EYE SEE TOHOKU〜子どもたちの目が見る被災地の今と明日〜

写真ワークショップレポート

EYE SEE TOHOKU in 岩手県大槌町

4日目 11月13日(日)

9:00

撮影した写真を振り返って:

ワークショップ最終日のこの日、前日に追加で撮影した写真を全員で振り返ることから始まりました。
先週の撮影は風景写真が中心でしたが、人々の暮らすようすが加わり、ジャコモさんは「人々の表情を写したことで、写真全体に人間味が加わってきました」と話しました。

写真を見ながらの子どもたちとこんなやり取りが交わされました。

(校庭で練習する野球部の子どもたち)

【太一君の写真を見て】
(野球部の友達の写真を見ながら)
太一君「かっこよく撮るから、と言ったら、こんなポーズを決めてきたんです」
ジャコモ「野球をしている友達の写真を何枚も撮っていますが、対象を中心から外してみたり、撮影の仕方を変えることで、進化していくのが分かりますね」

(仮設住宅の写真を見ながら)
ジャコモ「午後だったから光も強かったけれど、光を上手に味方につけて、画面の中に対象を上手に収めていますね」

(赤い服を着たおばあちゃんの写真を見ながら)
佐野君「このおばあちゃんは、津波の時にめっちゃ走って逃げたーって言ってました」

【咲絢さんの写真を見て】
咲絢さんは学校の近くのプール、子どもが縄跳びなどをして遊んでいるようす、影を上手に使った象徴的な写真を撮影しました。

ジャコモ「仮設住宅には遊ぶ場所がないと言われているけれど、その中で子どもが遊んでいるシーンを写しているのは重要ですね。細やかなものを見て写真を撮っていますね」
干し柿やみかんの皮。野菜を販売している人…。移動の野菜販売の車の中に積まれたキャッシャー…。子どもたちがお店の人に聞いた話によると、この移動販売の仕組みを作るのはとても大変だったそうです。
漁師さんのおじいちゃんや、咲絢さんのおじいちゃんの写真・・・。
クラスメイトの女の子がお店を手伝って働いている写真が紹介されると「ええー!」と男の子たちはとても驚いた反応を見せていました。いつも一緒に学校で過ごしていても、男の子たちはこういう一面を知らなかったようです。

【望鈴さんの写真を見て】
毎月11日に、自宅の二階から吉里吉里の風景を写真に収めているという望鈴さん。「それは良い記録になりますよ」とジャコモさん。
仮設住宅で写された写真には、白いTシャツを着たひょうきんな男の子が写っていてます。「あ、また写ってる!」「どこにいても目立つなー」この子を見ると、その愉快な表情にみなくすくすと笑い出します。
(靴屋さんの写真を見ながら)
ジャコモ「靴の並ぶパターンをおさえた芸術的なタッチに仕上がっていますね」

【薫さんの写真を見て】
遊び回っている男の子たちの写真をたくさん撮った薫さん。靴屋さんの店員さんやそこで売られている外国物の商品を写しているところに、かわいいものや海外のものが好きな薫さんの性格が表れているようです。

【敦也君の写真を見て】
敦也君の写真には、他のメンバーが写真を写している姿をとらえたものがたくさんあります。仮設住宅の集会所で支援物資の洋服を選ぶ女性たち。ガソリンスタンドで写真撮影をしていたら偶然やってきたという敦也君のお母さんと妹・・・。
全員の写真を見て、ジャコモさんは、「同じ対象を写していても、それぞれ個性があって素晴らしいですね」とコメントしました。

キャプションを書く:

みんなで写真を振り返った後、キャプション書きの作業を続けました。
「キャプションを書くことで、みんなの想いを表現していってください。たったひとことでもいいので、パワフルな言葉を添えてください。キャプションはみんなの声をより遠くに届ける上で役立ちます。写真を見てくれる人たちに気持を伝えるためにもがんばって」とジャコモさん。

作業をする子どもたちからは次のような言葉がもれてきました。

佐野君「雨は雨で大変だったけど、昼間の撮影も逆光で大変なんですよー」

(「あの時カモメはどんな光景を見ていたのだろう」 敦也君のノートより)

敦也君に(焼きそば屋さんのおばさんを指して)「この人は名物おばさん?」とたずねると「吉里吉里のおばさんはみんなこんな感じです。道を歩いてて人を見つけると話しかけてくるし、みんな『(おばさんたちに)知られてる』んです。『あんたどこどこの子でしょ?』ってよく言われます」

吉里吉里の町の人たちも、吉里吉里中学校の生徒も、みんな仲がいいといいます。吉里吉里中学校は全生徒約90人。野球部、バレー部、卓球部、吹奏楽部、音楽部などの部活があるそうです。男の子たち3人は全員野球部ということで、野球部の練習風景の写真にはとても思い入れがあるようでした。

