【2015年12月 宮古市・山田町(岩手県)発】
日本ユニセフ協会は、震災発生直後から、日本プレイセラピー協会に所属する心理士の協力を得ながら、被災地で日常的に子どもと家庭を支える専門家の方々への研修を続けています。
© 日本ユニセフ協会 |
おとなにくらべ、言葉での表現が限定的な子どもたちにとって、「遊び」は、自分の考えや感情を最も表現しやすい“媒体”です。この「遊び」を理解し、「遊び」の持つ治癒的な力を引き出すスキルを持つおとなが「遊び」に寄り添うことで、子どもは体験した衝撃的な出来事や痛み、つらさや悲しみを克服していけることが世界中で実証されています。これまでに、日本ユニセフ協会の研修会に参加してくださった方々は、保育士や幼稚園教諭、子育て支援者、行政の相談員、幼稚園スクールカウンセラー、児童相談所心理司、児童養護施設心理士など、その職種は多岐にわたります。こうした方々に、「遊び」の治癒的な力を使って被災した子どもたちの心に寄り添い、必要応じて心理的治療を行う専門的スキルを向上していただくことが、日本ユニセフ協会が進める「心のケア専門家研修」の大きな目的です。
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心理専門家が行う心のケア支援に、「プレイセラピー」と呼ばれるものがあります。このセラピーに用いられる様々な手法の中で、親子の愛着関係に着目し、スキンシップや楽しさあふれる関係性遊びを通して子どもの自己肯定感や自信をはぐくむものが、「セラプレイ」と呼ばれる手法です。日本ユニセフ協会は、子どもの心のケア専門家向け研修会に継続的に参加し、一般的なプレイセラピーのスキルを十分に習得された岩手県の宮古児童相談所の心理司おふたりと岩手県保健福祉部子ども子育て支援課の職員おひとりに、より高い専門性が求められるセラピーのスキルを習得していただくため、2014年5月、東京で開催されたセラプレイ初級講座を受講していただきました。これをきっかけに、宮古児童相談所からは、「地域で活動する多くの専門家にも同様の機会を」との要望をいただき、同年11月18日、「セラプレイ」研修を目的とした「子どもの心のケア専門研修会」が宮古市で開催される運びとなりました。
会場の宮古市総合福祉センターで開催された研修会には、宮古市以外にも、釜石市や大槌町、山田町、岩泉町、田野畑村など、宮古児童相談所管内で活動する保育士・幼稚園教諭・学童保育指導員・行政の相談員が参加。50名を超える参加者の中には、会場まで往復4時間近く掛けて来られた方もいらっしゃいました。
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研修会を主催した宮古児童相談所の担当者は、震災から3年8か月が過ぎ、被災地で活動する支援者(専門家)のニーズも「被災児童に対する特別な支援」から「日常生活を通した被災児童に対する支援」に変化していると語ります。2014年11月の研修には、東京セラプレイ・センターの高井美和先生が講師として招かれましたが、研修の中で紹介された親子の愛着関係から子どもの状態を理解する視点や、子どものグループに向けて実施するセラプレイ遊びの実践演習は、日常的に子どもと関わる研修会の参加者が“今”必要としていることに応えるものだったようです。「私たちは、他の専門職や支援機関に較べてあまり研修機会がありません。学童には、被災時小学校1年生で、今も落ち着きのない行動を繰り返している子がいたりします。今回の研修で、普段やっている「遊び」の意味を捉え直すことができましたし、「遊び」を通して子どもの安心感・安全感を高める方法も学べました」といった感想を寄せてくださった学童指導員の方もいらっしゃいました。
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宮古市に隣接する山田町の療育教室には、長期化する仮設住宅での生活から来る様々なストレスを抱える、障がいを持つ子どもや発達が気になる子どもと保護者が通っています。先の宮古市の研修会は、この療育教室にセラプレイ的遊びとケアを導入するきっかけにもなり、日本ユニセフ協会は、そのための専門家研修とスーパービジョン(専門家への指導)の支援を実施。町の心理社会的ケア支援体制づくりの一環として、療育教室の職員と特別支援学校の職員、児童相談所心理司からなる5名が、セラプレイ的視点とスキルをさらに深めるため、2014年8月、東京で開催された2日間の研修会に参加。現地の活動に必要な備品を提供し、現在も、インターネット電話(スカイプ)を通じた東京のセラプレイ専門講師による定期的なスーパービジョンを提供しています。
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