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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2003年4月8日掲載>

イラク北部では学校が避難所に
〜国内避難民の状況〜
<イラク>

 3月後半、現在の戦争がはじまった頃、アルビル自治区のソラン地区にあるサルダム小学校に二人の幼い子どもが座っていました。学校は、国内避難民のためのキャンプになっており、今、25家族が暮らしています。「戦争から逃げようと思って」と男の子が話します。学校には、水や衛生施設がありません。これは少女や女性にとって特に大変なことで、家を出てから2週間、彼らは体を洗うことさえできずにいます。少女や女性は、付き添いなしで外を自由に歩き回ったり、男性とトイレを共有したりできません。現在この地域の30の小学校で国内避難民の人びとが生活しています。イラク政府の統治しているモスルやキルクークの街からおよそ500人の国内避難民が到着しており、また、数千人がアルビルの街から移動してきています。地方政府やユニセフなどの国連の機関が、この地域の国内避難民キャンプ設立のために活動しています。

〜学校が薄暗い家に変わるとき〜

 小学校。でも、校庭で遊ぶ子どもたちは、通常の児童の姿ではありません。廊下を歩くおとなたちも学校のPTAの会合に来たわけではありません。サルダム小学校は、アルビル自治区のソラン地区にある他の30の小学校と同じように、多くの避難民の避難場所となっています。25家族が暮らしていますが、その生活環境は最悪です。多くの場合、ひとつの教室は複数の家族で共同で使用しなければならず、簡単な布や毛布の仕切り以外はプライバシーを保つスペースもありません。

モハメッドは10日ほど前、ちょうど戦闘が始まる直前にイラク政府が統治するキルクークの街を出てきました。家族の中で男子は彼一人、母親と2人の姉と一緒に「戦争の危険があったから」家を出ました。モハメッドは5年生でしたが、今は何もすることがありません。「でも、他の子と走りまわったり遊んだりしているよ」

ひしめきあって暮らす不衛生な環境が、彼を多くの危険にさらしていることは、あまり気にされていないようですが、モハメッドは、父親がいないことに心をいためています。「父さんは一緒に来なかったんだ。タクシーと一緒にまだ家に残っているんだよ」

多くの男の子が、校庭でビー玉遊びをしています。「これしかないんだもの」と一人の子が言います。「でもこれで遊ぶのは好きだよ」
女の子のグループは、学校の塀に布を広げていました。「学校には水がないから、外へ水を汲みに行ったり、服を洗いに行ったりしないとならないの」と一人の少女が言います。子どもたちの使っている水場やトイレをちょっと見ただけでも、気分が悪くなります。それらはまったく使えないものです。用を足したいとき、男性ならモスクへ行くか、ちょっとした壁のそばや屋上などで座れば、こと足ります。でも、女性の場合はどうしたらよいのでしょう。彼女たちの頼みの綱は近所の家です。でも夜は?「私たちは暗いと出かけることはできませんから、朝まで待つんです」と15歳のシャフラは恥ずかしそうに話します。避難中、女性にかかる負担は確実に増えます。そして、こうした不都合は、彼らが直面している最大の困難のひとつなのです。

きれいな水や衛生施設が不足していることは、他の問題を予告しているようなものです。ここでは、個人の衛生上の事柄について話すことには神経を使います。子どもはだれも手を洗っていませんし、最後にいつ風呂に入ったのか覚えていません。理由は、水と入浴施設がないことにあります。

自由に外を出歩ける男性にとっては、この状況はまだ耐え得るものです。「教員用のトイレを使っているし、モスクにも行きます」とキルクークから3人の子どもとやってきた父親タイーブは言います。タイーブの妻は、数日前に赤ちゃんを産みました。「妻は出産で弱ってしまい、赤ん坊はその日に死んでしまいました。妻もまだ病院にいます」

タイーブはこの状況についてあまり文句を言いません。「ここはまだ悪くないですよ。少なくともここなら安全ですから。でも、水と石油ランプは必要です」と彼は話します。衛生上の問題を解決するためには、「女性用のトイレは必要です。ここから見えないようなものが」

これらの家族の多くがほとんど身の回りのものを持ってきていません。何枚かの毛布があるくらいです。「この部屋に5人の子どもと暮らしているんです」 子どもたちに食事を与えながら母親が話します。「寒いですけれど、このストーブがありますし、石油ランプももらえました。」彼らは、学校のストーブを調理や暖房に使っています。彼女と年長の娘は、洗濯のときには、家のものをすべて持って外へ出なければなりません。

イラク北部、アルビルのソラン地区の学校で。国内避難民の子ども 他のいくつかの学校の状況は避難民が暮らすことを考えるとさらに悪いものです。ユニセフなどの国連機関と自治区政府はソラン地区の近くに国内避難民キャンプを設営しようとしていますが、雨がちな天気によってなかなか進んでいません。また、設営が終わっても、現在および将来考えられ得る数の国内避難民が落ち着くには、その規模は十分とはいえません。

問題をより複雑にしているのは、自治政府が統治しているアルビルやその他の地域から避難してくる人びとがいることです。こうした人びとの多くは親戚などのところへ身を寄せていますが、一部が学校などで暮らし始めています。自治政府は、こうした人びとをすぐに支援が必要な避難民とは認めたがりませんが、学校で暮らし始めている彼らの現実は悪化しつつあります。

2003年3月27日 アルビル、イラク北部/UNICEF
コミュニケーション・アシスタント ナシー・オスマン

*ユニセフ・イラク事務所代表のカレル・ドゥ・ルーイ氏によると、イラク北部では140人の国内スタッフが、ドホーク、アルビル、スーレマニアの3つの事務所で通常通り、ユニセフのプログラムを進めるためにできる限りの努力を続けています。彼らは、自治政府などと水と衛生、基礎保健、基礎教育といった分野で活動を続けています。
現地スタッフは、国内避難民の動きに注目しており、国内避難民がどこにいるのか、何を必要としているのか、帰郷するかどうか、いつ帰郷するかといったことを調査しています。加えて、周辺地域をまわって国内避難民の数と彼らの状況を調べています。また、ユニセフは、この危機の間に、異なる地域から背景の異なるこどもたちが集まったときに何がおこるかを調査するための計画をスタートさせました。


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