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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

2003年3月12日掲載

障害は教育上の障害ではない
〜ナワン・ペカールの場合〜
<ブータン>


ナワンが生まれたとき「すべてが順調だったのよ」母親は出産のときを思い出しながら言います。それが2年後、「すべてが変わってしまったんです」。ナワンは高熱を出し、なかなか熱が下がりません。病院に連れていきましたが、1カ月入院し、病院の特別な監視のもとに置かれることになりました。時々「発作」も起こすナワンでしたが、なかなか原因がつかめません。この頃、ちょうどナワン(2歳)はおしゃべりを始めた時期でもありました。

 せっかく覚えたわずかな言葉も、入院の間にナワンは忘れてしまいました。ナワンとその家族にとっては、絶望の内に時間だけが過ぎ去っていきました。それ以後、定期検査を受けていたナワンでしたが、数年後、初めてインドで診てもらう機会ができました。CTスキャンをかけてみると、ナワンの謎の徴候が解けました。脳が未発達だったのです。

 ブータンに戻ったナワンは、母親のもとでほとんど家を出ることなく過ごしました。ひとりにしたら彼が「発作」を起こし、自分で自分を傷つけてしまうのではないか、とおかあさんは思ってしまったのです。おかあさんとしてはそれが心配で、自分がずっと監視していなければ、と思ったのでした。
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 ナワンが8歳になったとき、インドで脳外科手術をしてみようという話になりました。これが功を奏し、発作はなくなり、医師たちも彼が学校に通っても支障はないだろう、と言ってくれました。

 こうしてナワンは、政府が「基礎教育へのアクセス」と呼んでいるものを実感できるようになったのです。すでにチャンガンカの学校に通い出して1年。クラスの仲間は2〜3歳年下の子どもたちばかりです。でも、ナワンは、みんなのことも授業の大好きです。だからお休みの日でも学校に行きたいと騒ぐくらいです。

 教育省はユニセフと共に、特別教育プロジェクトを開始し、障害のある子どもたち全員に教育の機会を提供しようとしています。政府としてはでき得るかぎり、適切な支援を行って、普通の義務教育の流れの中に障害児たちを参加させようとしています。現在のところ、このプロジェクトはチャンガンカ中学で試験的に運用されています。新しいプロジェクトのテスト校としてここが選ばれたのです。

 学校側もいろいろなことを発見しました。障害児のニーズをまず理解してから学校に受け入れるようにしなければならないこと。障害のある子どもに対して教師もほかの子どもたちも積極的でポジティブでなければならないこと。障害児をどのように支援したら良いのか、それについての研修を教師が受ける必要があること。障害児を普通の授業以外に、ゲーム、スポーツ、そのほかの課外授業にも参加させるべきであること。こうしたことが分かってきたのです。

 当初、ナワンはほかの学校に行っていましたが、チャンガンカ中学で「特別教育プロジェクト」と「基礎教育へのアクセス」プロジェクトが行われていることを聞きつけたナワンの両親は、こちらのほうが適切であろうと判断しました。ナワンは、この試験的なプロジェクトに参加した最初の障害児のひとりです。今後は、「特別ニーズ・コーディネーター」が監督を行うことにもなっています。教師でもあるこのコーディネーターは、子どもの発達、遅れている点、優れている点を観察し、子どもの行動や成果の記録をとることになっています。

 ブータンの14歳未満の子どもの人口は約279,500人。どのくらいの子どもが障害を抱えているのかについては信頼できるデータがありませんが、子どもの人口の3%、つまりおよそ8,000人に障害があると推察されています。中でも聴覚障害児が一番多いと思われます。障害児の多くはまだ、家族などに家で面倒を見てもらっている状態で、学校にも通っていません。

 ナワンがうれしそうに騒ぐと、クラス中がうれしくなります。彼の人懐っこさはみんなにも伝わり、ほとんど誰とでも仲良しです。彼の純真な笑顔に出会うと、拒絶できないのです。

 お手洗いなどは大きな子どもたちがナワンの面倒を見ます。残念ながら、ナワンはまだひとりではお手洗いに行けないのです。でも、幸い、みんなが進んで彼に手を貸してくれます。
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 ナワンは勉強が大好き。話したり聞いたりすることは段々上手になってきています。でも、書くことはまだ苦手です。ひとつのことに集中していることができないのです。興味がすぐにほかに移ってしまいます。ナワンをおとなしくさせておくことは、先生にも大変なことです。何しろ油断をすると、すぐに教室の中をうろうろし出すのですから。でも、ナワンと先生はだんだんとお互いの調子が分かってくるようになりました。大変は大変です、と先生は言います。とくにクラスに35人もの生徒がいるとなおさらです。ナワンひとりに注意を向けていることがなかなかできないのです。できれば特別な補助教師がいれば良いのにと思います。その補助教師がナワンに時間を割いてあげられればどんなに良いだろうかと。一対一でナワンにつきっきりで面倒を見てあげられれば、彼の発達や成長も早くなるはずです。この学校でもやり残している課題はたくさんあります。「リソース・ルーム」を作り、教師に特別な研修を行う計画なども立てられています。

 幸い、ナワンの両親は共に教師で、ナワンが家に帰ってくると、注げるだけの愛情を注ぎ、学習のチャンスを作るようにしています。両親はこの中学でのパイロット・プロジェクトがいい結果をもたらすことを願っています。ナワンのような子どもたちを支援する活動をさらに増やし、障害がネガティブなものではなく生産的なものになるよう、配慮してもらいたいと思っているのです。

 ナワンの両親は障害児を持つ親の会のメンバーです。すべての両親が、障害児向けの特別教育プロジェクトがあることを知っているわけではありません。ナワンの両親は、ほかの障害児の親にも子どもたちを学校に行かせるよう、説得しています。

 このプロジェクトが成功裏に終わった暁には、政府はブータンのほかの県でも同様のプログラムを導入する予定です。

 ブータン王国政府は、すべての障害児は基礎教育へのアクセスが確保され、恩恵を受けるべきだと考えています。そして、本来の義務教育の中で授業を受けることができるならば、できるかぎりそのように持っていき、ほかの子どもたちと同じように質の高い教育を受けられるようにしたいと思っているのです。この目的を達成するためにも、教師の研修の改善も視野に入れられています。

2003年2月24日
ユニセフ・ブータン事務所、ティンプー

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