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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

モーリタニア
若者たちの心が躍った瞬間
表現力ワークショップ マリ難民とホストコミュニティの若者たちがともに学ぶ
岡本啓史・教育担当官からの報告

【2019年7月30日  モーリタニア発】

日本から約1万3,000km離れた、西アフリカのモーリタニア。2018年5月より、ユニセフ・モーリタニア事務所にJPOで派遣され、難民支援などに携わっている岡本啓史・教育担当官より、新たな活動レポートが届きましたので、ご紹介します。

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©UNICEF/Mauritania

ユニセフ・モーリタニア事務所の岡本啓史・教育担当官(左)。岡本さんの絵を描いてくれたという青年と。

表現する力

皆さんは、アフリカ人の表現力と聞くと、どのようなイメージを抱きますか?

私にとって、アフリカは、自分が日本にいた頃からしてきたダンスや音楽の多くの起源であり、アフリカ人は皆幼い頃から歌や踊りをしていて表現力に満ち溢れているというイメージを勝手に抱いていました。

実際にアフリカに来てみると、大陸や地域はもちろん、国一つとってみても、多くの民族や文化、言語に溢れており、なかなか一概には「これがアフリカ」と言い切れないことに気づきました。中でもモーリタニアは、首都のヌアクショットですら音楽を聴くライブハウスや踊りを楽しむダンスクラブ、美術館や映画館が無い(厳格なイスラム国家ということも影響しているのか、アルコールも完全禁止)という環境で、若者が芸術などを通した自己表現をしたくても、保護者やコミュニティが厳しく制限するといった一面があります。

そのような背景を踏まえて、今回は、「モーリタニアにおける、若者の表現力」についてご報告したいと思います。

前回の記事「モーリタニア ユニセフが支援するマリ難民キャンプで心に響いた子どもたちの声」では、モーリタニアという国の紹介や課題、難民キャンプの子どもの声を、教育の視点から紹介しました。今回はその続編として、若者開発という少し違った視点から、そして難民キャンプだけでなく、難民の人々を受け入れているホストコミュニティにおいて、若者の表現力を伸ばすための活動を紹介したいと思います。

ホストコミュニティと聞いても、イメージがしにくいかもしれません。モーリタニア国内で最も経済的に貧しい地域で暮らすホストコミュニティの人々は、国際機関からの支援を受けやすい難民とくらべて、様々な理由から支援の対象になることがありませんでした。けれども、今年で8年目を迎えるモーリタニアにおけるマリ難民支援において、ユニセフを含めたいくつかの団体が、徐々にではあるものの、ホストコミュニティに支援をするようになりました。

その中には、日本政府が支援している事業もあり、ホストコミュニティにも支援が行き届くことで、緊急支援だけに留まらず、平和構築やモーリタニアの開発支援に繋げることで、人道支援と開発支援のNEXUS(連携)に貢献しています。

マリ難民MBerraキャンプ(右下)とホストコミュニティ(首都ヌアクショットから約1,400km)

©UNICEF/Mauritania

マリ難民MBerraキャンプ(右下)とホストコミュニティ(首都ヌアクショットから約1,400km)

今回ご紹介するのは、元々ユニセフ・モーリタニアのパートナーNGO(作家団体)が計画していた、難民キャンプでの作文ワークショップを、読み書きができない若者がいることを考慮し、作文だけでなく、詩、絵、演劇、ダンス、討論等、複数の種類の表現力を参加者の若者(10歳~24歳)が学べるという内容に変更して、実施した活動です。また、活動地に関しても、ホストコミュニティ2か所と難民キャンプ1か所と、重点をホストコミュニティにおいて実施することにしました。それまで支援団体が単発で表現力を伸ばすためのワークショップを実施することはありましたが、同じ子どもが複数の方法の表現力を学ぶことができるワークショップを実施することはもちろん、ホストコミュニティを優先するというのは今回が初めてでした。

ワークショップの実施は、マリ難民もモーリタニア人も同じアフリカの子どもということで、6月16日の「アフリカ子どもの日」に絡めることに決定しました。目的は、若者たちが様々な表現力の方法に触れることで、自己表現には色々な形のものがあることを学び、新たな自己発見や、保護者やコミュニティへの啓発活動につなげることです。さらには、今回のワークショップを、今後も継続的に実施できるよう、他の国際機関や政府関係者を巻き込むといったというものでした。 

