EYE SEE TOHOKU〜子どもたちの目が見る被災地の今と明日〜

写真ワークショップレポート

EYE SEE TOHOKU in 岩手県大槌町

3日目 11月12日(土)

9:00

写真のレビュー

撮影した写真をみんなで振り返る

9時近くに息せき切って集まってきた子どもたち。
今日のプログラムは、先週末に撮影した写真を振り返ることからはじまりました。
ジャコモさんが話します。
「先週の撮影のときはあいにくの雨降りでしたが、撮れた写真は本当に良い写真ばかりでした。今日は、写真を見てふりかえりながら、その写真のキャプションを書くという作業をしてもらおうと思っていますが、時間があれば、外でまた写真を撮ってもらおうと思っています」
ジャコモさんがみんなに質問します。
「自分のやりたいと思ったこと、撮りたかったもの、撮ろうと思ったものを全部とれたと思いますか?」
佐野君「まぁまぁ」
ジャコモ「何が欠けていると思いますか?」
咲絢さん「これからの部分」
ジャコモ「どうやったら、それが埋められると思いますか?」
咲絢さん「わからない・・」
ジャコモ「自分が撮った写真は、今の方が多いですか?過去に起こったことの方が多いですか?」 佐野君「昔の方が多いです」
ジャコモ「過去、今、未来と3つの要素があるなかで、何が起こったかという最初のところがないとはじまらないので、それが多いことは理解できます。そして、とても強い写真が多いです。今日撮る写真は、その強さを引き継ぎながら、まだ埋まっていないものを埋められる写真を撮ることを考えてみましょう」

そして、先週の写真の振り返りがはじまりました。
まずは、チームA、敦也君の写真から。
ジャコモ「カメラもって撮影する経験はどうでしたか?」
敦也君「結構、面白かったです。」
ジャコモ「こういう写真をずっと撮りたいですか?」
敦也君「もう少し、人のがんばっている姿を撮りたいです」
ジャコモ「いいですね」

(仮設住宅の建物を上から撮影した写真を見ながら)
ジャコモ「仮設住宅の写真はみんなが撮っていて、これからたくさん出てくるけれど、どうしてみんながこれを撮ったのか、どうして大切なのか、考えてみましょう。この写真は何を話してくれていると思いますか?」
咲絢さん「小さい家のなかに、ひとつの場所に集まって、一緒にいること・・」
ジャコモ「おそらく長い時間、みなこの小さい場所で過ごしています。ここに子どもも大人もみんなが生きているというイメージを心にとめたんだと思います。もし、ここに住んでいる人の顔が見えたら、そのことが引き立つと思います。でも、このまま幾何学的な建物の写真だけでは、なんというか冷たいイメージで、なかなか伝わりません。きれいすぎてしまうんです。ジャーナリズムを考えるとき、見る人に、自分と同じ要素を持つ人間、子どもといった対象を提供することが大切です。そこに住んでいる人のイメージを加えることが大事なんです。」
「漁師さん、タクシーのドライバーさん、レストランのおばちゃんたち、おじいちゃん、おばあちゃん、とても上手に撮れているから、それがどれだけ人に訴えかけるかを見てみてください」

ジャコモさんは続けます。
「一番最初に話し合ったことを思い出してください。いい写真ってどんな写真と聞いたとき、みんなは気持ちの伝わる写真、と言っていましたよね」
写真を1枚ずつ見ながら、ジャコモさんは子どもたちとやり取りを続けます。
「この写真、何が強いんでしょう。そう、線があります。直線はスペースの広がり、奥行きをドラマティックに表します」
「雨が降っていたのが、さらにドラマティックなイメージになっていますね」
「破壊の度合いがわかります」
「ドアの枠組みを使ってラインを生み出しています、構図が良いです」

(お墓の間から破壊された町が見える写真)
「さて、これにはどんなキャプション、タイトルをつけますか?どんなことを思ったかということも加えていいですよ」

2羽の鳥をうつした写真を見ながら、ジャコモさんはこんな話もしました。
「パレスチナのガザというところは、封鎖されていて簡単には外に出られない町です。そこの子どもたちが同じような写真を撮っていました。撮った子は、あんなふうに飛んで自由になりたい、と言いました。鳥を見るとぼくは自由だなと感じるけれど、みんなはどうですか?」

