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こどものメンタルヘルス

気候不安(エコ不安)―――お子さんとの対話のヒント
気候変動に強い不安を感じるお子さんの支え方

© UNICEF/UNI642896/Do Khuong Duy

気候変動は、子どもの健康とウェルビーイングのほぼあらゆる側面に影響を与えます。子どもたちは、自然災害による直接的な影響だけでなく、ニュースやSNSを通じて、環境破壊の現状について、また十分に進んでいない政策形成や社会課題への対応について知ることによって間接的な影響も受けます。その直接的、間接的な影響は、子どもたちのストレスを増大させ、不安やうつ、将来の希望の喪失などにつながる可能性があります。

世界は、子どもたちを気候変動から十分に守れていません。しかし、親など子どもの周囲にいるおとなは、変化し続ける世界の現実を子どもが乗り越えていかれるよう、支えとなることができます。

3人のメンタルヘルスの専門家、キャロライン・ヒックマン氏、ジョン・ジャミール・ベンゾン R. アルタ氏、ティシャモ・マタバネ氏に、気候不安とは何か、そして、親や周囲にいるおとなが子どものメンタルヘルスとウェルビーイングを支えるためにできることについて伺いました。

気候不安(エコ不安)とは

 さまざまな形で気候変動の危機的な影響が明らかになる中、それらがメンタルヘルスに及ぼす影響や心理社会的影響を表す「気候不安(climate-anxiety)」や「エコ不安(eco-anxiety)」という新たな言葉が生まれてきました。

気候不安とは、気候の危険なレベルでの変化に反応して高まる、情緒的・精神的・身体的な強い苦しみを指します。

気候不安は、「現実的で自然な感情」です。気候変動の危機的な進行に伴う恐怖、心配、ストレス、無力感、不安感は、気候変動の影響を目の当たりした際の当然の反応であり、精神疾患としてみなすべきものではありません。

これらの感情は、拡大する世界的な危機に対する自然な反応ですが、日常生活に支障をきたすようなら注意が必要です。気候不安が学校生活や友人関係、家族関係に影響を及ぼし始めている場合は、これらの感情にうまく対処し、健全な発達とウェルビーイングを保てるよう、専門家の支援を求めることが重要です。

 

1.子どもの心身への影響

キャロライン(以下、敬称略)気候変動に対する懸念は、子どもや若者の日常生活(食事、睡眠、学校生活など)、将来についての考え方、そして感情に影響を及ぼします。

子どもや若者は、おとなよりも影響を大きく受けます。身体やこころが発達の途上にあるからです。加えて気候変動は、勉強、学校生活、将来の職業など、彼らの今とこれからの人生全体に影響するためです。

子どもや若者は、気候変動対策に直接影響を与えられるだけの十分な経済的・政治的な力をまだ備えておらず、おとなを頼る立場にあります。そのため、気持ちを落ち着けたり、つらいときに対処したりする力を育むには、おとなの支えが必要です。地球のことを心配する気持ちは、診断すべき症状でもメンタルヘルスの問題でもなく、健やかなこころや意識の高さの証で、環境への共感と責任感の表れといえるでしょう。苦しんでしまうのは、それだけ地球を「大切に思っているから」なのです。何より重要なのは、子どもや若者の声に耳を傾け、真剣に受け止め、行動につなげていくことです。

「地球温暖化が進む中、世界中の多くの若者が、自分たちの未来をとても心配しています」

 

ティシャモ:13歳未満の子どもは、特に洪水、山火事、干ばつなど気候に関連して起こる災害を経験したり、目の当たりにしたりしたときに、同じことが再び起こるのではないかと心配するようになる場合があります。

・自分自身や自分の家、ペット、先生、家族や友だちに同じようなことが起きるのではないかと心配することもあります。
・幼い子どもは、「親が迎えに戻ってこないのではないか」という不安から、親と離れることに強い抵抗を示すことがあります。
・こうした不安はときに睡眠に影響し、災害に関する悪夢を見るようになる子どももいます。大切な人や大切な場所を失ってしまうのではないかという恐怖につながることもあります。
・このような不安は、子どもの学習、遊び、情緒の発達に影響を及ぼすことがあります。特に、実際に経験したり、近くで災害が起きたと知ったりした場合は、既に持っていた不安がさらに強まります。