男の子たちがとてもこだわっていた「海」についてたずねると、こんな言葉が返ってきました。

「あそこに見える海水浴場は小学生くらいまでならいいんですけれど、中学生になるともっとスリルが欲しくなるんです。それで、フィッシャリーナまで行って、深い海に飛び込んだりして遊んでました。本当は禁止だけど」(佐野君)

「前、(フィッシャリーナに)釣りをしにいったことがあるんだけれど、釣り竿を岩場にひっかけちゃって。とれなくなっちゃって。あれも津波にもっていかれちゃいましたね・・・」(敦也君)

「海に行きたい。マジで!」(太一君)

「吉里吉里漁港の向こうに、弁天様っていうのがあるんです。重機のおいてあるところの奥にある岩場の方です。あそこでもいっぱい遊んだなあ。そういえば、撮りに行けばよかったなあ・・・」(佐野君)

「でっかい『どっこ』(魚の名前)がいたなあ・・・」(太一君)

(学生ボランティアの良太君とおしゃべりしながらキャプションを制作中)

子どもたちは学生ボランティアの良太君にも質問をしていました。
佐野君「どうしてこのプロジェクトに参加したんですか?」
良太君「自分は盛岡の方にある大学に行ってるんだけど、震災が起こった時、かやらなきゃ(精神的に)無理だと思ったんだ。そしたら、大学にユニセフのボランティア募集のチラシが貼ってあって。まだ4月頃だったと思うど。それに参加したのが最初かな。ここにくるまでいろいろのプロジェクトに関わらせてもらって、自分自身すごく変わったと思う。」

太一君のお気に入りは、ガソリンスタンドで働いている男性の写真。同級生のお父さんだそうですが、男の子たちはみんな「フミヤの父ちゃん、超かっこいい。やべえ」と盛り上がっていました。フミヤ君のお父さんは普段から「かっこいいお父さん」として知られているようす。フミヤ君のお兄さんは吉里吉里中学校で先生をしているそうで、やはりとてもかっこよく、みんなの憧れの存在のようです。

(写真を見せ合う男の子たち)

仮設住宅にいた赤い服をきたおばあちゃんはミホちゃんのおばあちゃんで「みほばあ」と呼ばれていました。
「"元気だけれど心の中は曇っている"って言ってたな」(太一君)
「このテーブル1個分くらいしかない狭いところで寝てるんだって」(佐野君)。男の子たちはその時のようすを思い出して、少ししんみりしていました。

「まもなくスーパーの新しい店舗が出来上がるって聞きました。でも、それができちゃうと移動販売はこなくなっちゃうのかな。仮設に暮らしているおとしよりとか、買い物とかはどうするんだろう」
仮設住宅に暮らす咲絢さんは、復興への期待の気持ちと、仮設住宅に暮らすお年寄りの生活の心配と、両方のことを感じていました。

(初日のノートを振り返りながらキャプションを作る薫さん)

「瓦礫のあるところとか見ていて『はあーっ』っていう感じでした。未来を感じたのは、お花とか。バックに何もないようなところにお花が咲いているようなところを写しました」(薫さん)

14:00

表彰タイム!

(スライドショーを見て投票する写真を選ぶ子どもたち)

みんながキャプションを書き終える頃、ジャコモは子どもたちを楽しませるための表彰用のたすきを用意していました。
「『ベスト・フォトグラファー』って何ていう意味ですか?」
「『ファニー』ってどういう意味?え?変な写真ってこと?!俺のが選ばれたらどうしよう!」
キャプションを早くに書き終えた男の子たちが騒いでいるのをよそに、女の子たちは時間ぎりぎりまでキャプション制作に夢中になっていました。

投票する写真を決めるにあたって、ジャコモが作成したスライドショーをみんなで鑑賞し、その中から投票する写真を選んでもらいました。 用意された賞は以下の4つ。

  1. Best "Funny Shot"(一番変な写真賞)
  2. Best Photo Award(最優秀写真賞)
  3. Best Photographer Award(最優秀写真家賞)
  4. Best Team Award(ベストチーム賞)

(一番変な写真賞受賞作品と咲絢さん)

(チーム賞を受賞したAチームのメンバー)

Best "Funny Shot" Award(一番変な写真賞)には、咲絢さんの撮った「イク」という男の子を写した写真が選ばれました。この子のの写っている写真をみると、みんなもつい笑顔になってしまいます。

続いて、Best Team Award(一番素晴らしいチーム賞)。この賞は大人も含めたEYE SEE TOHOKUプロジェクトメンバー全員で投票しました。結果は、10対8の接戦で、Aチームが勝ちました。

