(財)日本ユニセフ協会

ブルキナファソで今なぜ幼稚園教育か?

ユニセフ・ブルキナファソ事務所   宮崎 岳

 日本ではあまり馴染みのない国ですが、ブルキナファソは西アフリカに位置する小さな内陸国で、世界でもっとも貧しい国のひとつです。教育水準も低く、政府の統計によれば小学校に通う児童は全児童の37%。ユニセフはこの国の農村の子どもたちに対して幼稚園教育を促進する支援を行っていますが、ブルキナファソのように3人に2人の子どもが小学校へ通えないような貧しい国では幼稚園といえば贅沢なイメージを持たれるかもしれません。では、なぜユニセフは幼稚園教育を支援しているのでしょうか? それには次のような理由があります。

 まず、幼少期は人間が心身ともに成長する上でもっとも大切な時期ですが、ブルキナファソの家庭ではそういった認識が薄く、幼少期の育児は怠りがちです。育児は母親と祖父母にまかせっきりで、子ども達はほったらかしにされていることもよくあります。さらに、政府も幼少期の子どもたちの教育に対して十分に予算を割いていません。実際に、数少ない現存する幼稚園は一部の大都市に集中し、一般市民のためというより、一部の裕福層の子どもたちだけのものとなっています。その結果、現在幼稚園に通っている子どもは全体の1.4%に過ぎません。さらに、現存する幼稚園はフランス語の習得など勉強に重点を置いていますが、これでは十分な栄養・健康・衛生状態といった基本的な成長環境が整っていないようなブルキナファソ農村の幼児たちのニーズに合っているとは言えません。

 このような中で、ユニセフは1997年より政府とともに、村の状況に合ったプログラムをめざして、ビソンゴと呼ばれる幼児総合(ケア)センターを設立しました。ビソンゴは3歳から6歳までの幼児を対象とした村ごとの小さなインフォーマル幼稚園で、教育面以上に、子どもたちの健康、栄養、衛生といった成長する上で必要な環境づくりをすることに力を入れています。このような多様な幼児のニーズに合わせたプログラムのことをユニセフではEarly Childhood Development(幼児総合開発)と呼んでいます。言葉ではわかりにくいのですが、ビソンゴへ訪問するとその意味がひと目でわかります。教室の隣には井戸、トイレ、手を洗うための水タンクが設置してあり、また備え付けの台所を利用し、毎日お昼には給食が出ます。授業は、文字を覚えるというようないわゆる学問ではなく、歌や詩や絵を使って、保健・衛生・環境など子どもの成長に直接関係のある実用的なことを学ぶといった感じです。

 ビソンゴの一番の特徴は、村人たちが主体となって運営をしている点です。まず、ビソンゴの建設を申し込みたい村は運営委員会を設立し、教室建設の手伝いをします。また村人が信頼できる人を村の中から「保母さん」として選びます。この「保母さん」は資格をもった幼稚園教師とは性格が異なり、村全体のお母さんのような役割を担うため「プチママン」と呼ばれています。プチママンは仕事というよりボランティアに近く、ビソンゴに通う子どもの親たちからのわずかな寄付だけで仕事をします。それでも、彼女たちは村人の期待をはげみに仕事を続けるのです。ビソンゴで子どもたちが何か新しいことを学んでくれば、それだけ村人のプチママンに対する信頼や感謝の気持ちも高まり、彼女たちの仕事を続ける意欲もさらに高まります。

 実際、ビソンゴが建てられると村人の生活は大きく変わります。子どもがビソンゴへ行っている間、お母さんは家事や他の仕事をすることができるし、今まで妹や弟の面倒を見るために小学校へ行くことのできなかった女の子は、弟妹をビソンゴへ送りに行った後、学校に行けるようになります。子どもたちはビソンゴに行って、友達に会い、おもちゃで遊び、歌を歌うのを楽しみにしているし、親たちも、ビソンゴに通い始めてから子どもが活動的になり、友達が増えたと喜んでいます。

 幼稚園としての効果もさることながら、ユニセフはなにも幼稚園教育だけを促進しようとしているのではありません。ビソンゴを小学校の隣に建てることによって、小学校教育の促進へもつながっているのです。ビソンゴを修了した子どもたちは自動的に小学校へ登録されることもあって、ほとんどの卒業生たちが小学校へ進みます。親たちによれば、ビソンゴ出身の子どもたちのほうが、小学校へ上がった後授業についていきやすいそうです。このように、ユニセフが幼稚園教育を支援するのは、ビソンゴから小学校へという過渡期を支援することによって、教育支援の効果がいっそう増すからなのです。

▲ページ先頭へ戻る

www.unicef.or.jp

▲コーナートップへ戻る

(財)日本ユニセフ協会