財団法人日本ユニセフ協会




【新着情報:2004-1-6】


イラン南東部地震(第5報)

1,800人が両親を失い、5,000人が片親を失う…
調査結果が示す被害状況とユニセフの取り組み

 1月3日から5日にかけて、国連の合同被害調査が実施されていますが、これに先立ってユニセフなどが実施した調査結果が次第に明らかになっています。1月8日には国連の合同アピールが発表される予定で、水と衛生・子どもの保護・教育における主導機関となったユニセフもこれに向けて被害状況および今後の取り組みについてのレポートをまとめつつあります。

■ 概況

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  • UNDAC(国際災害評価調整)によると、1月4日時点でイラン当局によって公表された死亡者数は3万〜3万2千人にのぼっている。地震後、80回にわたって余震が続いている。大半の人々は、崩れた自宅近くに立てたテントで生活している。
  • イラン赤新月社によって、最も被害が大きかったと確認された人々が、バムの郊外に設置された3ヶ所の小規模な一時避難キャンプに次第に移動してきている。
  • バムの再建が完了するまで長期間生活できる3ヶ所の長期型避難民キャンプの設置が計画されている。1ヶ所はスイスの救援チームやワールドビジョンの支援を受けて、バムの郊外に設立されている。
  • イラン赤新月社は、イラン政府によって、このキャンプの運営とキャンプ内の基本的な施設の設置等を要請されている。イラン政府は、3つの長期型キャンプ(プレハブ製)のうち2つ目の設置を検討しており、詳細が話し合われている。
  • UNDACによると、250村における調査によって、18,000戸の家屋が全壊したことが分かった。現在も、一時避難のための住居が主な課題である。
  • 現在のところ、治安上の問題点は報告されていない。しかし当局は、国際キャンプの入場チェックを強化しており、外国人スタッフはIDカードを所持するよう要請している。また、国連の安全管理担当官の駐在が要請されている。
  • イラン政府は、これまで制限を設けていなかったケルマンとバムへの支援物資輸送便について、無制限処置を停止した。これは、物資の保管場所が限界にきていることと、税関手続き施設の不足が原因である。
  • ユニセフと他の国連機関、NGOは、現在、現地の軍事キャンプ内であてがわれたテントを事務所にして活動しているが、政府当局によって1月6日までに移動するように求められている。ユニセフの事務所用テントはサッカー場に立てられる予定で、現地の6人のスタッフが、会合や視察などで多忙を極める中、自身でテントをたたみ、もう一度立てる作業を行っている。
  • ユニセフは現地でインターネットにアクセスできるようになった。しかし、まだ速度が遅く、限定的なものである。

■ 前進と課題

  • セクター間の調整を行う会合が続いており、基礎サービスの点から、バムの現況についてより詳しい情報が得られるようになった。
  • ユニセフは、1月3〜5日に実施されている国連合同被害調査の一員として、政府当局や国連機関、NGOとの会合に参加し、予定されている国連の合同発表に向け、水と衛生、子どもの保護、教育の各分野についての発表内容を準備している。ユニセフは、すでに、今後3ヶ月間の主要な優先事項を明示している。
  • ユニセフは、できる限りの対策が生存者の(崩れた)家の近くでとられる必要があるとするイラン政府の計画を慎重に見守っている。政府は、避難民キャンプを設置しているにも関わらず、人々は家の近くにいたいと強く願うだろうと言い、しかるべく計画が進められるように望んでいる。
  • 政府当局は、避難民キャンプを運営する方が物資輸送などの面から容易であると考える一方、人々がいたいと願う場所へサービスを提供する方が心理的な利点があるとも考えている。破壊されてはいても、自分達の持ち物の痕跡が少しでも残っているところにいた方が、すべてを失ったと感じないですむのである。当局は、町自体がまだ生きていると感じられることが重要、と指摘している。

分野ごとの状況とユニセフの優先的な取り組み(調査結果から)

1.水と衛生
 バム市は、街の郊外にある11基の掘り抜き井戸(深さおよそ200メートル)が市民の水源となっている。うち9基は、現在も問題なく使える状態にある。通常、水は街から2kmほど離れた4基のタンクに貯蔵されている。(3基の容量は1万m3、1基は5千m3)これらの地下のタンクには、地震の影響はなかったようである。
 街へ続く主要な水道管は2本あり、1本(直径700mm、セメント製)はまだ機能している。しかし、もう1本(直径600mm)は機能していない。水道は高架式タンクのない重力式のもので、現時点で街の20%に水を供給している。それ以外の地域については、60ヶ所に給水所が設けられ、80台の給水車が水を供給している。
 水質は、もともとの水質が良く、井戸に(浄水用の)塩素ガスを使用していることから、きれいで飲めるものであると思われる。しかし、バムの水質試験所は地震によって破壊されている。
 周辺の村々では、20基の井戸を水源としていたが、すべてが被害を受け、使える状態ではなくなった。現在、この地域のおよそ60村が外部からの給水に頼っており、70台の給水車が巡回している。給水車の不足が課題だが、大型の水タンクがまもなく到着する予定で、問題の一部はこれで解決できる見込みである。
 ユニセフは衛生問題を懸念している。ユニセフの調査チームが出会ったバムの住民は、地震発生の日から体を洗うことすらできずにいる。ひとつのテントに7〜10人がひしめきあっており、衛生状態が悪化し、特に女性にとって厳しい状況となっている。バムの住民の中には、シャワーを浴びるために200km離れたケルマンまで行かなければならない人もいる。保健省は、トイレ1万基とシャワー1,500基の設置が必要としている。

