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日本ユニセフ協会
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ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」
映画『コルチャック先生』
上映会・トークイベントを開催しました

【2019年12月20日  東京発】

日本ユニセフ協会は10月26日(土)、映画『コルチャック先生』の上映会とトークイベントを東京都港区のユニセフハウスで開催しました。

©日本ユニセフ協会/2019

上映後のトークイベントの様子

子どもの権利条約が国連で採択されてから30年を迎える今年、日本ユニセフ協会は「子ども」を主題にした映画13作品を5月から12月にかけて連続上映する、ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」と題したイベントを開催しました。第9回目となる10月26日は、「そもそも子どもとは」という視点から、第二次世界大戦中、子どもたちを守ることにその生命をささげたユダヤ人医師であり、「子どもの権利条約の父」とも呼ばれるヤヌシュ・コルチャックの半生を描いたヒューマン・ドラマ『コルチャック先生』を上映しました。

上映後には、NPO法人ホロコースト教育資料センター代表の石岡史子さんに、ポーランドにおけるコルチャック先生の記憶と子どもの権利条約についてお話しいただきました。以下は、お話しいただいた内容の要約です。

 

ワルシャワに息づく、コルチャック先生の記憶

ホロコーストにより、600万人あまりが亡くなりました。そのうち約150万人が15歳以下と言われています。生まれによって差別を受けて、生きる価値がないとみなされ虐殺の対象になった子どもたち。コルチャック先生は、この子どもたちを最後まで守ろうとしました。

現在のポーランド(ワルシャワ)でも、街を歩くと至るところにコルチャック先生の記憶が息づいています。

石岡史子さん発表資料より

一般に公開されているホームの1階

(当時のダイニングルーム)

コルチャック先生が院長を務めていた孤児院は、今もワルシャワ市内に残っており、現在は学校として使われています。何らかの事情で家族とともに生活することがかなわない子どもたちがここで暮らしているため、子どもたちの「ホーム」と呼ばれています。今も子どもたちが生活し、学ぶ場所です。ホームの1階は、一般に公開されています(当時のダイニングルーム)。当時の子どもたちの写真やコルチャック先生の言葉が部屋に飾られ、展示記念館になっています。世界中から教育関係者が訪れ、見学をする場所です。

ほかにも、歴史を記録しているものがあります。当時、教育者たちが中心となって、後世に伝えるために日々の記録を書き残すための活動に参加し、3万ページにもわたる記録をミルク缶に入れて、ワルシャワの地中に埋めたと言われています。その後、生きのびた2人が、瓦礫になった街でそれを発掘することに成功し、今も市内の歴史研究所で実物を見ることができます。コルチャック先生の子どもが書いた手紙もこの中に入っていました。

石岡史子さん発表資料より

コルチャック先生と子どもたちの銅像

ゲットー(強制居住区域)がつくられると、孤児院もその中に移動させられました。孤児院が最後にあった場所には、コルチャック先生と子どもたちの銅像、そして記念碑があります。記念碑には、コルチャック先生についてこのように刻まれています。

「医師であり、作家であり、子どもをいかに愛し、理解し、尊重すべきかを教えた教育者」

 

コルチャック先生と子どもの権利条約

コルチャック先生の教えについて研究し、広く世界中の教育者たちと分かち合おうと様々な教育事業を実施している方々が、ホームにいらっしゃいます。コルチャック先生の死後47年経ち、その思いが子どもの権利条約で実現したということを、広める活動をしています。

石岡史子さん発表資料より

左から、コルチャック研究所所長、

ホームの校長先生、コルチャック協会会長

子どもの権利条約は、世界の国々が共有する目標です。生きる、育つ、守られる、参加する権利というものを、第二次世界大戦時の迫害が増していた時、コルチャック先生は最後の瞬間まで子どもに寄り添ってそれを実践していました。私自身がコルチャック先生の言葉で一番衝撃を受けたのは、「子どもは未来ではなく、今を生きている人間なんだ」というものです。それ以来、私自身も子どもと接する時に大事にしたいと思っています。ではコルチャック先生はどのようにして、子どもの中に人間を見ることができたのでしょう。コルチャック先生は小児科医の医師として、子どもを観察し、子どもを知る機会がずっとありました。病院で助手として働いていた時も、子どもたちとサマーキャンプに参加したり、子どもと遊ぶ機会が多くありました。こうしたコルチャック先生自身の実践のなかから、条約の根っこになるようなものが出てきたのではないでしょうか。また、子ども新聞という、子どもの意見に耳を傾けて記事にするという取り組みや、子ども裁判という、子どもの自治、子どもたち自身で自分たちを律し、いじめなどの問題を解決するという取り組みを行っていました。

 

子どもが自分たちで学ぶ:子ども裁判

実は、ホロコーストと同じ時期に、チェコのテレジン収容所でも、おとなたちが子どもたちの自治を促し、子ども裁判を実施していたようです。住んでいた場所を離れ、親からも引き離された子どもたちに、おとなたちは「私たちはここにいるから、自分たちでやってごらん」と話しました。子どもたちは狭い部屋に閉じ込められながらも、ルールを決め、選挙でリーダーを決め、ひとりひとりの役割を決め、子ども裁判を行っていたそうなんです。

