【2021年8月2日 ベイルート（レバノン）発】
昨年8月にベイルートで起きた大規模爆発から1年が経過し、ユニセフは発生直後から支援を続けています。
レバノン事務所の杢尾代表は、「悲劇的な出来事から1年が経過しても、子どもたちの人生には深い傷が残っています」と、被災者が置かれている苦境を訴えます。
この爆発で最愛の家族を亡くした人も少なくありません。自宅の壁が崩れ15歳の息子を亡くした母親は、今なおその心の傷は癒えていない、と語ります。
2020年8月4日午後6時8分。
爆発が始まったとき、私たち家族は自宅にいました。
息子のエリアスは、部屋にいました。すべての子どもにとって、世界で最も安全な場所のはずです。
でも、爆発によって部屋の壁は崩れ、その下敷きになったエリアスは、14日後に亡くなりました。
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© UNICEF Lebanon/2021 |
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爆発によって壁が崩れたエリアスの部屋。 |
8月4日のその日、私は朝早く目が覚めました。その時は、こんなにも悲しい出来事が起きようとは知る由もありませんでした。
いつものように、愛する息子のエリアスを抱きしめ、頬に髪の毛が触れるのを感じました。エリアスのために食事の支度をしました。エリアスが私を呼ぶ声を聞きました。 そして、エリアスが笑って友だちとはしゃいでいる声を聞きました。
しかし残酷にも、元気な息子と過ごした日常は、この日が最後になってしまったのです。
爆発が起きたとき、私には爆発した音が聞こえませんでした。その瞬間に、意識を失っていたのです。
私の兄が、エリアスが部屋で倒れているのを見つけました。部屋の2つの壁は崩れ、がれきがエリアスの上に覆いかぶさっていました。しかし、彼はまだ生きていました。
兄たちはエリアスの体に覆いかぶさっているがれきを取り除こうとしましたが、少人数では難しく、急いで通りに出て人々に助けを求め、やっとエリアスの体を外に引っ張り出すことができたのです。
やがて、意識が戻った私は慌てて通りに出ると、そこには私の息子が横たわっていました。
救急車をあてにできない混乱状況でしたが、見知らぬ人が私の夫と息子を病院に連れて行くために車を出してくれました。
私もその車に乗りたかったのですが、エリアスを後部座席に寝かせないといけなかったので、一緒に乗るスペースはありませんでした。
私はこの時がエリアスの最後の姿になるなんて思いもしませんでした。
エリアスはほとんど意識がありませんでしたが、夫はずっと息子に話しかけ、励ましました。
「お父さんは隣にいるよ。エリアスのお父さんはここにいるよ。恐くなんてないからね。」
病院に着くと、息子はすぐに手術室に運ばれ、術後は集中治療室に入りました。夫は13日間、ずっとエリアスに付き添っていました。
私は娘と一緒に別の病院に運ばれました。息子にどうしても会いたいと懇願し、2回、彼の病院へ行くことはできました。でも今思えば、エリアスはその時、死の淵を彷徨っていたのです。
エリアスは、部屋の壁が崩壊した日から14日後、帰らぬ人となりました。
母親が息子を失って生きていくことが、どうしてできるのでしょうか？
私にとってエリアスは、最愛の息子でした。建築家になるのが夢だと言っていました。
レバノン、そして世界を良くするために、貢献できる人になっていたことでしょう。
そして、安全で暮らせることは彼の権利でした。
エリアスは子どもだったのに...
エリアスだけでなく、その日、命を落としたり、傷を負ったすべての子どもたちには、自宅や自分の部屋にいるときに安全が保障されるという権利があるはずです。
夫、娘、そして私の傷はまだ癒えていません。
エリアスを失ってしまったショックから完全に立ち直ることはできないでしょう。
一年経った今でも、息子がなぜ意味もなく亡くならなければならなかったのか、本当の理由は分かっていません。
私は国際社会に懇願します。この爆撃がなぜ起こらなければならなかったかを調査し、この悲劇を起こした責任者たちに説明責任を求め、正義を下すことを。今を生きる子どもたちのために、そして将来を担う世代のために。
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