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財団法人日本ユニセフ協会



パキスタン緊急募金 第41報
女性と子どもたちを襲う度重なる緊急事態

【2010年9月28日 パキスタン発】

パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州にある美しいスワート渓谷は、現在、複雑な緊急事態に直面しています。2009年5月、この地域で軍事行動と武力紛争が勃発。さらに2010年7月には洪水被害に見舞われ、同州の約380万人が被災。数千人もの人々が深刻な影響を受けました。

特に子どもと女性の保健と栄養面の問題は深刻です。

「子どもと女性たちは、この紛争でひどい影響を受けました。さらに、紛争による被害に対する早期復興支援活動がまだ終結していないうちに、建国史上最悪といわれる今回の洪水に襲われたのです。」ユニセフのパートナーとしてパキスタンで活動しているNGO「アバシーン基金」の責任者、ジャベド・アフリディさんはこう話しました。スワート地区で、ユニセフは、こうしたパートナー団体と共に、人々を啓発し、「母子の日」キャンペーンをはじめ、その他にも保健や予防接種のキャンペーンを実施しています。

コミュニティとの連携
© UNICEF Pakistan/2010/Dhay
パキスタンのコト・ナウェイ・カレイ村で、一軒一軒訪問して、ポリオの経口ワクチンを投与する保健員。

アフリディさんは、洪水によって橋が流され、道路が浸水したために、様々なサービスへのアクセスがますます困難となった農村部の女性と子どもたちが、深刻な保健面の問題に直面していると訴えました。

「冬の時期が近づいているので、雪によってさらに多くの地域が孤立するのではないかという別の不安も募ります。」(アフリディさん)

こうした基本的な保健サービスへのアクセスが限られている母親たちのために、ユニセフは、昨年から「母子の日」キャンペーンを支援し始めました。このキャンペーンは、ユニセフのパートナーである地元NGOが運営し、子どもの生存支援のために効果的で安価なパッケージが配布されています。キャンペーン期間中は、特に農村部の子どもたちに予防接種を実施し、虫下しの錠剤を配布します。母親たちには、母乳育児や基本的な衛生について、また、肺炎や下痢性疾患の病状を判断し、対処する方法など、家庭で実践すべきことも伝えています。

ユニセフは、パートナーと共に、カイバル・パクトゥンクワ州やその他の洪水被災地の、最も弱い立場の人々に迅速に支援を届けるために活動しています。例えば、コト・ナウェイ・カレイ村では、この地域の基礎保健部門の予防接種チームが一軒一軒訪問して、はしかのワクチンを行うために子どもたちを確認し、登録作業を行ったり、その場でポリオの経口ワクチンを投与したりしています。

また、予防可能にもかかわらず命を脅かしている病気の予防接種を、全ての子どもたちに効率的に行うため、こうした予防接種チームは、村のリーダーと話し合うなど、コミュニティと協力して活動を行っています。

女性と子どもたちのための支援の改善
© UNICEF Pakistan/2010/Zak
パキスタンの「支援物資配給所」で、妊婦と授乳中の女性に、保健の教育を行っているコミュニティの保健員。

今日までに大きな前進はありました。スワート渓谷や、他にも深刻な洪水の影響を受けたカイバル・パクトゥンクワ州の地域で、先月、ほとんどの子どもたちがポリオとはしかのワクチンを受け、ビタミンAが投与されました。スワートでは、母子の日キャンペーンによって、約3万2,000世帯に支援が届けられ、5,000人近くの妊婦が登録され、清潔な出産キットを提供されました。また、危険な状態であると判断された129人の妊婦が病院や保健施設に急送されました。

パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州を襲った洪水の被災者には、数十万人もの女性と子どもたちが含まれています。破壊的な影響を及ぼしたこの洪水は、子どもと女性に最も深刻な影響を与えました。洪水以前にも既に、女性と子どもたちは、パキスタン全域で最も厳しい立場に立たされていたのです。パキスタンの新生児と妊産婦の死亡率は高く、特に農村地域で深刻です。

ユニセフの報告(UNICEF’s Multiple Indicator Cluster Report on Pakistan (2008))によると、カイバル・パクトゥンクワ州では、出生1,000人あたり100人の子どもたちが、5歳の誕生日を迎える前に命を落としています。この多くは、下痢性疾患や肺炎といった予防可能な病気で、1歳未満で死亡しているのです。洪水によって、この状況はさらに悪化しています。保健当局の報告では、急性呼吸器感染症、急性下痢、マラリア、皮膚病に陥る子どもの数が増え続けています。

ユニセフは、パートナーと共に、「女性保健員」プログラムや「全国妊産婦と新生児、子どもの保健」プログラムといったコミュニティを基盤とした保健キャンペーンの規模を拡大し、前向きに取り組んでいます。また、ユニセフは、コミュニティを基盤とした、妊産婦や新生児、子どもへの保健サービスを再開するため、医薬品や資材、その他の支援物資を提供し、こうした支援活動を拡大していく予定です。

重なる打撃
© UNICEF Pakistan/2010/Zak
ユニセフが支援している保健キャンペーンを支援して、コミュニティの会合で話すデリ村の長老のアビブ・カンさん。

「母子の日」キャンペーンでは、保健員が一軒一軒訪問して回っている他にも、「支援物資配布所」で、様々なサービスや保健に関する教育を提供しています。そこでは、保健員が、カウンセリングを行い、重点的に保健や衛生、栄養についての理解を深め、行動を促す活動を行います。また、下痢による脱水症を緩和する経口補水塩(ORS)の作り方の実演や、下痢、肺炎、皮膚感染症、マラリアのような予防可能な伝染病についての、子どもの命を助けるために非常に重要なメッセージも伝えています。

同時に、妊産婦や母親たちに対し、訓練を受けた助産師による出産前後の健康診断も実施されています。

スワート渓谷にあるミンゴラ町出身の助産師、ハヤト・ビビさんは、コミュニティ保健員として働いています。ビビさんは、妊娠や、妊娠に関係する健康面での問題について女性たちに助言しています。ビビさんは、コミュニティは現在、これまでで最も難しい場面の一つに直面していると話しました。

「私たちは、まだ武力紛争の影響から立ち直っていません。そしていま、この州に、苦難が降り懸かっています」と、ビビさんは話します。「これまでの人生で、こんな洪水は見たことがありません。」