主な兆候と
母親となるあなた自身のこころをサポートする方法

赤ちゃんの誕生は、愛情、喜び、興奮、苛立ち、不安など、さまざまな強い感情をもたらします。出産後数週間から数カ月の間に気持ちが大きく揺れ動くのは、赤ちゃんを迎え、世話をすることによる大きな心身の変化を考えると、当然のことです。しかし、「うつ」や不安の感情が、新しい家族を迎える喜びを上回ってしまうことも例外ではありません。周産期医学(母体胎児医学)の専門家で米国ノースカロライナ大学医学部産婦人科のアリソン・スチューブ教授に、「産後うつ」の兆候とサポートの見つけ方を伺いました。
メンタルヘルスをテーマにした記述に触れること自体、「つらい」と感じられる方もいるかもしれません。もしあなたや大切な方がこころの健康で苦しんでいる時は、こちらのページで紹介している相談窓口などを通じて、専門家のサポートを求めてください。
「マタニティブルー」とは?
「産後うつ」とは?
産後うつの症状
産後うつの予防法
産後うつとの向き合い方
専門家に相談すべきタイミング

「マタニティブルー」とは?
出産後2〜3日ほどしてから憂うつな気分や不安に駆られる方は少なくありません。理由もなく涙が出たり、眠れなくなったり、新しい赤ちゃんの世話ができるのか不安になったりすることがあります。スチューブ教授は「これは主にプロゲステロン(黄体ホルモン)の変化によるものです」と説明します。しかし、それだけが原因とは限りません。ホルモンの変化に加えて、長く続く疲労や強い疲弊感、授乳の難しさ、その他の産後の不調など、これらの感情につながる要因は他にもあります。
その他の要因
その他の要因には、次のようなものが含まれます。
- 過去にメンタルヘルスの問題を抱えた経験
- 生物学的な要因
- 十分なサポートが得られないこと
- 子ども時代のつらい体験
- 虐待を受けた経験
- 自尊心の低さ
- ストレスの多い生活環境
- 人生の節目となる大きな出来事
家族や身近な人、友人などの適切なサポートがあれば、これらの感情は、大抵の場合、専門的な治療の必要もなく約2週間で落ち着きます。
「産後うつ」とは?
「産後うつ」は「マタニティブルー」とは異なります。「産後うつ」の症状は、通常、出産後2〜8週頃に現れますが、赤ちゃんが生まれてから1年以内であれば発症する可能性もあります。スチューブ教授は「『産後うつ』の重要な点は、単に悲しい気持ちになるだけではないということです」と説明します。強い不安感も、「産後うつ」によくみられる特徴です。
注意が必要な症状には、押しつぶされそうな気持ちになる、涙が止まらない、赤ちゃんとの愛着を感じにくい、自分や赤ちゃんの世話がうまくできるか不安になる、などが含まれます。
「赤ちゃんのことを心配するのは、誰にとっても自然なことです。でも、『産後うつ』の方は心配の度合いが強すぎて、赤ちゃんとの時間や日々の生活を楽しむことができなくなります」(スチューブ教授)。「産後うつ」になると、自分自身や赤ちゃんの世話が思うようにできなくなることもあります。「『産後うつ』は、ただ悲しい気持ちになったり涙がでたりするだけではない、と理解することが大切です。子どもに何か悪いことが起こるのではないかという恐怖で、ほとんど身動きができないほどになることもあり、それは親にとって非常につらいものです」(同)。
赤ちゃんが寝ているのに自分が眠れないことも、もう一つの警告サインです。「疲れきっているのに、いろいろな考えが頭を駆け巡って眠れないのは、あなたの脳がうまく休めていない状態にあるからなのです」(同)。

産後うつの症状
一般的な「うつ」の症状と似ており、次のようなものがあります。
- 悲しい、気分が落ち込む
- 普段は楽しいと思えることが楽しめない
- 疲れやすい、気力がない
- 集中力や注意力の低下
- 自尊心や自信の低下
- 赤ちゃんが寝ていても眠れない
- 食欲の変化
赤ちゃんやパートナーから気持ちが切り離されたように感じたり、自分自身や赤ちゃんを傷つけたいという考えが浮かんだりすることがあります。赤ちゃんを傷つけるような考えが浮かぶのは、とても恐ろしいことです。でも忘れないでください。たとえそんな考えが浮かんだとしても、それは、あなたが実際に赤ちゃんを傷つけようとしているということではありません。お友だちや家族、医師、助産師など、誰かに一日でも早く、あなたの考えていることや感じていることを伝えてください。あなたが必要としているサポートにつなげてくれるはずです。
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「一人のおとなが誰かの親になるには、時間も準備も必要ですし、一瞬にして親になれる人などいません。
それが普通なのだと理解することが、とても大切です」
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産後うつの予防法
ポジティブな対処法を身につけ、ストレスをコントロールし、お互いを支え合うネットワークを築くための心理教育は、産後うつの予防に役に立ちます。これは、こころの健康やウェルビーイングについて知って理解を深めていくことでもあります。学校の「体育」の授業では身体の仕組みや健康の保ち方、負荷やストレスが身体に与える影響を学びますが、心理教育では「身体」を「こころ」に置き換えます。あなたのメンタルヘルスを支えてくれる体制を家庭の中につくることは非常に重要です。あなたのパートナーや友人、家族に、産後のあなたをどのように支えられるかを学んでもらいましょう。赤ちゃんが生まれる前に、周囲の人々に、どのように支えてほしいかを話しておきましょう。
ご自身やご家族が「うつ」を発症した経験がある場合や、低い所得で厳しい生活を送られている(送られたことがある)場合、パートナーからの暴力や望まない妊娠を経験している(したことがある)場合、現在、大きなストレスを抱えている場合など、産後うつのリスクが高い方にも役立つ予防法が複数あります。医師や専門家に相談してください。
出産後に感情が麻痺したように感じています。よくあることですか?
もちろん良くあることです。スチューブ教授はこう述べています。「多くの人が、『赤ちゃんを抱いた瞬間に一目で愛して喜びに満たされる』と感じるべきだというプレッシャーを受けています。たしかに、多くの人は、初めて赤ちゃんに会った時、そう感じます。しかし、すべての人がそう感じるわけではありません。特に、長時間の陣痛や緊急帝王切開など、出産そのものがつらくトラウマを伴うものだった場合はなおさらです。一人のおとなが親になるには時間も準備も必要だし、一瞬にして親になれる人などいません。それが普通なのだと理解することが、とても大切です。しかし、ただ疲れているだけで何の喜びも感じられないとか、前向きなことが全く考えられない場合は、何かがうまくいっていないサインです。信頼できる友人や助産師、医師はじめ出産や産後ケアの専門家などに、『思っていたよりつらいです』『助けてもらえますか? これって普通ですか?』と話したり聞いたりすることは、とても役に立つでしょう」。