©日本ユニセフ協会/2019

石岡史子さん

コルチャック先生の子どもたちがどのように子ども裁判を行っていたのか知りたくて、その収容所にいた生存者の方々に話を聞きました。「誰かがパンを盗んでしまったことがありました。すると、子どもたちは探偵団を結成して、犯人捜しを行いました。パンを盗んだ子どもが分かったら、みんなの前で裁判を行いました。判決を下す前に、弁明の機会を与えようと裁判官の担当の子どもが言いました。子どもに盗んだ理由を聞くと、隣の棟に小さな弟がいて、その子に届けていたと言いました。その子に自分の分をあげてしまったので今度は自分がお腹がすいて、盗んでしまったと。それを聞いた子どもたちは、その子に罰を与えることをやめ、パンをみんなで分け合ってその子の弟に与えることにしました」当時、子ども裁判に参加していた方はこう言っていました。「私たちはおとなたちに守られ、自治を許され、みんなで学んでいました。一番学んだのは、何でも白黒はっきり分けられるわけではないということです。それを収容所のなかにいる間も学んでいたのです」

コルチャック先生の子どもたちも、きっとそんなことを学んでいたのではないでしょうか。コルチャック先生が目指していたのは、子どもたちが自分らしく育つ権利です。子ども裁判は、誰かを罰するための場ではなく、なぜそれが起きたのかについて耳を傾け、許す場です。人間は過ちを犯すものだと、子どもたち自らが学んで、自分たちの力で内面に道徳のこころを育てていくこと、自分と他者とを尊重しようということを、あの収容所で、迫害が増していた時に学んでいたんだと思います。

 

コルチャック先生の実践を教育に

ポーランドでは毎年、子どもの権利条約やコルチャック先生の実践を広めることを目的に、教育事業コンテストが行われています。最近のエントリーでは、例えばある学校の実践例として、ヘイトスピーチや差別・偏見をなくすため、仲間外れになっている子どもや障害を持っている子どもが自ら参加できるプログラムがありました。

また、ポーランド政府が教育者に配布している資料のなかに、『子どものためのオンブズマン:子どもの権利を尊重する』という冊子があります。これは、本日会場の外でも展示されているような、コルチャック先生の子どもの権利に関する思想を取り上げたものです。コルチャック先生も信じていたように、教育を変えることで、子どもの権利を守ることができるのではないかと思います。

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同時開催の展示:子どもの権利条約30周年とコルチャック先生

当日会場では、子どもの権利条約やコルチャック先生に関する展示を行いました。

©日本ユニセフ協会/2019

子どもの権利条約30周年をテーマとする展示

©日本ユニセフ協会/2019

当時の写真(提供:日本ヤヌシュ・コルチャック協会)

©日本ユニセフ協会/2019

コルチャック先生に関する資料(企画:塚本智宏先生)

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ご参加いただいた皆さまからも、多くのお声を頂戴しました。

・「ずっと観たかった映画で実際とてもいい映画でした。映画の背景解説のお陰でより深く理解できました。どうしても、ナチス、ホロコーストの問題は一括りで“かわいそうな話”とみられがちですが、こういうより小さい単位でのエピソード(孤児院内の人と人との話)を知ることで、より身近な問題として捉えられるようになるなと思いました」

・「ホロコースト、しっかり見つめ、学び伝えていかなければいけないと改めて思いました。コルチャック先生と子どもの権利条約、深い繋がりがあるんだと、感銘を受けました。「待つこと」大事なんですね。「子どもは未来に生きるのではなく、現在を生きている」重い言葉です」

・「映画は、子どもの権利条約について関心があり興味がありました。先日ポーランドにも行き、話を聞く機会もありどのような状況か知りたいと思いました。映画を観て更に子どもへの深い愛を知りました。子どもが子どもらしく生きられる世の中にしていかなければいけないのだと思います。大人としての役割、自分には何ができるのだろうと考えさせられます」

・「子どもの権利について、改めて考えさせられました。自分自身が、子どもの頃に一人の人間としての権利や意見を尊重されずに育てられた環境でしたので、無意識のうちに子どもに対して、自分も同じように接していました。それは、子どもの権利を無視しているのではなく、そもそも「子どもの権利」が尊重されるものであることを知らなかった、教わらなかった、考えることを止めようとしていたのかもしれません。本当に恥ずかしい限りですが、生きているうちに自分の中の「子ども」に対するゆがんだ認識を変えるきっかけになりました。行動に移していけたらと思います」

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◇ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」とは…

子どもの権利条約が採択されてから30年を迎えるにあたり、「子ども」を主題とした作品を5月~12月にかけて毎月連続で上映する日本ユニセフ協会主催の映画上映会です。「子どもたちの世界」を基調テーマに、「そもそも子どもとは?」「それでも生きていく子どもたち」「子どもを取り巻く世界」「女の子・女性の権利」という4つの視点から選んだドキュメンタリーとフィクション計13作品を上映しました。

※過去の上映報告についてはこちら

 

◇ 映画『コルチャック先生』

監督:アンジェイ・ワイダ

発売元: マーメイドフィルム

1990年 / 118 分 / ポーランド・西ドイツ・フランス合作


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