水と衛生分野におけるユニセフの優先的取り組み

ユニセフは、緊急衛生ユニット(ダムの決壊で1万人が避難したシリアのケースをモデルにしたもの)の提供を慎重に検討している。
ユニセフの水と衛生担当官、技術者、政府当局者が、このユニットについて話し合い、2基のトイレと1基のシャワーを1ユニット(1ユニットあたり50人を対象、男女別)とする案が検討されている。
ユニセフは、NGOと協力し、特にバム市郊外の村々の井戸の修復を優先的に行う。
ユニセフは、水質検査を続けられるように水質検査キットを提供する。

2.子どもの保護
 調査により、バムの人々、特に子どもたちのトラウマ(心的外傷)は、非常に重大な問題であることが確認された。
 緊急事態の初期に、赤十字国際委員会は40名からなる女性のPTSD(心的外傷後ストレス障害)支援チームを送った。彼らは、数日のうちに活動を終了する。追加で、30名の精神科医と100名の心理療法士が、ドイツのSamariter Bundとフランスの国境なき医師団から到着する予定で、彼らが精神保健面からの活動を続ける予定である。また、OCHA(人道問題調整局)によると、デンマークとアイスランドの赤十字社が、赤十字国際委員会の現地ボランティア研修のため、合同の心理社会研修チームを送る予定である。
 保健当局者によると、バムとその周辺地域で、1,800人の子どもたちが地震によって孤児となった。(この調査における「孤児」とは、両親をともに失った子どもを指す。他に5,000人の子どもが片親を失ったと推定されている。)1月4日付の当局の推定では、保護者とはぐれた100人の子どもがケルマンに移されている。

子どもの保護におけるユニセフの優先的取り組み

ユニセフは、保護者とはぐれたり、失ったりした、学校にあがる前の6歳未満の幼児に対し、心理社会面での支援を行う。
ユニセフは、孤児になったり片親を失ったりした数千人の子どもに対し、迅速に心理社会面での支援を行い、彼らの基本的ニーズにこたえられるようにする。
ユニセフは、ケルマンに移された子どもたちに、保護とケアを提供できるようにする。
ユニセフは、政府の福祉機関とともに、レクリエーション活動や心理社会的な支援を行うことができる子ども用のテント(1張りあたり30人用)の設置を計画している。支援は、0〜7歳のグループと7〜18歳のグループとに分けて実施される。ユニセフはこのために24張りのテントを調達しており、さらに必要に応じて調達する予定である。

3.教育
 政府当局は、この地域で1月10日から学校の再開を計画している。しかし、学校の設置場所や様式、教員をどう確保するのかなど、計画の詳細はまだはっきりしていない。また、1月5日にAP通信が伝えるところによると、生徒の登録が始まっているとのことだが、国連およびユニセフはこれを確認できていない。
 ユネスコによると、バムには131校の学校(小/中/高など含む)があったが、ほとんどすべてが破壊された。また、バムにいた生徒(就学年齢の子どもすべてを含む)は全部で32,443人で、18,000〜20,000人が生存している。そのうち、バムに残っているのは2,000〜3,000人である。

教育におけるユニセフの優先的取り組み

ユネスコとNGOは、残っている生徒の登録を行い、教育を再開できるようにするためのテントの設置を計画している。これらのテントは男女別にはなっていない。
ユニセフは、400キット以上の"スクール・イン・ア・ボックス"を送る準備ができており、教室再開の準備が整い次第、運び入れることができるようになっている。しかし、当局とさらに調整を進めなければ、詳しい日時や計画の詳細を決めることができない。さらに、地震によって多くの教員がいなくなってしまったため、当面の間バムでの教育活動に責任を持ってくれるボランティアを募り、彼らが働きやすくするための何らかの方策を考える必要がうまれている。

--保健について--

 状況の定義や書式、対処計画などを統一化するためにも、現地で活動しているチーム同士が、緊密な調整を図る必要があることが合意されている。WHOや保健省、ユニセフは12地域における17種類の疾病の状況について監視を続けている。現地の臨時病院に対して下痢症に注意するよう要請しており、移動調査官が病院をまわって情報を収集している。1月4日時点でUNDACは、53件の下痢の症例を報告しているが、時間や発生場所などについては明らかになっていない。臨時病院はだんだんと減っており、1月4日時点で6ヶ所が開いている。

■ 国連の調整

  • UNDAC(国連災害評価調整)とFACTが、異なる情報源(当局、赤十字、国連機関、NGO、現地のその他の機関)からのすべての統計や数値を統合することを計画している。これらの統計が今後のレポートに使われることになる。
  • UNDACは、スタッフの数を5人に減らし、バム及びケルマン空港のレセプションセンターを閉鎖した。この機能は、現地の空港当局者とイラン赤新月社に引き継がれ、1月8日までにはその機能自体がUNCT(国連国別チーム)に引き継がれる。
  • OCHA(人道問題調整局)は、1月3日時点で、これまでに届いた資金および物資支援の総額は7,390万米ドルにのぼると報告した。

■ 現地のユニセフ・スタッフ
 現在、現地では9人のユニセフスタッフが活動している。