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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

ホンジュラス
おとなを伴わず、米国を目指す子どもたち
17歳少年の絶望と希望の旅

【2015年12月  オモア(ホンジュラス)発】

世界中のさまざまな場所で、より安全に、よりよい生活を送ることができる場所を求めて、多くの子どもたちが故郷を去る決断をしています。紙面の一面を飾るような新しい話題としては取り扱われなくなってしまったものの、おとなを伴わず、子どもだけで中米から米国に入国する移民の子どもたちの危機は終わりを見せません。ユニセフは各国政府と協力し、この移民危機の根本的な問題を緩和させ、危険な旅に向かう決断をした子どもたちの権利を守り、保護するための支援を続けています。

ホンジュラス出身の17歳の少年の悲劇的な物語には、“北”への危険な旅を試みる若者の絶望と希望が垣間見えます。

* * *

“北”へ向かう若者たち

米国に向かう途中に右足を失った17歳のブライアンくん(仮名)。

© UNICEF LACRO/2014/González

米国に向かう途中に右足を失った17歳のブライアンくん(仮名)。

「ある日、メキシコから米国に向かう電車に乗り込みました。でも、電車から落ちて、足を失ってしまいました。車両の連結部分に乗っていました。多分、眠ってしまったのだと思います。目が覚めたときには、線路に落ちていました」

これは、ホンジュラス出身のブライアンくん(17歳)の物語です。ブライアンくんは昨年、15歳の従兄弟と二人きりで、重大な決断を実行に移したのです。それは、“北”へと向かう旅でした。ブライアンくんは米国に知り合いがいるわけでも、辿り着いてからの具体的な計画があったわけでもありません。でも、「行かない」という選択を下すあらゆる理由より、今の絶望が勝っていたのです。

「僕が望んでいたのは、ただ、そこに辿り着くことだった。そこに行って…分からないけれど…そこに行って、何か変わるかもしれないと思ったんだ」と、ブライアンくんが言いました。

「勉強を続けたかったけれど、お金がなかったので続けることはできませんでした」と、実際の年齢よりもいくぶんか幼く見えるブライアンくんが語ります。

「悲しいです。だって、すべてのことが、無駄だったのですから」

 “死の電車”

ホンジュラス北部の町、オモアの地方自治体にある小さな山間のコミュニティで、ブライアンくんが自宅の前に座りながら、当時のことを思い出します。ブライアンくんの周りには、9人の兄弟姉妹が走り回って遊んでいます。

ブライアンくんはホンジュラスを旅立ち、輸送コンテナに乗ってグアテマラを通り抜け、メキシコのタパチュラに辿り着きました。電車での長旅に備え、何日か移民のためのシェルターで寝泊まりしたといいます。ブライアンくんが乗ろうとしていたのは、別名“獣の電車”や“死の電車”として知られている、米国との国境へ向かう貨物電車でした。

旅の途中、ブライアンくんは同じく米国へと向かう人々に出会ったと話します。「ほとんどの子どもが、僕たちのようにおとなを伴わず、ひとりで旅を続けていました」

水や食べ物が手に入る日もあれば、全く何も口にできない日もありました。

このような旅を続ける子どもたちや若者の多くが、強盗や誘拐、レイプや殺害の被害に遭っています。ブライアンくんも、恐怖を感じたことがあるといいます。

「怖かったけれど、戻るわけにもいかないし、どうすることもできなかった。襲われたことがあると言う人にも何人か会ったけれど、幸い僕たちには何も起こらなかったよ」と、ブライアンくんが話します。

ブライアンくんは、旅の最も悲劇的な瞬間の記憶はほとんどありません。サラマンカの町の近くで眠ってしまい、電車から線路に落ちたのだと信じています。そして、右足を失ったのです。「義足で足が腫れ、今も痛みます」と語るブライアンくん。絶望から逃れようとした、彼の“アメリカン・ドリーム”は、突然終わりを迎えました。

ブライアンくんは病院で30日以上入院し、その後メキシコにある何カ所かのシェルターで過ごしました。そして6カ月後、つらい、複雑な気持ちを抱えながら、ホンジュラスの自宅へと強制送還されました。これがブライアンくんにとって、生まれて初めての飛行機の旅となりました。