13〜18歳の思春期の若者は、幼い子よりも論理的に考える力を持っていますが、気候変動による世界中の被害を伝える報道に触れる機会も多くなります。そのため気候変動が、子ども・若者自身が暮らす地域や世界に与えている影響を、より明確に認識できます。

そのため、恐怖や悲しみ、心配、怒り、無力感など、さまざまな感情が引き起こされることもあります。思春期の子ども・若者では、こうした感情が長期間続くと、不安につながり、集中力、睡眠、食生活、人間関係に影響することがあります。

ジョン:子どもや若者は、気候不安に陥りやすい年代です。気候不安は、気候変動による危機という現実的で人類の存在を左右しかねない脅威に適応しようとする自然な反応ではありますが、一方で、若者のうつ、不安、睡眠障害などの問題を引き起こす可能性もあります。地球温暖化が進む中、世界中の多くの若者が、自分たちの未来をとても心配しているのです。

© UNICEF/UN0547131/Elwyn-Jones

2. 「気候不安」に関する誤解

ジョン: 気候不安は精神疾患であると誤解されることがありますが、気候変動による危機に起因する気候不安などの感情を持つことは、ごく自然な反応です。

キャロライン: よくある誤り、もしくは誤解は、気候不安を一部の人だけが経験する「メンタルヘルスの問題」と捉えてしまうことです。しかし実際には、これは(気候変動に起因する)環境問題への“健全な”こころの反応なのです。子どもたちが気候不安に向き合うために、ときにこころの支えが必要となることには同意しますが、ほとんどの場合、治療は必要ありません。必要なのは、不安な気持ちへの理解と共感、(孤独にならないための)支え、そしてケアです。さらに、世界は自分ではどうにもできないと感じられるときには、安全でこころをつなぎとめる存在となってくれる周囲のおとなとの安定した関係が大切になります。その上で、気候変動に対する何らかの行動を起こしましょう。

私は、こうした誤解をなくしていくために、「気候不安」という言葉は、「気候を大切にすること」や「気候への思いやり」「気候への共感」といった言葉に言い換えるべきだと考えます。なぜなら、人が何かを感じるのは、その何かを気にかけているからであり、それは誇りに思ってよいことだからです。

 

3.気候変動に不安を感じているサイン

ティシャモ: 子どもの感情・行動の変化や身体の不調などの訴えに注意し、それらの兆候や症状がどのくらい続いているかにも気を配りましょう。

幼い子は本来、好奇心旺盛で周囲の不安に思うことを口に出すものですが、そうしたことを何日も何週間も話題にあげ続け、特に日常生活への支障が出始めた場合には、その不安が消えていないしるしです。現れるサインには、次のようなものがあります。

・災害に関する悪い夢を見たり、悪夢が長く繰り返されたりする
・親から離れたがらず、べったりと甘えるようになる
・以前やっていた爪かみや指しゃぶりを再びやるようになったり、頻度が増えたりする
・思春期の子どもでは、特定の災害に強くとらわれるようになる
・落ち着きがなくなったり、悲しみや恐怖に苦しんだりする

キャロライン: もしおとなが気候変動に対して迅速に行動していないのであれば、子どもたちが不安を感じるのは当然のことです。

子どもたちは、不安、悲しみ、絶望、いら立ち、無力感、裏切られた・見捨てられたという感覚、そして信頼の喪失といったサインを示すでしょう。これらはすべて、気候変動に対して対策が取られていないという状況を考えれば、無理もないものです。私たちが気候変動対策を進めれば、こうした症状は軽減していくでしょう。問題が子ども自身にあるかのように扱うことは、子どもにとってさらに理不尽なことです。

 

4.気候不安に対処しようとする子どもの助け方

キャロライン: 親ができる最も大切なことは、子どもと話すことです。子どもがどのように感じ、何を考えているのかを聴いて、その気持ちを認めてあげてください。たとえあなた自身が同じ気持ちではなくても、子どもの思いを当然のものとして受け止めることが重要です。

