メニューをスキップ
日本ユニセフ協会
HOME > ニュースバックナンバー2015年 >

世界の子どもたち

イラク
シリアへ拉致されたヤズディの親子
「家族と再会できる日が来るなんて」

【2015年9月17日  イラク発】

小さなビニールプールで水遊びをするファルハーンくん(3歳)。元気に遊ぶ姿は、他の子どもたちと何も変わらないように見えます。わんぱくなファルハーンくんは、太陽の光に照らされ、自分の腕の影ができる様子を見て、目を輝かせています。

少数民族ヤズディの男の子

ファルハーンくんと両親がイラクのクルド自治区にある国内避難民のための施設に辿り着いてから、1カ月以上が経ちました。

ユニセフ子どもの保護チームは、ファルハーンくんの経過状況を注意深く見守っている。

© UNICEF/Iraq/2015/Niles

ユニセフ子どもの保護チームは、ファルハーンくんの経過状況を注意深く見守っている。

「ファルハーンくんは、だいぶよくなったと思います。ここに初めてやって来たとき、ファルハーンくんは誰とも目を合わせようとはせず、攻撃的な態度も見せていました。プレゼントを渡しても、受け取ることはしませんでした」と、ユニセフ子どもの保護担当のジュワンが語ります。

ユニセフ子どもの保護チームが経過状況を見るため、ファルハーンくんや家族の元を再び訪れていました。しかし、ファルハーンくんは全く気に留めていないようです。プールから上がって服を着替え、小さな赤い車のプレゼントを受け取りました。嬉しそうに車を手に取ると、その内装が気になったファルハーンくんは、ドアを開けて中を覗き込んでいました。

誘拐されてシリアに連れてこられた親子

母親のワファさんは表情を変えることなく、離れた場所で静かに見守っています。今このように家族が一緒に時間を過ごすことができる裏には、ワファさんの勇気と行動力がありました。

新しい車のおもちゃで遊ぶファルハーンくん。

© UNICEF/Iraq/2015/Niles

新しい車のおもちゃで遊ぶファルハーンくん。

イラクの少数民族であるヤズディ教徒のワファさんとファルハーンくんは8カ月前、イラク西部のシンジャルで誘拐されました。3カ月間近くイラクの国内で移動を続けた後、シリアへと連れていかれ、5カ月間拘束されていました。

「私や息子は人間として扱われていませんでした。毎日殴られたり蹴られたりしました」と、ワファさんが語ります。

ファルハーンくんはコーランの暗記を強要され、文章を正しく覚えられないときは激しく殴られていたといいます。

そしてある日、ワファさんはファルハーンくんを売りとばすと脅されたのです。息子から引き離されたくないという思いから、ウァルファさんは大きな賭けに出たのです。

「選択肢はありませんでした。毎日毎日殺される思いをして生活を送るぐらいなら、いっそのこと行動に移して死んだ方がいいと思ったのです」(ワファさん)

父親との再会

ワファさんは、ふたりを捉えた男性の妻が、買い物や友達の家を訪れるためによく家を出ることに気が付きました。しかし、妻は外出を禁止されていたのです。そこでワファさんは、ふたりの脱出に力を貸さないなら、毎日外出していることを夫に告げると、妻を脅しました。

この作戦が上手くいき、妻はシリアの家族の元にふたりを逃がしました。そして5日間この家で身を隠した後、シンジャルにいたファルハーンくんの父親のヤクプさんと連絡をとりました。ヤクプさんは何週間もの間移動を繰り返し、家族との再会を果たしました。

「現実とは思えませんでした」と、ヤクプさんが語ります。

地元の人たちがワファさんとファルハーンくんをシリアとトルコの国境に逃れる手助けをしてくれました。そしてヤクプさんと叔父さんは国境を渡り、妻とたった一人の子どもをイラクに連れ戻したのです。

「ふたりを見つけたときは、頭が真っ白になり、固まってしまいました。目の前の光景が信じられませんでした。また家族と再会できるなんて思いもしませんでした」と、ヤクプさんが語ります。

避難を強いられる子ども150万人

イラクでは少なくとも150万人の子どもたちが紛争で避難を強いられています。そして特に少数民族の人々に対する甚大な暴力は、とどまるところを知りません。その一方、子どもたちのニーズに対応する支援のために必要な資金は底をつきつつあります。

ファルハーンくんのように紛争で非人道的な扱いを受けている7万5,000人の子どもたちを支援するため、ユニセフは国際的な資金要請の一部として、子どもの保護の活動に必要な2,000万ドルの支援を国際社会に要請しています。

心に負った傷

ファルハーンくん一家は無事家族との再会を果たしましたが、心に負った傷は未だ癒えることがありません。

ファルハーンくんは目に見える身体的な傷は負っていないものの、夜中に叫びながら目を覚ましたり、自然に鼻血が出ることがあるといいます。そしてファルハーンくんは飛行機が空を飛んでいるのを見つけると、攻撃されることを恐れて窓を閉め、電気を消すのです。

「ファルハーンは、今も恐怖に襲われています。しかし時間の経過や「子どもにやさしい空間*」で受けている支援で、ファルハーンは再び普通の子どもに戻っていくことでしょう」

* * *

*「子どもにやさしい空間」とは

緊急時、子どもたちは恐怖や喪失の体験、危険な状態からの避難、避難先での不自由な生活など、多くの困難に直面します。「子どもにやさしい空間」とは、子どもたちが安全に安心して過ごすことのできる学びや遊びの場です。子どもが子どもらしくいられることは、心身の健全な成長にとって重要であり、学校や遊びの場などの「日常」を提供することは、食糧や飲料水、医薬品の支援と同様に大切です。ユニセフは緊急事態下で避難民施設などにいち早く「子どもにやさしい空間」を設置しています。

子どもにやさしい空間 日本語版ガイドブックはこちら

 

*文中の名前は仮名です

【関連ページ】

シェアする


トップページへ先頭に戻る