(タクシー運転手さんの写真を見ながら)
ジャコモ「このタクシーの運転手さんの話を聞いた人、シェアしてください」
咲絢さん「津波が来たときのことを聞きました。」
ジャコモ「そのストーリーを必ずキャプションに書いてください。人の写真を撮るときは、その人の背景と一緒にと言いましたね。これはこの方と、いまこの方がやっていること、そしてこの方の暮らしている町がわかる良い写真だけど、ちゃんとそのことをわかる説明をつけましょう」

「赤い洗面器にぐっと目がいくと思いますが、人の視線を導く写真というのはいい写真です。そのおかげで後ろのがれきの山ものっぺりと見えなくなります」
「建て直しているとか、復興の状況を記録しておくことも大事ですね」

次に薫さんの写真をみんなで見てゆきます。
「丸を使ったり、線を上手にいかしていますね」
「ディテールを撮った写真(小さいもののクローズアップ)が多いですね。良いです。力強い写真も多いです」

道端の花の写真を見てジャコモさんはたずねます。
ジャコモ「この状況でどうして花を撮るのが大事だと思ったのですか?」
薫さん「まわりがなんもなくても、きれいな花が咲いてるから、なんか、希望ってゆうか・・」
ジャコモ「素晴らしい。今言ってくれたようなことがキャプションに表れていると、この写真がより力を持って語りかけてくれると思います」

さらに写真を見ながら講評が続きます。
「広角と接写と撮り方を撮りたいものによって変えているのが良いです」
「水平線をまっすぐに撮ることは難しいんだけれど、上手に保って、切り取れていますよ」
「同じところに行ったのに、みんなは気づかないところをあなたは撮っていますね。良い目を持っていると思います」

ジャコモさんはみんなにたずねます。
「カメラを持つことで、何かを探すように世界を見るようになるんじゃないかと思うんだけど、どうですか?ふだんは、何も考えずに歩いていると思うけれど、カメラを持つことで何かを考えながら歩いたんじゃないですか?」 「・・(うなづく子どもたち)」

老人ホームでいっしょにお話ししたおばあちゃんの写真を見ながら薫さんはそのときのようすを話してくれました。
薫さん「(震災)当日のこととか、水が出なくてトイレやお風呂が大変だったこととか話しました。このおばあちゃんは今回も合わせて(津波を)2回経験しているんです。私もまた経験するかもね。それくらい長生きしてね、と言われました」

さて、次は咲絢さんの写真です。
「これはどう撮ろうか考えているのがわかるね」
「うまく水の反射を利用して撮影している」
1枚だけ葉が残った木の枝と町を映した写真を見てこんなやり取りも交わされました。
咲絢さん「さびしい感じで、今の町のようすを表していると思いました」
ジャコモ「すごく繊細で、壊れやすいものというイメージも伝わってきますね」

(色が途中から変わっている林の写真を見ながら)
ジャコモ「どういう説明をつけますか?」
咲絢さん「津波が来て根本が枯れてしまったので、そうなったと・・」

(泥まみれになった年賀状フォルダのクローズアップの写真を見ながら)
ジャコモ「どうしてこのクローズアップが大事だと思った?」
咲絢さん「津波が来る前の楽しかったこととか思い出とかが、いまは流されてしまって・・」

そして、今度はチームBの順番です。
まずは太一君の写真から
(立ち入り禁止の札の写真を見ながら)
ジャコモ「どうしてこれを撮ろうと思った?」
太一君「前まで行けたところが、津波で壊れて行けなくなったということを表現したかった」
ジャコモ「そういうことをキャプションで表してくださいね。カメラを下においてしっかり対象をとらえているのが良いですね」

(再開した和菓子屋さんの写真を見ながら)
ジャコモ「今の状況がとても大事ですね。こうして仮設だけれども、仕事がもどってきている状況をとらえることはとても大切だし、良い写真だと思います」

(花の写真を見ながら)
ジャコモ「この花は、他の人と同じ理由で撮ったのですか?」
太一君「花と壊れているもののコントラストを撮りたかった」
ジャコモ「一言でいうとなんていいます?」
太一君「負けない心」
ジャコモ「とても強いですね」

ジャコモ「このラーメンを食べてるのは、知ってる人ですか?」
太一君「見たことはある人です。電化製品を買っとる店の」
ジャコモ「お店は大丈夫だったんですか?」
太一君「流されたけど、仮設ではじまったんです」

