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日本ユニセフ協会
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イエメン
重度の急性栄養不良に陥った幼い子ども
ユニセフ支援の治療センターで回復へ

【2019年1月29日  イエメン発】

暴力が激化してから来月で4年目を迎えるイエメンは、世界で最も深刻な人道危機に直面しています。紛争によって農業セクターは深刻な影響を受け、食料価格の高騰などで食料危機が高まるなか、子どもたち、特に新生児の赤ちゃんは、十分な栄養を摂れずに栄養不良に陥り、命を落とす危険に晒されています。

懸命に生きる一家

オシャーと呼ばれる小さく粗末な家で暮らすフセインさん一家。

© UNICEF/UN0276403/AlGhabri

オシャーと呼ばれる小さく粗末な家で暮らすフセインさん一家。

フセイン・アーメッド・イブラヒムさんは、フタイダという港町で、母や妻、子どもたちと一緒に、泥でつくられヤシの葉で覆われた、オシャーと呼ばれる小さく粗末な家で暮らしています。3つの小さな部屋とトイレがあり、3家族が生活を共にしています。雨が降ったら崩れてしまう恐れのあるオシャーですが、フセインさん一家は、壁に絵を描いて少しでも日々の生活を明るくしようと工夫し、困難な状況にもかかわらず懸命に生きています。

3人の息子と3人の娘をもつフセインさんは、フダイダで広く使われているロープ製のベッドを作って売り、生活の糧にしようとしています。けれども、日々のそうした稼ぎは、一家が食べ物を買うには十分ではありません。一家が暮らすオシャーも、雨によって簡単に被害を受けてしまいます。

フセインさんの母親は、「息子は家族が生活するために、一生懸命働いています。私たちは何も持っておらず、誰も私たちを助けてくれません」と嘆きます。

紛争は、イエメン全土の多くの人々に暗い影を落としています。けれども、今も続く衝突と、物価の高騰、基本的サービスの欠如に直面するフダイダの住民にとって、苦しみはさらに多くなります。紛争が起こる前、物価は安定しており、フセインさんは自分の稼ぎで一家を養うことが何とかできていました。けれど、物価が高騰した今、フセインさんの稼ぎは十分ではなくなりました。

「私の毎日の稼ぎでは、十分な食料を買うこともできません。それに、オシャーが壊れて住めなくなるのではと、いつも心配しています」(フセインさん)

幼い娘が重度の栄養不良に

治療用ミルクを飲むドゥーアちゃん

© UNICEF/UN0276436/AlGhabri

治療用ミルクを飲むドゥーアちゃん

そしてフセインさんの娘のドゥーアちゃんは、重度の急性栄養不良に苦しんでいました。

「苦しんでいる娘を見て、生き延びるのは難しいかもしれないと思いましたが、諦めはしませんでした。お金を借りて、一番近くの保健センターに連れて行きました。車で片道1時間かかる場所にあります。センターまでの道中で亡くなってしまうのではないかと思うと、とても怖かったです」と、フセインさんは当時のことを思い出し、目に涙を浮かべて語ります。

重度の急性栄養不良と肺炎を患い、ユニセフが支援する治療センターに連れてこられたドゥーアちゃんは、とても弱っていて、母乳を飲むことさえできませんでした。

ユニセフが支援するこの治療センターは、栄養不良の母親と子どもに対し、包括的な医療サービスを提供しています。子どもへの治療は無料で、母親たちへの食事も提供されます。また、母親に対して保健や栄養に関する知識の向上を目指し、コミュニティ教員も配置されています。センターが対応する重度の急性栄養不良のケースは、月間およそ50~60件で、子どもと母親が必要とするサービスをすべて提供しており、通院の交通費も提供しています。

治療センターの医師は、「センターに連れてこられたドゥーアに、治療を施すとともに、改善の見込みが見られるまで治療用ミルクを与えました。子どもに対する栄養治療だけでなく、母親に対する保健教育もおこなっています。再び栄養状態が悪くならないように、母親に食事の作り方なども教えます。また退院後は、必要な体重に達するまでは、子ども用の栄養補助食を渡し、家族と連絡を取り続けます」と言います。

一方で、医師は、家族の経済的状況が幼い子どもに与える影響について、不安を口にします。

「私たちは、センターにやってきた子どもたちに医療を提供し、家族への啓発を行いますが、それだけでは十分ではありません。フセインさん一家の経済状況が懸念されます。退院後、ドゥーアちゃんの健康状態に、そのことが悪影響をおよぼすのではないかと心配しています」(医師)

ドゥーアちゃんの笑顔が一筋の光に

回復したドゥーアちゃんを抱く母親のザーラさん、父親のフセインさん

© UNICEF/UN0279211/AlGhabri

回復したドゥーアちゃんを抱く母親のザーラさん、父親のフセインさん

退院したドゥーアちゃんは、母親のザーラさんとともに家に戻ってきました。「ドゥーアが家に戻ってこられるかどうか、不安に思っていました。けれどセンターの保健員が、治療薬と治療用ミルクを与えてくれたので、元気になりました」とザーラさんは娘の回復を喜びます。

姉のメレイアさん(15歳)も、ドゥーアちゃんの退院をとても喜びました。「ドゥーアが元気になって、こうして会えるなんて、信じられません。」

迅速な治療受けたことによりドゥーアちゃんは幸い一命を取り留め、今ではにこにこと元気な様子を見せています。「娘が生きて家に戻ってきてくれて、笑っているだけで十分です」そう話す父親のフセインさんは、ドゥーアちゃん含めイエメン全土で暮らす子どもたちを支援するユニセフの活動に、感謝の想いを口にしています。今も一家の厳しい生活は続いていますが、ドゥーアちゃんの笑顔が一筋の光をもたらしています。

* * *

イエメンでいま、人道支援を必要としている子どもは1,130万人。これはイエメンの子どもの約9割にのぼり、なかでも重度の栄養不良に苦しむ約40万人の乳幼児はただちに栄養治療を施さない限り命を落としかねない状態にあります。

ユニセフは、イエメンの保健施設において、子どもの重度の急性栄養不良を予防し治療するためのプログラムの実施を加速させてきました。昨年一年間で、ドゥーアちゃんをはじめとし、イエメンで暮らす約31万人の重度の栄養不良の子どもに治療を届けることができています。しかし、今なお続く紛争の中、苦しんでいる子どもたちはまだ多くおり、ユニセフは懸命に支援を続けています。

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