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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

2003年12月3日掲載

新しい校舎、新しい希望:雨の中の授業はこりごり
<スリランカ>

 モンスーンの大雨の中、サランガンはおおはしゃぎをしながら、校長のところに走り寄ります。「うれしいですよ、校長先生!」びしょ濡れになった服を手でしぼりながら、ニコニコ顔で報告します。「校舎がどんどんできていくのを見て来たけれど、やっとでき上がったんですね! 雨漏りする教室で勉強しなけくてすむなんて最高だ。ぎゅうぎゅう詰めの教室からも開放されるしね」

 サランガンの学校、カリヤディ中学校は、スリランカの北部マドゥにあります。広大な湿地帯の真中の一番近い町からは車で2時間、かつては内戦の激しかった地区です。この中学校は、新しく校舎を建て直し、質の高い教育を子どもたちに提供しようと、ユニセフが支援している13の学校のうちのひとつです。生徒数は200人。正規の教師は5人。今までは、壊れかけた、教育を行うには不十分な校舎がひとつあるだけの学校でした。

 今週は、ユニセフの支援で新しくでき上がった校舎の開校式を迎えます。新しい校舎は広く、授業もやりやすく、教室数も増えました。新しい校舎ができたことで、子どもたちは、この学校でも、また地域のほかの学校でも、狭い教室に詰め込まれることなく授業を受けることができ、より多くの子どもたちが学校に通えるようになるはずです。

 教育は、内戦後の混乱の中で、子どもやその家族に平常な生活を取り戻す手段を提供する最良の方法です。学校に行くことで、子どもたちは規則的な生活を送ることができ、子どもらしさを取り戻し、友達を作ったり、その才能と可能性を充分に開花させることができるようになるのです。

 スリランカの子どもたちも例外ではありません。20年にわたる内戦で、特に北部と東部の子どもたちの生活は、暴力、破壊、トラウマ、避難生活によってメチャクチャにされ、多くの子どもたちは学校に通うことさえままならなかったのです。北部・東部では、学校に通えない子どもたち、生活費を稼ぐために学校を中途退学しなければならない子どもたち、欠席の多い子どもたち、教授法・学習法の質の悪さなど、多くの問題が山積しています。これらの問題は、避難生活、心理社会的な問題、社会的な問題、栄養不良、健康問題、内戦によるインフラの破壊などに起因しています。就学前の教育、初等教育、中等教育、高等教育のための施設を見ると、完全に破壊され、あるいは部分的に破壊され、手つかずになっている学校が約25%。学校に通っていない子どもの数は94,000人を数えています。

 スリランカの北部と東部の学校については、復興と建て直しが全面的に行われており、ユニセフは、机、いす、水と衛生施設、通学バッグ、図書館、スクール・キットなどを、最も必要としている場所から優先的に提供しています。この地域の校舎建て直し事業の75%はすでに修了し、その合計コストは1400万ルピー(1820万円/1ルピー=1.3円換算)となっています。さらに、ユニセフは、この地域の8つの学校で、損壊した校舎の修復を行っており、84,000米ドル(1008万円/1ドル=120円換算)相当の水と衛生の施設を提供しています。これには、ほかに、32カ所でのトイレ、水源、蛇口の設置とトレーニングも含まれています。

 ユニセフは、政府やパートナーと一緒に、スリランカ北東部全体で、教育へのアクセスの改善と質の改善に向けて様々な努力をしています。子どもたちが学校に行くのに必要な学習資材を手にすることができるようにし、標準化された、効率的な補習授業が受けられるように配慮したり、正規外の授業や夜間授業の実施を可能にしたり、子どもに優しい学習環境が保たれるよう努力しています。

 サランガンは、真っ白いシャツにキラキラと光るプリフェクト(学校から指名された監督生)バッジを付けながら、新しくでき上がった校舎がいかに日常生活を変えてくれるかを説明します。「古いほうの校舎を見てくださいよ」彼は言います。「せまくて、生徒全員は入れないんです。それに雨が吹き込んでしまう建物でしたし。新しい校舎のおかげで、黒板も雨に濡れなくてすみ、外で起きていることに気をとられることもありません。壁はレンガで、通りからの音も遮断できます」

 校長先生は、新しい空間が提供してくれる夢と希望について、サランガンと同じくらい興奮して話します。「この校舎は記録的な速さで建て直されたんですよ。完成までに10週間。教室は4つ、それに舞台もひとつ設けてあります。これは、子どもたちやコミュニティの人たちが、演劇や文化的なイベントを催せるようにと配慮したものです。子どもだけでなく、ご家族の方たちも使うことができるのです。学校は文字通り、すべての人の中心となるはずです」

 雨が小止みになり、サランガンとその友達たちは、校長先生と木陰に入って、新しい校舎がもたらす影響について話を続けます。考えてみれば、かつて、この木陰が臨時の教室になったり、灼熱の太陽を避ける木陰となったものです。停戦合意(2002年2月)が結ばれたことで、スリランカの子どもたちにも明るい未来への可能性が広がりました。今まで内戦の中にいた子どもたちにとって、カリヤディの新しい校舎は、真の意味で希望を象徴するものとなっています。

 モンスーンの雨が再び降り出すと、とっさに子どもたちは新しい校舎の中に駆け込み、真新しい屋根の下で雨宿りを始めました。この校舎の中ならば、雨が激しくなっても、邪魔されることなく、話し続けることができます。校舎はすでに「使用」され始めたようです。

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