登録を受けたのです。それだけに、彼はことの重要性を認識しています。

「今日は息子の未来にとって大事な日です」と彼は言います。腕にはジャファールを抱き、手には出生登録証を持っています。「これでジャファールはより良い子ども時代を過ごすことができるでしょう。これさえあれば、自分が誰なのかを証明できるのですから。これを彼から奪うことは誰にもできません」

ザルメイにとって、データの収集はそれほど大きな障害ではありません。過去30年間、幾度となく政権が交代してきた国では、当局による個人データの収集は疑いの目で見られてきました。でも、出生登録は国の再建プロセスの一部そのものなのです。ですから、逆に自信を与えてくれるものなのです。

「家族と旅行するとき、息子が何者かを証明することができる。適切な時期に息子を学校に行かせることもできる。この証明書は息子も、私も、家族全員をも守ってくれる、大切なものなのです」

ファザル・ラーマンは、記入の終わった出生登録証を束にまとめて、トウモロコシ畑の反対側、数百メートル離れた集落へ向かいます。畑で働くより、こちらのほうが「ピクニック」のようで楽しい、とファザルは言います。しかし、その一方で、自分の予防接種委員と出生登録員としての仕事が、アフガニスタンの未来そのものにとって重要な仕事であることをわきまえています。「私はサービスを提供している。それは心得ています」彼は微笑みながら語ります。「たくさんの人たちの役に立つ仕事ができてとてもうれしいですね」

この村だけでも60人近い子どもたちを出生登録しなければならないと思いますが…と、その仕事については、と聞くと、「いいことですよ。アフガニスタンが前進している証ですから」という答えが返って来ました。

その言葉を残し、二人は次の家へと向かいました。気温50度の灼熱の中を、トウモロコシ畑をかきわけながら彼らは進んで行きます。早朝に起き出して、昼下がりには仕事を終えていなければならないのも無理のないことです。予防接種をすべき子ども、出生登録をすべき子ども。二人の男性、ふたつの仕事、でも目指すゴールはひとつ、自国の子どもたちの明るい未来そのものです。


2003年7月28日 (アフガニスタン北東部スルク・ロッドにて)
エドワード・カルワディン、ユニセフ・アフガニスタン事務所 広報担当

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