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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第56報
「子ども時代」を失わせないために・・・日本人職員 園田智也さんの報告

【2013年7月17日 東京発】

© 日本ユニセフ協会
多忙なスケジュールの合間をぬって登壇してくださったユニセフ・シリア事務所の教育専門官 園田智也さん。シリアの子どもたちの現状、紛争が子どもにもたらす影響、必要な支援、そして皆さまからいただいたご支援の使途について説明してくださりました。

7月17日(水)、一時帰国中のシリアのユニセフ現地事務所で教育専門官として活躍する園田智也(そのだともや)さんが、東京のユニセフハウスで、現地の最新状況を報告してくださいました。

シリア内戦に巻き込まれている人は、現在までに約680万人(総人口2,200万の3人に1人)。そのおよそ半数の約310万人は、子どもたちです。家を失い国内避難民となった子どもたちは、200万人に上ると推定されています。子どもたちは毎日、殺人、性的暴力、拷問、拘束、武装勢力による誘拐といった非人道的な現実にさらされています。

“失われた世代”

首都のダマスカスを拠点に、ホムスはじめ国内各地の現場にも足を運びながら支援活動にあたっている園田さんは、「どんなに短い期間であっても、紛争の傷を受けた子どもたちが安全な環境で学べて、遊べる場所を提供することが急務です。もし、シリアの子どもたち、特に女の子たちに学習の場が提供できなければ、この世代の子どもたち全体が『ロスト・ジェネレーション(失われた世代)』になってしまう危険性があります」と訴えます。

「子どもたちが成長し、やがて家族をつくっていく中で核となるのは、自身の子ども時代の経験。その子ども時代に紛争などを経験するということは、彼らが“失われた世代”になってしまう危険性があるということなのです」 園田さんは、シリア国内で撮影された、子どもたちが“戦争ごっこ”をしている写真や、自動小銃を肩にかけた大人たちに囲まれながらカメラにおもちゃの銃を向ける子の写真などを紹介しながら、“失われた世代”が生まれつつある現状に、警鐘を鳴らしました。

教育がもたらす希望

© 日本ユニセフ協会
「左は裕福な人々の幸せな生活、右は、不自由な避難生活を強いられている自分たちの様子を描いています」 シリアの子どもたちが描いてくれた絵を見せながら、紛争が子どもたちに与えている影響を語る園田さん。

ユニセフは、内戦が続くシリア国内でも、水と衛生、子どもの保護、保健といった分野で緊急支援活動を行っています。園田さんが担当する教育の分野では、プレハブ校舎や教室の設置、教材や文房具の提供などの支援を展開しています。また、物資の支援だけでなく、教員の研修の他、「子どもにやさしい空間」や「スクール・クラブ」と呼ぶ活動などを通じて、子どもたちの心のケアにも力を入れています。

教育を受けることができる環境を整えることは、学習の機会そのものを提供する以上に、住みなれた場所を離れ、不自由な環境の中での避難生活を余儀なくされている子どもたちに、地域とのつながりを作る貴重な場を提供することにもつながっています。一方、危険な環境の中で通学が困難な状況に置かれている子どもたちのためには、自宅でも学習できるプログラム『セルフ・ラーニング・プログラム』を導入する準備を進めています。

園田さんは、教育が子どもたちにもたらす可能性を、次のように説明します。「学校は、子どもたちの世界を広げてくれます。それは、単に知識を増やしてくれるということだけではありません。例えば、名前を書けるようになるということも、子どもたちに自信を与えます。そうして自信を得た子どもたちは、より積極的に地域と関わるようになり、社会の一員としての役割を果たせるようになるのです」「紛争という厳しい状況の中に置かれている子どもたちだからこそ、彼らの可能性を十分に引き出せる環境を整えることが必要です。人の一生の中で“子ども時代”は一度きり。その時期に、どんな経験をするのかは、子どもたち自身にとっても、そして社会や国にとっても大変重要なことなのです」

今、必要な支援

© 日本ユニセフ協会
会場には100名近くの皆さまが来協くださり、園田さんの話に熱心に耳を傾けていらっしゃいました。来協いただいた皆さまからも、現場の声が聞けてよかった、との声を多く伺うことができました。

「教育も受けられない子どもたちが時間やエネルギーを持て余し、武力グループに加入するケースも見受けられる」と、園田さんは、内戦が続くシリア国内の多くの子どもたちが置かれている現状を危惧します。「子どもが子どもらしく育つことができる場所、可能性を引き出せる場所として教育を受けられる環境が必要です」「でも、ユニセフが必要としている資金は圧倒的に不足しています。みなさんのご支援が、今必要なのです」と、更なる支援を呼びかけました。

来協くださったみなさまからは「教育という支援が子どもたちの精神面のケアに役立ち、子ども時代の質を高めることがよく分かりました」「どの国に住んでいようと子どもたちの未来は明るく希望に満ちていなければなりません。子どもたちが戦争・内戦等に巻き込まれることのない様に援助の手を差し伸べることは、私たち大人の責務であると思います」といった声を頂戴しました。

ユニセフでは、シリアでの紛争の影響を受けている子どもたちへの支援活動を拡大・継続するための資金として、国際社会に対し4億7000万米ドルの資金を要請していますが、資金の達成率は5割弱にとどまっています。教育部門における達成率は26%にとどまっているとの報告もあります。シリアの子どもたちが明るい未来を築き、将来のシリアを担っていけるよう、ユニセフは引き続き、シリアへの支援を続けて参ります。

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