産後うつとの向き合い方
・ 自宅での十分なケアとサポート:
よく眠れていますか? ちゃんとした食事を取れていますか? スチューブ教授は「新たに親になった人の多くは、赤ちゃんの世話に追われ、まともな食事を取れていません。栄養のある、タンパク質が豊富な食事をとると、少しだけ自分らしさを取り戻せる気持ちになります」とアドバイスします。
・ 心理療法(対話療法):
「『産後うつ』や不安には、認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)など、効果的な心理療法がいくつもあります。」(スチューブ教授)。こうした感情と向き合うために、どのようなメンタルヘルスの専門家に相談すべきか、医師や専門家に相談してみてください。
・ 薬による治療:
「産後うつ」の症状の管理や軽減に有効な薬は複数あります。抗うつ薬の成分が母乳を通じて赤ちゃんに少量移行することはありますが、通常は、母乳の分泌量や赤ちゃんの健康への影響はわずかとされています。母乳育児には赤ちゃんにとって多くの利点があるため、母乳を介して赤ちゃんが薬に少し触れてしまう可能性と母乳育児の利点を併せて考えることが重要です。スチューブ教授は「明らかな害が認められない限り、治療を行いながら授乳を続けることは理にかなっています」と、必要な場合は薬による治療を選択することを推奨しています。どちらの選択肢がご自分に最も合うのか、必ず医師や専門家に相談してください。
・ 同じ経験を持つ人と話す:
多くの人が「こんな気持ちを抱えているのは自分だけなのでは」と感じています。ご自身と同じような状況にある人たちと思いや感情、経験を共有できるピアサポートや相談の場もあります。あなたの身近にどんなリソースがあるのか、医師や専門家に相談してください。自分の気持ちについて友人や家族に話すことも大切です。
・ 自分に優しくする:
親として「こうありたい」という思いがたくさんあっても、誰もがそのすべてを常に形にできるわけではありません。思っていたとおりにできなくても、また気分が落ち込んでしまっても、心配しないでください。友だちに接するときのように、自分にも優しくしてください。
どのように、パートナーはあなたを家庭で支えることができるでしょう?
人類の歴史を通じて、赤ちゃんは、地域の人々が協力しながら世話をしてきました。スチューブ教授は「誰にでも“村”が必要で、出産したばかりの人が赤ちゃんの世話をしている間、その人自身の世話をしてくれる人がいることは非常に重要です」と述べています。パートナーや周囲の人は、次のような方法で支援できます。
- 適切な頻度で十分な食事を取れているかを確認する
- 入浴する時間を確保する
- 交代で眠るなどして、十分な睡眠を取れるようにする
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「あなたは独りではなく、あなたのせいでもない、そして助けがあればあなたは元気になれるのです」
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専門家に相談すべきタイミング
スチューブ教授は、親たちに次のようにアドバイスします。「『何かおかしい』と思ったらすぐに、信頼できる医師に相談してください。高熱が出たら助けを求めるのと同じです。『産後うつ』問題に取り組む国際的な専門家団体Postpartum Support International は『あなたは独りではなく、あなたのせいでもない、そして助けがあればあなたは元気になれるのです』と言っていますが、私もこの言葉が大好きです」。
もし「産後うつ」のいずれかの症状が2週間のうちに悪化したり、2週間過ぎても続いたりする場合は、専門家のサポートを求めることを検討してください。助けを求めることにまつわる偏見から、躊躇する気持ちがあるかもしれません。でも、最も大切なことは、ご自身の健康、そして赤ちゃんの健康を第一に考えるということです。秘密を守りつつ、あなたの悩みや問題に真摯に対応し応えてくれる信頼できる専門家は大勢います。
あなたは今、多くの変化に向き合っています。スチューブ教授はこうも言っています。「自分に優しくしてください。いつも通り冷静でいられないことがあって当然です。その感情がしばらく続いたとしても、それは、あなたが良い親ではないということではありません。ただ、あなたの脳が、これまでにないほど頑張らされているというだけですよ」
この記事は、ユニセフの デジタルコンテンツライターである マンディ・リッチが、スチューブ教授にインタビューした内容をまとめたものです。
※本ページはこちらの英語原文を元に仮訳したものです(アクセス日 2026年1月29日)。





