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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第114報
包囲が解かれたホムス旧市街
一時帰宅した住民の目前に、激しい紛争の爪痕

【2014年5月26日 シリア・ホムス旧市街発】

シリアでは紛争から4年を迎えた今も、絶え間なく武力衝突が続いています。包囲されていたホムス旧市街の様子を、ユニセフ・シリア事務所のクマル・チク広報官が報告します。

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およそ2年間続いていたホムス旧市街の包囲は、反体制派と政府側が合意に達したことにより、ようやく解かれました。その数日後、私はホムス旧市街に入り、激しい紛争の爪痕を目の当たりにしました。

激しい紛争の爪痕

ホムス旧市街で破壊された家を目にした親子
© UNICEF/Syria-2014/Tiku
ホムス旧市街の破壊された家を目にした親子。紛争で自宅から避難し、包囲が解かれるまで自宅に近寄ることができなかった。

シリアの紛争で、何十万人もの市民が旧市街地にある自宅からの避難を強いられた一方で、包囲された街に取り残された数千人の人々は、食糧や医療品などがまったく手に入らない状態におかれました。

かつて多様な民族や宗教がともに暮らしていたホムス旧市街や周辺地域。現在は、その様子を見る影もありません。ここは、何世紀にもわたってイスラム教徒とキリスト教徒が生活を共にし、築き上げてきた壮大な古代のモスクや教会で有名な地域でした。

現在、ホムス旧市街地で目にすることができるのは、爆撃で破壊され、崩れ落ちた建物の残骸ばかりです。学校や病院、商店、民家、教会、モスク、スポーツ施設、そして誰もいない新聞社のビルまで、まるでトランプのカードのように、崩れ落ちています。残っているのは壊れた建物の骨組みと、瓦礫の山だけです。崩壊を免れた建物にも砲弾や機関銃によるたくさんの穴が開き、瓦礫の山のなかには、不発弾や爆発する可能性のある残存物も残されています。

私は旧市街地で5時間ほど過ごし、自宅や会社の状態を確認するために戻ってきた住民と話をすることができました。しかし現時点では、この地に戻って生活をすることはできません。完全に破壊された水道管、あらゆる場所に山積する瓦礫、広範囲に及ぶ浸水のほか、爆発物から舞い散る有害粉塵が健康を害する可能性があるからです。夜になると、電気はとまり、旧市街一帯が闇に包まれます。

かつて繁栄していた地域が一変して紛争地となり、何千もの住民の生活が崩壊していく様子を見ているのは、心が張り裂ける思いでした。

破壊された故郷に戻る住民たち

道の隅に散らばっている瓦礫の山を小さな手で掘り起こしている、10代前半の男の子、ラエドくんに出会いました。廃棄物業者に売るため、金属の破片やプラスチックをきれいに積み重ねています。家族のためにパンを買うお金が必要だと、言っていました。ラエドくんにとって、学校に通っていた数年前は、もう遠い昔の記憶です。

16歳の女の子リーマちゃんは、近所で起こる激しい武力衝突から身を守るため、2年間家から出ずに生活しています。過去に、リーマちゃんは爆弾の破片で足を負傷し、一生治ることのない傷を負っています。

脳卒中で夫を亡くした若い母親、スアドさんにも出会いました。放火や略奪の被害にあった彼女の自宅からは財産がなくなり、家は見る影もなく破壊されていました。スアドさんは青ざめ、悲痛な面持ちで、自分自身の感情を言葉にできないでいます。

宗教や革命、どんな理由もこの状態を正当化できない

ホムス旧市街の自宅を訪れた家族
© UNICEF/Syria-2014/Tiku
ホムス旧市街の自宅を訪れた家族。しかし、基本的なインフラの整備や不発弾の撤去などが進まない限り、ホムス旧市街に戻って生活することはできない。

包囲された旧市街で暮らしていた、小柄でやせ細った中年の男性と話をすることができました。朝、昼、晩の3食に野草を口にしなくてはいけないほど生活が困窮し、87キロあった体重も、長い間十分な食事が得られず、43キロまで落ちてしまったと話してくれました。「宗教や革命、争いの理由が何であれ、民家に押し入り破壊することは、断じて正当化できません」と、男性は話しました。

高い評判を得ていた神経外科医は、かつては人であふれていた診療所や自宅が、真っ黒に焼け焦げて破壊されている姿を、ただ見つめていました。

何年も無人のままだった教会では、教会が運営する児童養護施設を再建させるため、神父が忙しく仕事をしていました。「紛争で何百万人もの住民が被害を受け続けるなか、今後も孤児になる子どもたちは増え続けます。緊急にケアや支援が必要なのです」と、神父が語りました。

ここで紹介したのは、旧市街地から戻った今でも私の心に強く残っていて、忘れることのできない情景やシリアの人々の姿の、ほんの一握りです。シリアの紛争は、多くの市民、特に女性と子どもに多大な影響を与えました。シリアの激しい紛争の中心地でもあったホムス旧市街地は、まるで非現実的なハリウッドの戦争映画の撮影現場のようでした。

支援活動の継続に、懸念される資金不足

ユニセフは紛争の影響をうけている何百万人ものシリアの子どもたちや住民に、安全な飲み水の提供、現在実施中のポリオの予防接種キャンペーンなど、人道支援活動を展開しています。紛争の影響を受けているシリアの国中の住民、特に女性と子どもたちに、命を救うための支援を届ける必要があります。どのような場所であっても、支援を阻むものなどあってはなりません。

ユニセフの緊急支援活動を実施するための、資金不足が大きな懸念となっています。ユニセフは2014年の支援活動のため、2億2,200万米ドルを国際社会に要請しています。しかし、現時点で寄せられた資金は21%ほどの4,760万米ドルに留まっています。