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日本ユニセフ協会
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アグネス・チャン ユニセフ・アジア親善大使
シリア周辺国帰国報告会
「失われた世代」を生まないために

【2017年4月17日  東京発】

ユニセフ・アジア親善大使のアグネス・チャンさんが、4月2日から13日の日程でヨルダン、レバノン、トルコを訪問。シリア難民を受け入れている主要3か国を訪れ、持続可能な教育支援に向けた地元政府やユニセフの取り組みについて、4月17日、ユニセフハウスで報告しました。

アグネス大使は、シリア難民の受入数がもっとも多い3カ国ヨルダン、レバノン、トルコにおいてシリア国境沿いにある各国の難民キャンプ、非公式テント居住区、学校、家庭などを訪れました。シリアの子どもたちや受入国の人々の声を聞いたアグネス大使は、シリアの人々に目を向け続けることや、シリアの子どもたちが教育を受け続けるための体制を整える必要性について訴えました。

増え続けるシリア難民

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© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

最大規模のザータリキャンプに住むシリア難民約8万人のうち、半数は18歳未満の子ども。

シリア内戦が7年目を迎えるなかで、シリアから、周辺のヨルダン、レバノン、トルコ、イラク、そしてヨーロッパに逃れる難民は1,300万人に達しました。この数には、登録されていない難民も含まれます。

難民の人々はキャンプにいると思われがちですが、その大部分は街で生活をしています。ヨルダンでは、難民130万人のうち、10%のみがキャンプに住んでいます。

戦争は子どもを早く大人にしてしまう―児童労働と児童婚

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© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

レバノンのデルハミエ非公式テント居住区にて。13歳のアヤさんは、午前中はレタス農場で働き、午後は学校に通う。1日の収入は4ドル。

3カ国それぞれで増加の一途をたどっているのが、児童労働と児童婚です。働くことが許されない難民はデビットカード等での現金支給に頼っていますが、それだけでは生活費が足りず、捕まっても見逃される15歳以下の子どもを働かせているケースが多くみられます。ヨルダンでは、難民の男の子の半数が働いていると言われています。

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© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

市街地の一角に設置されたこのマカニセンターでは、紛争後に増加傾向が見られる児童婚の予防や当事者の保護、心理社会的サポートも提供している。

また、女の子はなかなか外では働けないため、結婚させられるケースが多くあります。ヨルダンでは35%のシリア人の結婚が未成年者(18歳未満)を含んでいます。これは、2012年の18%から2倍近くとなっています。結婚に際し、新郎側から新婦側に贈られるお金は生活の大きな助けとなりますが、18歳未満で結婚すると教育を受ける機会を失うとともに、虐待の被害を受ける恐れが高まるなど、深刻な問題が増えています。

アグネス大使がヨルダンで出会った17歳の少女は、14-15歳の頃結婚し、子どもは8カ月を迎えていました。学校に通えたのは、中学校まで。離婚したいと逃げたけれど、結婚の証明書もない上に、新郎側から贈られた約30万円を返す困難さもありました。この少女は、ユニセフの支援する民間援助団体の助けで、書類などをそろえて離婚することができた稀なケースです。

教育を受け続けられる環境を、ヨルダン

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© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

マカニ・ドロップ・イン・センターで服作りの授業を受ける15歳のオマールくん(写真左)。ミシンなどの縫製用の器具も備えたこの部屋でつくられた洋服は、キャンプ内のマーケットでも売られる。

ヨルダンで最大の難民キャンプ、ザータリキャンプの中には学校が11校(297教室)あり、シリア人とヨルダン人の先生が教えています。すべて午前と午後の二部制で、ヨルダンの教育カリキュラムに沿って実施されています。また、キャンプ内には、マカニ・ドロップ・イン・センターという、働く子どもたちが立ち寄れる場所もあります。職業訓練のできるファッションデザインの教室では、戦争前にデザイナーをしていたというシリア人の先生が教えています。

戦争が長引くと、学校に通えない子どもたちも増えます。ユニセフは、「失われた世代」をつくらないために、各国と協力して難民の子どもたちの教育を支援しています。ヨルダンでは特に成功しており、就学年齢の難民の子ども約91%が何らかの教育を受けています。ユニセフは、例えばキャンプで教えている先生に対して支払われる、インセンティブという形での費用をデビットカードで払っています。

レバノンに「難民」はいない

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© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

