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財団法人日本ユニセフ協会



ハイチ地震緊急・復興支援募金 第55報
貧困サイクルを打ち破る教育支援

【2010年8月31日 ハイチ発】

© UNICEF/2010/Haiti
ポルトープランスの空港近くの避難キャンプでの生活を余儀なくされているクリスティーヌさん(14歳)。クリスティーヌさんは、比較的学費の安い公立学校に通っています。将来、医者になることが夢です。

クリスティーヌさん(14歳)は、ハイチの首都ポルトープランスにある国際空港近くに設置された、避難を余儀なくされた人々のための避難キャンプで生活しています。「私が知っている唯一のことは、私が何も知らないということです。」活発なクリスティーヌさんは、ソクラテスの言葉を引用して、学校に通う理由を次のように語ってくれました。

「偉大な哲学者、知識人になるためには、勉強しなければなりません。」

クリスティーヌさんは、1月にハイチを襲った大地震の影響で、3ヵ月間学校をお休みしなければなりませんでしたが、今、まさにこの言葉を実行しています。この地震で、クリスティーヌさんの自宅は崩壊。家族は避難生活を余儀なくされました。

学校に通えない兄と妹
© UNICEF/2010/Haiti
ユニセフの支援で設置された臨時の学習スペース。こうしたテントの“教室”の代わりとなる仮設校舎の再建も始まっています。

クリスティーヌさんのぼろぼろのノートには、解剖学の詳細な図がびっしりと描かれています。将来、医者になりたいというクリスティーヌさんの熱意を表していました。

「自分のこの目で、人の身体の中に何があるのか見てみたいし、どうやって心臓が動いているのか理解したいんです」と、クリスティーヌさんは話します。「ジャン・ジャン・ルーズベルトというハイチ人の歌手が言っているように、私は、女性たちのために世界が動いたら、この世界は、素晴らしいものになると思っています。だって、女の子は“あたたかい心”を持っているから。」

クリスティーヌさんは、学校に通っていない兄と妹のことを気にしています。

クリスティーヌさんの兄のジーン・レネイさん(15歳)は、大地震が起こる前に、学校を中退せざるを得ませんでした。母親には、3人の子どもたち全員を学校に行かせるだけの余裕はありませんでした。たったひとりしか学校に通わせられない状況の中、苦しい選択を強いられたのです。ジーン・レネイさんは、今、整備工の見習いとして、毎日、友人の修理工場で働いています。

「息子を学校に通わせられなくても、彼には、将来トラブルに巻き込まれないためにも、少なくとも商売を学んでもらいたいと思っています。」 クリスティーヌさんのお母さんはこう話します。

クリスティーヌさんの妹のアジェンヨーセちゃん(9歳)も、学校に通いたいと思っていますが、ただ学費が高すぎるため、通えない状況です。

母は私の全てです
© UNICEF/2010/Haiti
1月に起きた震災によって、瓦礫と化したポルトープランスの学校。崩壊した校舎の膨大な瓦礫が、新しい学校の建設の大きな障害になっています。

クリスティーヌさんは、学費が比較的安価な数少ない公立学校に通っています。ハイチの学校の多くは私立のため、学費が高く、子どもたちの就学率が向上しない一因にもなっています。

「私が学校に通えるのに妹が通えないなんて、とても、とても悲しいです」と、クリスティーヌさんは話します。「学校から帰ったら、毎晩習ったことを妹に教えています。」

しかしながら、クリスティーヌさんの学習環境にも、問題が無いわけではありません。例えば、教員の欠勤は、ハイチでは常習化しています。教員の多くは、学校に通勤する手段を持っていないのです。

「ときどき、学校に行きたくないと思うことがあります。学校に行っても先生がいないんですから。」と、クリスティーヌさんは話します。「私の母は、『学校に行きなさい。ひょっとしたら先生も学校に来ているかもしれないんだから。』と言います。母は、いつも私に強さを与えてくれます。母は、私の全てです。」

クリスティーヌさんのお母さんは、避難キャンプで、中古のテニスシューズを売っています。お母さんは、仕入れてきた靴を、歯ブラシで隅々まできれいに磨き上げます。クリスティーヌさんのお母さんは、こうして家族を支え、娘の学費を稼いでいるのです。彼女は、避難キャンプを出て、子どもたちに少しでもよい暮らしをさせてあげたいと願っています。

「母は、学校に通うことができませんでした。ですから、私たちには学校に通ってほしいのです。自分と同じような苦労をさせないように。」(クリスティーヌさん)

学校の再建

ハイチを襲った地震により、約4,000校の学校が全半壊しました。できる限り早く、こうした学校を再建することが、教育分野におけるユニセフの最優先課題です。

震災直後、子どもたちのニーズに合わせて、飲料水や衛生施設(トイレ)のある大型テントに、臨時の学習スペースが設置されました。こうした臨時教室の代替手段として、今、仮設校舎の建設が始まっています。

「震災後、学校を見に行きました。」クリスティーヌさんは、その時のことを思い出して話します。「私の学校の隣に建っていた小学校が、私の学校の上に崩れ落ちていました。私の学校の教室や校長先生の部屋は、メチャメチャになっていました。今は、テントで勉強しています。とても暑いです。」

教育が、クリスティーヌさんにとって、かけがえのない大事なものであることは明白です。ハイチの全ての子どもたちにも、同じことが言えるでしょう。

「ハイチ政府に、学校を再建してほしいと思います。私たちの後にも、子どもたちはいるんですから。」クリスティーヌさんは、このように話します。「教育がなければ、人生なんてありません。教育は、人間の尊厳を高めるものなのですから。」