ジャコモ「このおばさんからは話を聞きましたか?」
太一君「ぼくが撮ってる間に、とし(チームのもう一人のメンバー)が聞きました。なんではじめたんですか?いま、お客さんは来てますか?とか、聞きました」 ジャコモ「なんて言っていましたか?」
太一君「前の吉里吉里に少しでも戻ってほしくて、おばちゃんたちだけでも役に立てたらなぁと話してました」

(鳥居の写真を見ながら)
ジャコモ「どうして撮ったのかな?」
太一君「いったん流されかけて残ったものだから、それでこの神社、あ、残ってるって思って撮りました」

次は望鈴さんです。
(望鈴さんのおじいさんの写真を見ながら)
ジャコモ「津波の話は聞けましたか?」
望鈴さん「少しだけ。昔の津波の話は聞けませんでした」

(線路脇の花の写真を見ながら)
ジャコモ「これは何を思って撮りましたか?」
望鈴さん「津波で線路も破壊されて、線路にまだちょっとガラスとか落ちてて、でもそこに花が咲いてて…」

(花びらの落ちかけた路上の花の写真を見ながら)
望鈴さん「家の入り口だったところにお花がおいてあったので、誰かが亡くなったということ…」

「レゴ(ブロック)のピースは子どもを連想させます」
「一人の人を撮るのに場所を変えていろいろ撮っているのが良いですね」

最後は佐野君の写真です。
「小道が線を描いているようす、よく撮れていますね」

ジャコモ「花を撮ったのは、他の子と同じ理由ですか?」
佐野君「はい、だいたい」

(草むらの階段と小道の写真を見ながら)
佐野君「道はどこまでも続くよ、みたいな感じでした」

(家の修理中の写真を見ながら)
ジャコモ「たぶん、壊れている家を修理しているところですね。そこにまだ住みたいと思っているんでしょうか?」
佐野君「そう思います。」

(鳥をうつした写真を見ながら)
ジャコモ「佐野君にとって鳥はどんな意味ですか?」
佐野君「自由に飛んでていいなぁ」

一通りみんなの写真をレビューした後、ジャコモさんはこう話しました。
「休憩の後、写真全部にキャプションをつけていきましょう。
でも、今日はそのあと、人を撮りにいきたいと思います。
これでも十分良い写真が撮れているけれど、ここに人が加わって、吉里吉里の人が今どうしているのかが分かる写真が加わるとすごく良くなると思うんです。人々が、いま、何をしているのかを、何が起こったのか、ということと同じくらいのバランスで見せていきたいと思います。それでこのルポルタージュは完璧になると思いますから、がんばりましょう」

* * *

休憩をはさんで、チームごとに写真のキャプションを作る作業をおこないました。思った以上に、言葉にすることは難しいようすです。一生懸命その時のようすを思い出しながら、言葉を探してゆきます。

13:00

仮設住宅で住民のみなさんに写真を撮影しながらお話をうかがう

キャプションが終わらなかった分は後の作業にして、昼食後、ジャコモさんが話したように、「人」の写真を撮るために撮影に出ることにしました。
グラウンドで中学校の野球部が練習していました。後輩たちです。
校庭に広がる仮設住宅にもお邪魔しました。
土曜日の昼下がり、外に出ているお年寄りの方々に勇気を出して話しかけてみました。地元の子どもたちなので、みなさん喜んで話を聞かせてくれます。
津波のこと、今の生活のこと、地元の言葉で話しながら、時折笑い声も。

遊んでいた子どもたち、スーパーの移動店舗のスタッフの方々、いろいろな角度から多くの表情をとらえてゆきます。

仮設住宅で定期的に移動店舗を開いているスーパーの方にこれまでのお話をうかがう

元気に遊ぶ子どもたちのようすを撮影

近くのガソリンスタンドへ出かけた子どもたちは、営業を再開したご夫婦(同級生のご両親)のようすを撮影しました。
お店に出かけた子どもたちは、店の手伝いをする同級生を撮りました。

営業を再開したガソリンスタンドのご夫妻にお話をうかがう。その姿に「かっこいい」と感動していた。

時間ぎりぎりまで撮影にまわって学校にもどってきた子どもたち。興奮したように感想を口ぐちに話していました。こうして、3日目が終了しました。

はじめに

1日目

2日目

3日目

4日目

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