レバノン、サライン非公式テント居住区を歩く

2つ目の訪問国レバノンでは、ヨルダンとはまた異なる状況を抱えていました。人口450万人の国に150万人の難民が押し寄せ、4人に1人が難民となっています。一枚岩ではない不安定な政府の下、「難民」としてではなく、住むところを失った「避難民」として受け入れています。レバノンで生まれた子どもは国籍を持っていません。また、レバノンに難民キャンプはなく、代わりに非公式テント居住区が点在しています。ここで、難民たちは自力で地主から土地(多くの場合は農地の一角)を借り、その中にシェルターを作って暮らしています。

レバノンで訪問した小学校では、もともと317人のレバノン人の子どもが学んでいましたが、その後560人のシリア難民の子どもが生徒として加わりました。2部制で、午前にレバノン人、午後にシリア人が学んでいます。そこでアグネス大使が聞いたのは、午後の授業においては、給料が7か月間支払われていないという話でした。このような状況のなかでも、「シリアの子どもたちを取り巻く状況の改善には、立場を問わず、一人一人の役割の大切さがあるという思いをもって、今の仕事に向き合っている」と校長先生は語りました。

最も多くのシリア難民を受け入れているトルコ 

© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

トルコ、マイ・ハピネス・サポートセンターにておりがみの授業に参加するアグネス大使

トルコでは、300万人という、最も多くのシリア難民を受け入れています。シリアとの国境に近い、イスラーヒエ1キャンプを訪問しました。完成して5年目を迎えるこのキャンプでは、長期化する滞在とともに、他のキャンプと同様、住居をテントからコンテナへと転換する予定だといいます。

トルコでは、ユニセフの支援するマイ・ハピネス・サポートセンターが国内の5カ所で運営されています。ユニセフの子どもの保護専門官管理の下、カウンセラーや栄養専門家等、各分野の専門家が携わっています。子どもが子どもらしく遊べる場所であるほか、大きな音に過敏になったり、暴力的な行動に出るといったトラウマを抱えている子どもたちがカウンセリングを受けにくる場所でもあります。

アグネス大使がセンターで出会ったのは、アレッポから子どもを連れて逃げてきた姉妹でした。妹の夫は自宅の入口に仕掛けられた地雷を踏んで子どもたちの目の前で、姉の夫は刑務所で獄死したといいます。お姉さんは、逃げる際に子どもをかばって膝を怪我し、今も歩けない状態でした。複雑な書類の準備のためいまだ難民登録ができず、怪我の治療もできていないため、結果として、8歳と10歳の子を働きに出さざるを得ないといいます。センターの目的は、こうした難民の子どもやその家族の状況をいち早く把握し、最善としては問題の発生を未然に防ぐことにあります。

尊厳がないことが最もつらいこと「ふるさとに帰りたい」

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© 日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

家族10人とともに避難生活を送るアマールさん(写真左)は、地主が所有する農地で働き1日7ドルを得る。「子どもたちに教育を受けさせて、尊厳を取り戻したい」「土を食べてもいいから、シリアに戻りたい」と訴える。

「日本を出発する前は、シリアの人々はヨーロッパに行きたいものと思っていたけれど、出会ったシリアの人々は、大人も子どもも、『シリアに帰りたい』と口をそろえて語った」というアグネス大使。シリアの人々と話をする中で、「尊厳(dignity)」という言葉を何度も耳にしたといいます。

「最もつらいのは、尊厳がないこと」と語った難民の人々は、日本に住む私たちと同じように日常生活を送っていたのに、突然家を失い、自国から離れることを強いられました。元の生活に戻りたくても戻れない、難民なので働けない、子どもたちを学校に通わせてあげられない、という状況に置かれています。

今回の訪問で、難民や受け入れ側のさまざまな思いを聞いたアグネス大使は、「最大の願いは、戦争が終わって、みんなが家に帰れること。だけど、いつになるか分りません。明日すべてが解決することは、ない。長期的にシリア難民がいる、と考えなければならないと思います。難民がいるから社会が良くなった、そういう状況を作らないといけません」と力強く訴えました。

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「シリアの小さな声 〜世界に逃れた、シリアの子どもたち〜」

ユニセフハウス1階にて企画展示 開催中

現在ユニセフハウス展示スペースの1階では、関連する以下の企画展示を行っています。

7年目を迎えたシリア危機。現在シリア国内外で支援を必要とするシリアの子どもたちは800万人を超えており、多くの子どもたちが二度と取り戻すことのできない「子ども時代」を奪われています。

シリア国内、トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトなど、様々な場所に逃れた子どもたち。耳を澄ませないと聞こえないような、彼ら彼女らの「小さな声」。

子どもたちの口から直接語られる想いや現実を、本企画展ではご紹介しております。6月下旬までの開催予定です。ぜひお越しください。


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