多くの場合、子どもたちが必要としているのは、「自分は、親や大切な人に見てもらえている、聞いてもらえている、理解されている、そして不安を一人で抱えているわけではない」と分かることです。

不安の種が多くある現実世界で生きるうえで、どのように“大丈夫でいられるか”を子どもに伝えましょう。例えば、次のような伝え方があります。「今起きていることに無理に“幸せ”を感じる必要はないよ。でも、この世界にまだ残っているものに目を向けて、意味を見出そう。それらを大切にして、価値を見いだして、いとおしく思い感謝すること、それが大事だよ。」

子どもたちには、恐れや不安に押しつぶされてしまわないように、実際的な行動、気持ちを整える力、そしてレジリエンス(立ち直る力)のバランスが必要です。そうすることで、自分自身にも、より良い未来をつくる力があることに気づけるようになります。

もしお子さんが殻に閉じこもって、あなたと話をしなくなった場合は、専門家に相談しましょう。でも、焦ることはありません。時には、話すのに適したタイミングではないこともあります。

時に「うまくいっていない」と感じる世界の中で、どうしたら“自分でいられるか”を子どもに教えましょう。

 

ティシャモ: お子さんのつらい気持ちを抱えていることにあなたが気づいていると、伝えましょう。そして、これらの不安を一緒に乗り越えられるよう、あなたがそばで支え続けると伝え、お子さんを安心させてあげましょう。

子どもの前では、気候変動に関する発言やあなたが感じている不安を表現する仕方にも気をつけましょう。同時にあなた自身も、悲しさや不安を感じていることを率直に受け入れましょう。そして、お子さんがメディアで伝えられる深刻な被害をどのように見聞きしているかも知っておく必要があります。お子さんが不安を感じているときには、散歩やサイクリングに連れ出したり、一緒に料理をしたり、子どもが楽しめるゲームをしたり、呼吸法の練習をしてみるのもよいでしょう。

すでにメンタルヘルスに不調を抱えている子が気候変動を心配している場合には、さらに強い不安にとらわれやすくなります。メンタルヘルスの専門家に相談し、支援を受けてください。

© UNICEF/UN0607653/Rich

ジョン: 親は、子どもの気持ちに寄り添いながら、気候変動問題に関する話をどこまで伝えるかをよく考える必要があります。子どもの発達段階に応じて適切に関わることが大切です。そうすることで、子どもは環境悪化や気候変動の脅威に圧倒され不安に押しつぶされることなく、未来に希望を持って気候変動対策に取り組み、行動できるようになるのです。

子どもが学校や地域で行われている環境活動などに参加できる機会を探しましょう。そうした場があれば、気候変動について自分の思いを表現できるようになります。こうした経験を通して、自分が一人ではないと気づけますし、特に仲間と一緒に行動する機会を持てることは、希望を育むことにもつながります。

「気候変動対策こそが、気候不安の特効薬である。」

ジョン・アルータ

 

5.レジリエンス(回復力)の育て方

ティシャモ: 気候変動や環境問題の影響との関わりで子どもの回復力を育むために必要なことは、“一回きりの講義”ではなく、時間をかけて意識的に積み重ねていく取り組みです。

年齢に合った形で、気候変動やその他の環境問題に対する不安について、率直に話し合いを続けましょう。

家庭の中で、環境に配慮した行動や考え方のお手本を見せましょう。例えば、リサイクルをしたり、一緒に木を植えたりして、お子さんが環境を守るための行動を積極的に取れるようにしましょう。さらに、環境保護に取り組んでいる団体を一緒に探し、お子さんがボランティア活動に参加できるようサポートするのもよいでしょう。

お子さんには自分の意見を持つことの大切さを伝え、そしてその声に耳を傾けてください。子どもたちは、どのようにこの状況を改善し、今あるものを守り、環境を再生していくかについて、貴重な提案をしてくれるでしょう。

「気候変動や環境問題の影響に対して子どものレジリエンス(回復力)を育てるためには、一回きりの講義ではなく、積極的に時間をかけて積み重ねていく取り組みが必要です。」

 