(佐野君と最優秀写真賞受賞作品)

最優秀写真賞では、「野球ボールを写した写真」が選ばれました。撮影したのは佐野君。野球ボールが月面の表面みたいに写っているところがとてもかっこ良く、男の子たちのお気に入りだったようです。他には、瓦礫の中に落ちているレゴを写した写真、復興食堂「よってったんせぇ」で働くおばさん、ガソリンスタンドで働く、友だちのお父さんの写真などが候補に選ばれました。

(最優秀写真家賞を受賞した望鈴ちゃんと、彼女の一番のお気に入りの写真)

最後はBest Photographer Award(最優秀写真家賞)。この場にいた全員が投票しました。結果は、望鈴さんが受賞。望鈴さんは自分が撮った写真のうち一番気に入っている写真として、復興食堂「よってったんせぇ」のおばさんの写真を選びました。「笑顔がとてもいいからです」というのがその理由。復興に向けてがんばっている人、働く人の写真が撮りたいと言っていた望鈴さんが求めていた吉里吉里の人の姿が、この写真に象徴的されていたのかもしれません。ジャコモさんは「大変なことがあったにも関わらず前向きな、未来のイメージがあってとてもいい写真ですね」とコメントしました。

子どもたちへのメッセージ:

(子どもたちに手渡されたプレゼントの写真)

表彰の後、ジャコモさんから子どもたちへプレゼントがありました。
「2週間一緒にがんばってくれてありがとう。とても感謝しています。このプロジェクトや写真のことをどうか忘れないでください。みんなの写真は、これから世界のいろいろな人たちのところに連れていきますからね」
そういってジャコモさんから額に飾られた写真とその後ろに添えられたオリジナルメッセージが手渡されると、思いがけないプレゼントに子どもたちはとても驚き、喜んでいました。 

ボランティアの大学生、良太君からは「本当に感動しました。みなさんがやったことは、日本だけではなく世界中にはばたいていくと思います。ありがとうと思う気持ちを大切にしてください。私もがんばりますので、みんなもがんばりましょう」とメッセージが寄せられました。
ワークショップを一緒に見守ってくださったPTA会長の東梅さんは、「今、皆さんは14・15歳ですね。一期一会という言葉があるけれど、その気持ちを忘れないで、これからも瞬間瞬間に向き合ってほしいなと思います」と話してくださいました。

こうして、それぞれがそれぞれの思いを胸に、4日間の岩手でのワークショップが幕を閉じました。

ワークショップを終えて:

参加した子どもたちからのコメントです。

「家の2階から、毎月11日に写真を撮っています。最初に撮ったのは3月の20日くらい。それから、毎月11日に同じ場所から写真を撮ろうと考えようと思いました。今回のプロジェクトでは、線(を意識する)とか、いろいろな技術を教わったのが面白かったです。(最初、人を撮ることはあまり得意でないと思っていましたが)すごいカメラで撮ったからと思うけれど、人もきれいに撮れたと思います。真ん中から少しずらすとか、教えてもらったことを活かして上手にとることができました。とにかく、人が笑顔で笑っているところが撮りたかったので、そういう写真が撮れてうれしかったです」(望鈴さん)

「大槌の中に吉里吉里があるけれど、大槌の中に住んでいても行ってないところもいっぱいあるし、線路が(流されてしまって)ないから電車がこないってことは知ってたけれど、おもいっきしないじゃないですか。(それを見て)ああぁーって、びっくりしました。プロジェクトは参加できて楽しかったです。ジャコモの英語は、ちょっとイタリアっぽいところがあったけれど、話すのは楽しかったです」(薫さん)

「妹が二人と両親との5人家族です。このプロジェクトに参加したのは、仲間の写真を撮りたかったから。いい顔をしているところとかを写したいと思いました。今回の撮影で印象に残っているのは、海と店(復興食堂「よってったんせぇ」)です。震災が起こった後にも関わらず、がんばっていてすごいと思いました。あそこで働いているのは、知ってるやつのばあちゃんとか。みんな60歳くらいだけど元気です。そういう姿も伝えたいし、津波がこんなに怖いものなんだよということも伝えたいと思いました」(太一君)

「将来は人の役に立つ大人になりたいです。将来は、前よりももっと活気がある大槌になればいいなと思っています。将来は消防士や自衛隊とかになりたいし、なれるといいなと思ってます」(佐野君)

* * *

小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたみんなも、高校からは離ればなれになります。吉里吉里からはバスを使って釜石や大槌にある高校にいく人が多いそうです。このプロジェクトを通じて、友だちの写真をたくさん撮ったこともまた、子どもたちにとってはとても大きなギフトとなったようです。

* * * 終わり * * *

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