誰もいない空港でブライアンくんを出迎えたのは、母親と叔母さん、おばあさんでした。

暴力と貧困

ホンジュラスの移民のための受け入れセンターの部屋。

© UNICEF LACRO/2014/González

ホンジュラスの移民のための受け入れセンターの部屋。

ブライアンくんのように、昨年おとなを伴わずに米国へ渡った子どもや若者のほとんどが、“北部トライアングル”と呼ばれるホンジュラスとエルサルバドル、グアテマラの3カ国出身です。

国外からの脱出を試みる最大の理由は、暴力です。国際連合薬物犯罪事務所によると、世界で最も殺人率の高い上位5カ国のうち3カ国を、この地域で占めています。その多くは、ギャングや組織犯罪の蔓延によるものです。

また、ブライアンくんのように深刻な貧困や不平等も一因となっています。自国での生活が可能な職に就くことができず、家族を支えるため、やむを得ず移民となることを選択しているのです。

ユニセフはこれらの問題を緩和させるべく、中米やメキシコの政府と協力して支援を行っています。ユニセフはさまざまな支援プログラムを通して、子どもたちの暴力や犯罪、そのほかの脅威に対する脆弱性を減少させる支援サービスを強化すると共に、最も影響を受け、支援を必要としているコミュニティに重点を置き、教育や保健プログラムを支援しています。

ユニセフ・ラテンアメリカとカリブ海諸国地域事務所のバーント・アーセンは、「社会サービスや教育、開発、雇用機会に重点を置いたより多くの社会的投資を、移民の原因となっている問題の緩和への対策の中心に据えています。それに加え、移民の出身地や経由地で、犯罪ネットワークが利益を得ている刑事免責への確固たる法的行動が、暴力や情勢不安を終わらせるために必要不可欠です」と語ります。

何十万人もの人々が中米からメキシコへ向かっています。そして昨年、米国への入国を試みる子どもたちや若者の人数の急激な増加が懸念されました。米国政府によると、2014年度、おとなを伴わない18歳未満の子ども6万8,000人が米国南西部の国境で逮捕されました。2015年度にはその数が41%減少したものの、依然として3万5,000人以上の子どもたちが危機下におり、この危機がまだ続いていることを表しています。

ユニセフはパートナー団体と共に尊厳が守られた受け入れセンターで移動保護サービスを提供し、帰還した子どもたちを受け入れのため、各国政府を支援しています。また、子どもたちの家族の捜索と登録、医療ケアや心理社会的支援の実施、一時的に身を寄せることのできる場所を提供しています。

これらの支援に加え、ホンジュラスやエルサルバドルなどの国では、正規ルートではない移民のリスクや危険に関しての報告を行うため、大規模な情報共有キャンペーンを実施しています。ユニセフは本国への送還プロセスに関係する領事や当局と協力し、子どもたちが適切なケアを受け、逮捕時から子どもの権利が守られた環境で過ごすことができるように支援しています。

学校にも行けないし、働くこともできない

ブライアンくんが描いた絵には、「星たちが、きっといつか、あなたを輝かせてくれる」という文字が添えられていた。

© UNICEF LACRO/2014/González

ブライアンくんが描いた絵には、「星たちが、きっといつか、あなたを輝かせてくれる」という文字が添えられていた。

もし機会が巡ってきたら、もう一度米国に向かうかと尋ねられたブライアンくん。ブライアンくんは「多分」と答えました。「ここにいたら、何もできないから。勉強をすることもできないし、働くこともできない。じゃあ、一体僕は何をしたらいいの?」

しかし、ブライアンくんは、故郷の国に未来も希望もないと思いたくないといいます。ブライアンくんも、権利や尊厳のある環境が整いさえすれば、ここで幸せに暮らすことができるのです。「ホンジュラスには、すべてがあるのです。自然が豊かで、水も沢山あります。でも、それに何の意味があるっていうんだろう?ここには何も…」そう語るブライアンくんの声は徐々に小さくなり、黙り込んでしまいました。

ブライアンくんは現在学校には通っておらず、物語を書いたり絵を描いたりして毎日を過ごしています。現在の生活からは、会計士か経営者になりたいというブライアンくんの夢は遥か遠いもののように感じます。

しかし、ブライアンくんのノートに描かれた絵に添えられたメッセージが、心の中に今もしっかりと輝き続ける希望を物語っているのです。「星たちが、きっといつか、あなたを輝かせてくれる」と。

*名前は仮名です

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