長引く紛争からの帰還、そして平和な展開。ウガンダの手本は日本。

篭島真理子(かごしま まりこ)
ユニセフ・ウガンダ グル地域事務所長
奈良県出身、同志社大学を卒業後、高校教員を経てウォーリック大学の国際比較教育で修士号を取る。1998年よりユニセフJPOとなり、その後、職員として採用。JPOのEducation Officerとしてユニセフのメキシコオフィス1998〜2002、アフガニスタン(クンドゥスオフィス)2002〜2003、Project Officerとしてアフガニスタン(カブールオフィス)2003〜2005、Chief Field Officerとしてアンゴラ(ウアンボオフィス)2005〜2007で活躍後、ウガンダのグル地域事務所長として現在まで勤務。
2008年3月14日 ウガンダ・グル ウガンダという国

ウガンダはアフリカ西部内陸部に位置する、人口およそ2千9百万人の国です。面積は日本の本州大です。自然に恵まれ、野生の動物も多く、サファリをはじめとする観光客が多く訪れる緑多い国です。80年代にはHIV感染者が20%を超え、世界でもっとも感染率の高い国のひとつでしたが、政府の迅速かつ真剣な取り組みの結果、急速に感染率をさげ、現在では6%の感染率を維持しています。そのほか、政治経済面でもある程度安定した状況を保ち続けており、西洋諸国にはアフリカの優等生とウガンダをみなす見方もあります。

その反面、ウガンダは人口の約三人に一人が一日一ドル以下で生活する世界の最貧国のうちのひとつで、現在も8人に一人が5歳の誕生日を迎える前に死んでしまうという現状があります。

ウガンダの問題

私の働く北部ウガンダのグル県は20年余りも政府軍と神の抵抗軍(LRA)の間での内戦が続いているところです。この紛争は国連人道支援事務局長のJan Egelandをして”世界でもっともひどい戦争“といわせたいわゆる‘忘れられた紛争’でした。約2万5千人とも言われる子どもや女性が兵士として、また兵士の妻とされる目的でLRAに誘拐されました。この子どもたちは、誘拐された後子ども兵士として、自分の命と引き換えに言葉では言い表せないほど残虐な行為を強いられました。ある日家族を助けるために水汲みに行った少年、いつものように元気よく小学校へ行った少女。そんな罪のない彼らがいきなり誘拐され、家族の元に戻ってきたときには内戦に直接参加した兵士になって戻ってくる。内戦の被害者である子どもたちが自分の家族の元に戻ってくるころには加害者となってもどってくる。子どもである時間を奪われた子どもの苦しさ、そしてこの子供たちの家族の苦しみは想像を絶するものがあります。

さらに政府による一般住民の強制移住の結果、200万人以上の人々(北部ウガンダの約90%の住民にあたる)が国内避難民(IDP)としての生活を強いられることになったのです。国内避難民は政府の定めたキャンプから出ることができず、したがって自分の土地で作った農作物を売ることにより生計を立てていた多くの北部ウガンダの人々は大打撃を受けました。自給自足の糧をすべて奪われ、その結果彼らは外からの援助にすべて依存せざるを得ない暮らしを送ってきました。キャンプでは一つ一つの小屋がひしめいて立っている状態で、強制移住直後の10数年前には水やトイレへのアクセスがなく、保健所も完備されておらず、コレラや髄膜炎などの大流行でたくさんの人が苦しみました。衛生的な生活もできず、自活できないということで栄養失調がたくさんの子どもの命を奪いました。人道支援を行う機関(NGOや国連の機関)などの支援と地元政府の努力で教育、水、保健などのキャンプ内でのアクセスが徐々に確保されるまでは人々は非常に厳しい環境の中で行き続けることを余儀なくされてきたのです。内戦がひどいときには2万人とも3万人とも言われる数の子どもたちが、ナイトコミューターとなり、毎晩町のセンターで寝るために移動するという事態にまで至りました。

現在、政府とLRAの間で平和交渉が行われており、ウガンダ北部民はその解決に大きな期待を持っています。90%以上にも達した国内避難民の間にも強制移住以前の自分の土地にもどり、家を再建し農作を始める人が出てきました。しかし、長年にわたって続いた内戦の爪あとは余りにも大きく、北部ウガンダはウガンダの中でももっとも貧しい地域のうちのひとつで、ミレニアム発展指標達成度もウガンダ全体に比べると極端に低いのが現状です。北部ウガンダでは61%の人々(2人に一人以上)が一日一ドル以下で生活を強いられ、5人に一人の子どもが5歳の誕生日を迎える前に死んでしまいます。子どもの初等教育に関しても就学率は全国平均に比べ10%も低く、教育機会を逃した人々、特に女性の間での識字率は55%という結果にいたっています。

ユニセフの仕事

こうした状況の中ユニセフ・ウガンダでは子どもや女性が特に困難な状況に置かれているである地域(北部ウガンダを含む)に重点を置き、保健、教育、水と衛生、HIV/エイズ、子どもや女性の保護、といったプログラムに取り組んでいます。特に子どもの死亡率が以前高いこと(世界でワースト25位)もあり、子どもの生存と発展促進プログラムに力を入れています。特にウガンダでは、1)子どもの予防接種、2)マラリア対策、3)経口補水療法、4)急性呼吸器疾患の予防、5)産後ケアの充実とHIV/エイズ母子感染防止、6)水と衛生、7)初等教育の徹底、8)子どもと女性の保護を最優先課題としています。


ユニセフと日本政府との協力で設置された
地域水供給システム。

国内避難民キャンプの子どもたち。

その中で北部ウガンダでは次の4つのカテゴリーのグループのニーズにあったサポートを行っています。
1) 子ども兵の帰還、家族との再会、社会復帰の援助
2) 国内避難民(IDP)への緊急人道援助
3) 自分の土地への帰還を促すためのコミュニティーレベルでのベーシックサービスの強化。
4) 地方政府のキャパシティーの強化

平和交渉の進展につれ、人々は自分の土地への帰還を強く願っています。彼らが人道緊急事態状況下の過度の依存状態から自給自足を達成し、自分で自分の運命を切り開いていけるようになる過渡期へと向けてユニセフでは特にコミュニティーレベルでのベーシックサービスパッケージを支援しています。中には孤児、お年より、体の不自由な人たちなど、社会的弱者の立場にあり、下のコミュニティーに戻り自力で家を建て直すことのできない人たちもあり、その人たちを取り残さない発展というのが望まれます。

ユニセフは1000人余りにも上るといわれる子どもたち、女性たちのが、今なおLRAに誘拐されているという事実を強く懸念しています。彼らの帰還これから平和を築いていく上で何よりも大切であると考えます。現在の平和交渉は国際的な支援をなしにして語れません。

ウガンダが本当の意味での平和を手にし、自力で発展へ向けて歩んでいくためにも国際社会でのサポートは不可欠であると考えます。ウガンダの人たちは日本という国の戦後の奇跡的な復活と発展に大きな関心と尊敬の念を抱いておりつねに、日本をある意味でのお手本としてみています。自分たちも早く、自力で歩んでいける国づくりをしたいと望んでいるのです。皆さんからの引き続きのご支援が必ず彼らの平和な未来につながると確信しています。