キャロライン:親が子どもを恐怖から守りたい、と思うのは当然です。しかし気候変動は、いずれは過ぎ去る問題ではありません。だからこそ、向き合っていく必要があります。

子どもたちと気候変動について話し、世の中の難しい問題をどう乗り越えていくかを教えてあげましょう。そして、人生を生きる上で最も大切なこと――すなわち、良い人間関係や良い価値観、平等、愛、そして自分自身や他者、地球を大切にする気持ち――を忘れずにいられるよう、子どもたちを支えましょう。

 

 6.専門家に相談すべきタイミング

ティシャモ: 以下の兆候や症状が続いたり、気になるほど強くなってきたりした場合は、専門家の助けを求めてください。

・感情面:長く続く悲しみやいら立ち、心配、恐れ
・行動面: 睡眠の乱れ(不眠)、落ち着きのなさや興奮状態、集中力の低下、自傷的な行動
・認知・思考面:集中力の欠如、物事全般に対する否定的な姿勢、悪夢や恐怖を口にする、「自分が迷子になったようだ」「頭が真っ白だ」などの訴え
・身体面:息苦しさ、胸の圧迫感、腹痛、動悸、パニック発作、筋肉の緊張、疲労感

「お子さんのことが心配な時は、まず親であるあなたの自身のためのサポートを探しましょう。そのうえで、必要であればお子さんのためのサポートを探してください」

キャロライン・ヒックマン

 

© UNICEF/UNI631750/Voisard

7.気候変動とメンタルヘルスについて、家族と取り組んでいることはありますか?

ティシャモ: 世界中の気候変動の影響について、情報を提供し続けてくれている各種メディアに感謝しています。

社会的に弱い立場の人々を支援する団体に寄付をすることで、避難を余儀なくされた人々を支援する活動に参加しています。

ゴミ問題に関心を持ち、リサイクルできるものを分別したり、生ごみでコンポストを作ったりする取り組みも続けています。

できるだけ相乗りをしたり公共交通機関を利用したりして、二酸化炭素排出量を減らすよう努めています。

自然に恩返しをするために、草木を植えるよう心がけ、家族にも同じことを勧めています。

 

8.子どもを支えるために、他に必要なこととは?

ジョン: 親、国の政策を担う人々、地域や世界のリーダーたちなど、世界のおとな一人ひとりが、必要な気候変動対策について緊急かつ正しい決定を下し、次世代への責任を示すことが重要です。おとなが子どもの未来を気にかけ、次の世代が住み続けられる地球を守るために全力を尽くしている姿を子どもたちに見せる必要があります。

 

質問に答えた専門家:

キャロライン・ヒックマンさんは、メンタルヘルスの社会福祉士としての経歴を持つ心理療法士で、英国バース大学講師です。世界中の子どもや若者の気候変動への心理的な反応(エコ不安、苦痛、エコ共感、トラウマ、道徳的損傷〈moral injury〉、気候不安が人間関係に与える影響など)について世界規模で研究しています。

ジョン・ジャミール・ベンゾン R. アルータ博士は、フィリピン・マニラのデ・ラ・サル大学准教授です。 学術誌『Global Environmental Psychology』の副編集長を務めるほか、『BMC Psychology』 と 『Nature Communications Psychology』の編集委員でもあります。 またフィリピンで臨床家としても活動し、家族・子ども・思春期・若年成人を対象にメンタルヘルスの診察、カウンセリング、心理療法を行っています。 さらに、「Sustainability Psychology and Planetary Health Research Laboratory (SPPHERE Lab)(仮訳:サステナビリティ心理学・プラネタリーヘルス研究所)」の創設者・初代ディレクターであり、フィリピン心理学会の環境心理学特別部会の議長も務めています。

ティシャモ・マタバネさんは、公認臨床心理士です。南アフリカ・パークタウンにあるネルソン・マンデラ小児病院を含む3つの病院での勤務経験があり、現在は個人臨床を行っています。子どもと若者のメンタルヘルスに関する啓発と心理教育に積極的に取り組んでいます。

 

※本ページはこちらの英語原文を元に仮訳したものです(アクセス日 2026年2月2日)。

 


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