(財)日本ユニセフ協会

子どもたちとともに移動する幼稚園

ユニセフ・モンゴル事務所   小澤 佳純

 モンゴルでは、今でも年に数回住む場所を移動しながら半遊牧の生活を営んでいる人びとがいます。彼らの多くはソム(町)の中心から20−150キロ離れた広大な自然の中で暮らし、約3家族が一緒に移動します。

 モンゴルでは、各村の保健員が毎月各家庭を訪問して乳幼児時期の成長に不可欠な保健・栄養、成長記録などの定期的基礎サービスを提供することになっています。しかし現状では、9ヶ月も続く冬の間は寒さと深雪のために、夏の間は遠距離を走るオートバイのガソリン代不足のために、点々と住む子どもたちの多くが、そのサービスを受けられずにいます。モンゴルでは、下痢など予防可能な理由で亡くなる5歳までの子どものほとんどが、医者や保健員に診察されずに亡くなっています。3歳から通える幼稚園も町の中心にしかありません。

 この状況を改善するため、ユニセフは、乳幼児総合ケアに関する新しい政策の導入を教育科学技術省・保健省と協力して進めています。その政策は、1)0−2歳児のケア・知的刺激の促進、2)コミュニティの協力と親の知識の向上と参加、3)包括的なアプローチ、4)(田舎であっても、貧しくても)どの子も平等に、などの方針を含んでます。

 地方ではサービスの平等なアクセスを目標に、地域の遊牧民の0〜7歳のすべての子どもたちを対象に、各家族グループを年間を通して巡回する移動ゲル幼稚園を地元政府と協力して運営しています。この方法の成功の軸となっているのがコミュニティーのボランティアの活躍と親たちの参加です。訓練を受けた地元のボランティアたちが、家庭でもできる乳幼児時期のケアについてきめ細かく両親に教えます。生後何ヶ月になったらどんな反応があるか、笑う・指を握るなど年齢にふさわしい知的・精神的成長があるかどうか、体重は順調に増えているか、栄養不良や病気になっていないかなどを、両親が観察し巡回のコミュニティボランティアともに子どもの成長記録をつけます。ボランティアは毎月村の保健員に子どもたちの状況を報告するのですが、それ以外にも、長引く下痢など何か異常があればすぐに村の保健員や町の幼稚園の先生などに連絡して行動をとります。この活動が始まったのは2003年の半ばからですが、ユニセフが支援する全国12の地域ではすでに変化が見られます。

 タミルオチルさん夫婦には2歳の息子さんと5歳の娘さんがいます。ゴビの広大な大地を400頭あまりの家畜とともに年数会、移動する典型的な半遊牧民の家族です。子どもたちはいまでは地元のお兄さん、エンヒバタルさんの毎月のボランティア家庭訪問を楽しみにしています。エンヒバタルさんが来ない間は、両親がボランティアにもらった宿題をしながら直接子どもたちに知的刺激をたっぷり与えています。

「子どもたちのようすが明るく活発になってきたわ」と喜んで話すお母さん。「以前は成長記録は町の病院にあるだけだったけれど、いまでは家庭にも一部保管して、ボランティアと一緒に毎月記録し、自分も、子どもの成長と健康のようすや、栄養補給や予防接種など、どんなサービスをいつ受けさせるべきかなどを知っているのでとても安心しているわ」

そのようすは、誇らしげでうれしそうです。

一方、町長さんのギプルマさんは「以前は赤ん坊に話しかけるのなんて何も意味がないと思っていたけれど、この時期のケアがいかに大切かをユニセフのトレーニングで知ったよ。今は“3歳までで全部決まるんだよ!”と機会があるたびに町のみんなに言い歩いているんだよ」と語ります。

以前、このゴビ県のエルデン地方では、5人にひとりの子どもは定期的な体重測定をしておらず、3人に2人は幼稚園に通っていませんでした。ユニセフの支援が始まって1年たった2004年夏の時点で、町長さんを中心とする地元政府の懸命な努力とボランティアたちの献身的な努力のおかげで、5歳までの10人に9人は定期的成長記録をつけており、7歳までのすべての子どもが家庭訪問などを含む何らかのかたちでケアを受けたりできるようになりました。

でも、まだまだ課題は山積みです。たとえば、ボランティアと親の知識とスキルの向上を継続させていくこと。保健員や幼稚園のサービスの質の向上などなど。

 また、国の予算が足りず、ビタミンDなどの微少栄養素が恒常的に不足しているので、ボランティアの活躍でいくらアクセスの問題と親の知識が向上しても、モンゴルでは5歳未満児の3人にひとりは年齢に対して身長が低い発育不全に陥っています。モンゴル全土で、毎年、ビタミンDを生まれてくる乳幼児と母親に供給するための費用は、毎年5万米ドルほどです。つまり、一組の親子に対して毎年55セントがあるだけで、モンゴルの子どもたちの発育不全は改善できるのです。

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