世界のともだち

スタディツアー視察報告

モンゴル  スタディツアー報告  (2012年7月22日〜7月29日実施)

9. バヤンズルフ地区
第44学校の校長先生

(1) 第44学校と衛生教育活動

バヤンズルフ地区の最優良校、第44学校は、小・中・高一貫型で、生徒数は、2,276名います。生徒数が多いため午前・午後の二交替制で、授業を行っています。数学と英語教育に力を入れていますが、特筆すべきなのが、衛生教育です。
モデル校として整備されたこの学校では、手洗いを中心とした衛生教育が行われています。各教室には洗面台が設置され、16カ所あるトイレの手洗い場には、センサー式の蛇口がついていました。
生徒の半数が、ゲル地区から通学していますが、ゲル地区には家に下水道設備のないところがたくさんあります。そのため、衛生教育は、主に学校で行われています。特にトイレ後の手洗い教育は重要で、ゲル地区の感染症減少などの成果を挙げています。
高等部では、「若きドクタークラブ」という生徒による課外活動クラブが衛生に関する取り組みを展開していました。一年間を単位とした活動で、2011年度は、小学校1・2年生に自動水栓の使い方、石鹸を使っての手洗いの仕方、ゴミの分別、HIV/エイズ感染予防、タバコや飲酒の怖さについての啓発活動を行いました。独自の教材も作り、活動の状況を随時、学校の掲示板で報告しています。
昨年度は大きなテーマとして「水」を取り上げました。モンゴル政府が水を大切にするキャンペーンを行っていたため、連動して活動することができました。「水の日」には、生徒が講師となって教職員向けに水に関する勉強会を実施するなど充実した活動になりました。水に関するスピーチ大会もあり、クラブも参加して、4位入賞を果たしました。視察では、ボロツェルグさんとシャウドランさんという二人の代表がプレゼンテーションを行ってくれました。たくさんのおとなの前でも臆することなく、自信に満ちて発表をする姿は感動に値するものでした。

モデル校の手洗い設備
プレゼンをしてくれたドクタークラブの子どもたち

(2) ファミリークリニックの活動

バヤンズルフ地区は、ウランバートルの中で一番面積が広く、28のホロがあります。30万人の人口を抱えていますが、そのうち、60%がゲル地区の住民です。ゲル地区の住民は、地方から仕事を求めて流入して来ているので、多くは失業状態です。また、人口の移動が激しいため、全ての住民が住民登録をしているわけではありません。行政担当者すらゲル地区の実態を把握できませんが、住民票がないために健康保険等の公的支援すら受けられない人が多く、貧困から抜け出すのは容易ではありません。将来が見いだせず飲酒に走るケースが多く、アルコール中毒も大きな問題になっています。育児放棄や虐待、捨て子も後を絶ちません。インフラ整備も追いつかず、道はぬかるみ、ゴミがあちこちに遺棄されるなど、衛生と保健サービスの普及が大幅に遅れています。

<バヤンズルフ地区の医療事情>

現在、バヤンズルフ地区の各ホロには、ファミリークリニックと呼ばれる医療センターがあります。ホロの医療の中心で、住民が病気になった場合には、まずこのクリニックを訪れます。軽症であればここで治療を行いますが、重症の場合は市内の大きな病院へと送られます。治療費が払えない困窮家庭には医療証が発行され、医療費と調剤費の支援が行われる仕組みになっています。しかし、医療証は住民登録がなければ発行されません。中には、他人の証明書で入院しているケースもあります。医療においても、未登録住民が大きな課題となっています。これらの人々にきめ細かな支援を行うのがソーシャルワーカーですが、どんどん流入してくる住民に、全く追いつかないのが実情です。

ファミリークリニック
活動についてお話を伺う
バヤンズルフ地区遠景

<ユニセフとバヤンズルフ地区におけるプロジェクトの連携>

バヤンズルフ地区でユニセフの活動がスタートしたのは、2009年のことです。衛生と安全な生活がプロジェクトにおけるユニセフの目標で、NGOとの連携を図りながら支援を拡げてきました。まずはじめられたのが、ファミリークリニックを拠点としたワクチン接種で、現在に至るまで続けられています。このプロジェクトに連動し、2011年にはモンゴル政府による貧困家庭への法的な支援活動がスタートしました。ユニセフのプロジェクトがこの地区への支援の道を開いた、と言い換えることができるのかもしれません。
本格的に法的支援をスタートさせるに先立ち、どのような形で支援を行うのか、事前調査が実施されました。調査の結果、移動が激しく、身分証がない住民が多いこと、人口増加に伴う出生率の増加、圧倒的に対応するための人材が足りない等の問題が明らかになりました。
そこで、まずは生活の基盤を安定させることから始めようと、保健省やソーシャルワーカー、NGO と連携し、3,800世帯に保健セットや食事の手引きを配布しました。現在も家庭環境改善プロジェクトとして引き続き継続支援を行っています。
医療に関する課題への取り組みも始まっています。医療従事者への意識改革を行い、各地区の保健センターが拠点として整備されました。ソーシャルワーカーを中心に、家庭環境改善プロジェクトと連動させての活動です。保健センターには、リハビリ室も新たに設置され、お年寄りへのケアもできるようになりました。また、ワクチン接種の本格化に伴い、ユニセフはクリニックにワクチン保管用冷蔵庫を設置しました。
新たな試みとしては、日光浴治療があります。これは、地域コミュニティづくりという目的も兼ねた取り組みです。知人のいない新住民はお互いに交流がなく、母子共に引きこもりがちになります。引きこもりは時に、虐待を引き起こします。そこで、近隣の公園を拠点としてチャイルドケアを実施しています。拠点には、保健師が出向き、栄養状態が悪い子への補食配布、ベビーマッサージの指導などの子育て支援を行っています。

公園に向かう参加者
ベビーマッサージの様子

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日本ユニセフ協会