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財団法人日本ユニセフ協会

ライブラリー プレスリリース

ユニセフ、UNESCAP、国際ECPAT発表の最新レポート
「太平洋諸国で子どもに対する性暴力被害が深刻化」

【2006年12月14日 フィジー発】

ユニセフ(国連児童基金)、UNESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)、国際ECPATは、14日、太平洋諸国5カ国(フィジー、キリバス、パプア・ニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ)における、子どもに対する性的虐待と性搾取に関する最新レポートを発表。その中で、子どもたちは「見知らぬ誰か」の犠牲になっているのではなく、家庭やコミュニティなどの身近な場所で、普段から良く知っている人、または信頼している人から性的虐待や性搾取の被害を受ける可能性が最も高いことが報告されました。

この「太平洋諸国における子どもの性的虐待と性的搾取:地域レポート」は、2004年10月から2005年6月に実施した調査をもとに作成されました。調査の結果、「調査を行ったいずれの国でも、子どもたちが家族や近所の人から性的虐待の被害を受け、その被害形態は子ども買春や子どもポルノ、早婚や観光地における子ども買春、性目的での人身売買など多岐に及んでいる」ことが分かりました。さらに、加害者については「圧倒的に男性が多く、特にコミュニティの中で高い地位にあるか、もしくは財産を所有している男性である」ことを指摘。これまで一般的に広まっていた「子どもに対する性的虐待の加害者は主に外国人旅行客や外国人労働者である」という考えとは異なり、加害者の大半は実は地元の男性であることが明らかになりました。

調査結果は、主に聞き取りやインタビューでデータを収集する定性調査法によって得られたものですが、正確な数値でなくても子どもに対する性暴力の深刻さは十分垣間見ることができます。政府の公式発表による統計は、実際の数値より低く見積もっていたり、また、データ収集方法が不適切なため、子どもに対する性暴力の現状を正確に伝えてはいません。今回の報告書は、短期間で集められた膨大な調査結果をもとに、子どもに対する性的虐待が実際にはかなり高い確率で発生していると結論づけています。

政府機関、NGO、国連機関、警察、そして被害者である子ども自身から寄せられた調査回答は、太平洋諸国における子どもに対する性暴力がいかに深刻な問題であるかを物語っています。例として以下のような実態が挙げられています。

 
  • パプア・ニューギニアでは、ポート・モースバイ総合病院の医療スタッフが毎日1〜2件の割合で、レイプ被害にあった子どもの治療を行っている。
  • フィジーでは、警察の統計によると、2000年性犯罪対策課に報告された子どもに対する性暴力事件は35件。うち、33件は信頼できるはずの家族の誰かによるものであったと報告している。
  • ソロモン諸島では、子どもに対する性暴力の何よりの証拠として、1歳から3歳の子どもたちまでもが性感染症を発症の事実が報告された。
  • フィジーでは、子どもに対する性的虐待と商業的性的搾取の因果関係について調査を行ったところ、性産業に従事する人の多くは、子ども時代に家庭内で男性の親族から何らかの虐待を受けた経験があった。また、バヌアツでも同様に、性的虐待を受けた子どもが、将来、売買春被害に巻き込まれていく例が報告された。
  • 調査を行った全5カ国で、子どもたちの搾取は、現金、物やサービス(食べ物、酒、タクシー代など通学のための移動手段、衣類、小物など)といった何らかの対価と引き換えに行われていた。ソロモン諸島では、父親がマーケットで売る魚を得るため、自分の子どもに、漁師との性交渉を強要する事例があった。また、いくつかの国では、教師が生徒に、学費を支払う代わりに性交渉の相手をさせるケースも報告された。
 

太平洋地域の子どもたちが、このような性暴力の危機に晒されている背景として、いくつかの要因があります。たとえば、女性と子どもの社会的地位の低さ、貧困、教育や雇用機会の不足、子どもの保護に対する法整備や公共サービス、法規制の欠如が挙げられます。また、親から疎外され、虐待を受けた子どもたち、非公式な養子縁組を含む、実の両親と暮らしていない子どもたちは、特に性暴力の被害に遭いやすいことが分かりました。

レポートでは、近年、調査対象5ヵ国の政府や市民団体が太平洋地域における子どもに対する性暴力の問題が非常に深刻であることを認識し、問題解決のために取り組み始めたことも報告しています。

調査を行った5カ国はすべて、1996年のストックホルム宣言、および2001年に横浜で開催された「第2回児童の商業的性搾取に反対する世界会議」に対して支持を表明しています。今回の調査結果は、ストックホルム行動アジェンダに沿った国家計画を策定するための土台となるものです。しかし、その一方で多くの課題も残されています。レポートは、「太平洋地域の子どもに対する性暴力の解決に向けた包括的かつ豊富な資源と綿密な計画に基づいた努力が、各地区、国家、地域全体のどのレベルにおいても行われていない」ことを強調しています。また、子どもの保護と犯罪者の処罰に関する政策や法整備の遅れ、さらに、支援を必要とする家族や被害者の子どもたちに対するケアの欠如も指摘しています。

レポートで示されている実践的な提言では、子どもたちに対して虐待をした者を「処罰しない文化に終止符を打つ」ための法規制と法執行の強化を求めています。また、「子どもに対する価値観、態度、考えを改めるための出発点」として、そして、政府やコミュニティがこの問題に関して正面から向き合って解決のために取り組み、また予防策を講じられるよう、今までの「沈黙の文化」を止め、あらゆるレベルで開かれた議論の場を設けることの必要性を訴えています。

  • 最新レポート「Child Sexual Abuse and Commercial Sexual Exploitation of Children in the Pacific: A Regional Report」の全文はこちら(英文)【PDF 3,3MB】

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