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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

2005年3月2日掲載

家族とはぐれ、離れ離れになった子どもたち
<スリランカ>

 14歳のスバは、あの日曜日、母親の命を奪った巨大な波の雷鳴のような轟きを聞くことができませんでした。ですが、彼女はその波を見たとき恐ろしい力を感じ、幸いにも何とか逃げて一命をとりとめることができました。

 スバやその他の何千人ものスリランカの子どもたちの確かな生活は、津波によって終わりを告げました。津波は、子どもたちの生きる世界全体を、ほんの数分の間に粉々に砕いてしまったのです。

 スバは、姉のヴィノリンと一緒に、一時的に緊急避難キャンプのテントに住んでいます。キャンプには、スリランカで壊滅的な被害を受けた東海岸のパラムナイ村出身の、その他の生存者もいます。彼らもみな、住む家を失ってしまいました。雨季のどしゃ降りの雨と極度の湿気のため、避難している人々の不安は増し、キャンプの中の悲観的な空気もより一層悪化しています。

 今日はスバの元を、スリランカのセーブ・ザ・チルドレンから来た2人のソーシャルワーカーが訪れました。スバの視線は、まるで鷹のように2人の顔にくぎ付けになりました。2人は、スバの身元や状況を確認し、今後どのような支援やカウンセリングが必要かを把握しようと彼女のもとを訪れていたのです。

 生まれつき耳が不自由で話すことのできないスバは、茶色の探るような目で2人の唇を読み、とても素早い、上品な身振りでヴィノリンに答えを伝えました。スバは子どものころコロンボで手話を習い、今はバッティカロアにある聴覚障害者の学校の生徒です。父親は漁師をしていましたが4年前に亡くなり、母親も死んでしまったため、今となっては誰もスバの正確な誕生日が分かりません。

 ヴィノリンは、スバと幼い弟をこれからどうやって食べさせ、また教育を受けさせることができるのか、ということが一番心配だとソーシャルワーカーのチームに相談しました。「私の家はもともと貧しかったのに、津波がきてすべてを奪い去ってしまいました。これからどうしたらいいのかまったく分かりません」

 「これは困難でつらいプロセスです」と、セーブ・ザ・チルドレンから派遣されたチームの一つ、スガンシーさんとラディカさんは話します。スリランカ国内では、数百にのぼる緊急避難キャンプに、家族と離れ離れになった子どもや身寄りのない子ども、孤児となった子どもたちが暮らしています。2人はそのような子どもたちをすべて記録し、身分登録する作業を行っています。この作業が完了した後は、家族を捜索し、子どもたちを両親やきょうだい、親類縁者を含めた「拡大家族」またはコミュニティと再会させるための長期にわたるプロセスが始まる予定です。

 スガンシーさんは、この仕事は時折とても不安になることがあると話します。「時々、子どもたちの話を聞いていると心が乱されます。子どもたちのひどい状況に夜も眠れなくなります。必要であれば、子どもたちの話を確かめるために、村に戻って近隣者や家族を見つけ出さなければなりません。しかしいくつかの村はすでになくなり、そこに住んでいた人々もまた、もはや存在しないのです」

 「このような子どもたちの身元を確認する作業は、当初からの優先事項でした」と、ユニセフ・スリランカ事務所の子どもの保護担当官、ビクトルさんは話します。「チームはデータを収集するべく、即座に行動を起こしました。津波が子どもに及ぼした被害やその規模を把握し、現在および将来必要になる対策を明らかにするためです。ユニセフはスリランカで豊富な活動経験があり、また特に北東部において、子どもの保護対策の面で先導的な役割を担ってきたので、津波による二次災害に対処するうえで、こうした経緯が非常に役に立ちました」

 初期の緊急支援の段階において、ユニセフとパートナー団体はチラシをキャンプに配り、子どもの保護と安全、そして両親を失った子どもの通報について意識向上を図りました。「このような環境の中では、子どもたちは暴力、悪徳的な搾取や虐待の被害をとてもうけやすく、そのためできるだけ早く子どもたちの身元を確認し、親戚やコミュニティと再会させることが肝心なのです」とビクトルさんは話します。

 暫定的な調査によると、1,100人以上の子どもたちが両親をともに失っています。しかしそうした子どもたちのほとんどは親類縁者などに引き取られています。さらに3,600人の子どもたちがどちらかの親を亡くしていました。現在の課題は、父親または母親のどちらか片方だけが生き残った、子どもをもつ多くの家庭、そして、亡くなった親戚の子どもの世話をしているおじ、おばや祖父母に支援の手を差し伸べることです。ビクトルさんは語ります。「このような子どもたちは、施設に収容されたり、児童労働やその他の搾取にあう危険がさらに増してしまいます。家族の肩にのしかかる負担がより大きくなるからです」

 ユニセフとそのパートナーは今、心理社会面の分野において新しい国家政策のガイドラインを構築すべく、スリランカ政府を支援しています。その中には、教育制度を通じて心理社会面の対策を社会の主流にすえる努力も含まれています。「財政やその他の面における惜しみない援助、そして子どもの保護問題への大きな意識の高まりによって、今後当面の間だけではなく、将来的にもスリランカのすべての子どもや女性に対する社会的保護システムを強化する機会が開かれました」

 子どもたちの未来のために、ユニセフは多くのパートナーと手を携えて活動を続けています。

2005年2月11日
ユニセフ・スリランカ事務所

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