事前調査

聞き取り調査の様子

©UNICEF/Mauritania

聞き取り調査の様子

ワークショップの内容に若者の意見を反映させるため、実施1か月前の5月、事前調査として実施予定地3か所の計30人の若者に聞き取り調査をしました。調査によると、一つではなく複数の活動をしたいと希望する意見が100%で、その他にも若者の希望が多かった活動をワークショップで実施できないか、パートナー団体と打ち合わせをして準備をしました(断食月のラマダーン中だったので、45℃の炎天下で水を飲むのに気を遣ったり、打ち合わせを予定していた人が急遽現れないなど、なかなか調査や準備が困難でした)。

 

事前調査の結果

©UNICEF/Mauritania

事前調査の結果

打ち合わせの結果、ラップに関しては若者の言語(マリやモーリタニアの現地語)のラップを教えられる講師がいないため断念、またダンスに関しては、意外な展開でダンス講師の経験がある私が直接実施するようパートナー団体からの要請があり、元々現地に行って国際機関や政府関係との調整役をすることになっていたので、ダンス講師もまとめて引き受けることになりました。事前調査では、マリやモーリタニアの若者が好む音楽を調べ、現地の色が出ている有名な曲を見つけることができ、ダンスに使うことにしました(Kader Tarhanine ft. Sidiki Diabaté Tarhanine )。パートナー団体が実施する活動にユニセフスタッフが直接参加するというのはあまりないため、少し異例のワークショップとなりましたが、この機を生かしてパートナー団体のキャパシティビルディングや政府関係者を普段以上に巻き込むといった点に焦点を置くようにしました。

表現力ワークショップの調整、実施、結果

ダンスや演劇の活動というと、軽いイメージのように聞こえるかもしれませんが、難民キャンプやホストコミュニティで活動をするのは、一筋縄ではいきません。首都ヌアクショットから約1,400km離れた場所でワークショップを実施するための調整はもちろん、同地域は外務省海外安全ホームページにより最も危険なレベル4(退避勧告)に指定されており、国連保安局(UNDSS)等の安全規則に従った安全対策を取り、現地までは緊急支援用の小さな国連機UNHAS(12人ほど収容可能)で移動、そして現地ではすべて憲兵隊の警護車両の引率で移動というのが規則で決まっています。また、パートナー団体の一人が来れなくなった、発注していた物資が届かなかったなど、トラブルがありましたが、何とかワークショップを実施することができました。

3日間のワークショップには、合計83人の若者(うち女の子47人)が参加しました。参加前と参加後の表現力を1~5段階(5が最高)で自己評価してもらったところ、参加前の平均は3.6に比べ、参加後の平均は4.,8に上昇、満足度は同じく5段階で4.8、そして次回も参加したいとの回答は99%で、課題は色々ありましたが、ワークショップ自体は成功に終わったと言えます。

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それぞれの表現とストーリー

冒頭で、今回の記事は、前回の続編だと述べましたが、前回の記事で紹介したヒップホッパーの若者たちの一人(出会ったのは半年以上前)が、なんと難民キャンプで実施したワークショップに参加していました。絵と演劇、ダンスはそれぞれ好みにより選択できるようにしていましたが、案の定、ヒップホッパーの彼はダンスを選び、色々な心境を語ってくれました。

以下、いくつか写真とともに、それぞれの表現とストーリーを紹介したいと思います。

 

ホストコミュニティ①

自分の夢をテーマに、作文を書く女の子

©UNICEF/Mauritania

自分の夢をテーマに、作文を書く女の子

それぞれ書いた作文を発表しました

©UNICEF/Mauritania

それぞれ書いた作文を発表しました

 

インクルーシブなダンス

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©UNICEF/Mauritania

片足がないモハメドくん(仮名)は、ダンスが好きだけれど、障がい者に対する差別を恐れ、いつも家の中だけで踊っていました。
ワークショップでは、絵を選択していたものの、聞こえてきた音楽に我慢できなくなり、絵の部屋を抜け出し急遽ダンスに参加。講師をしていた私は驚きましたが、片足でも踊れる振り付けやソロの見せ場も作ったところ、他の参加者も彼の躍動感のあるダンスに感動し、皆から認められることで、彼も満面の笑みを浮かべていました。

「人生で初めて人前で踊って、とても解放感があった。ありがとう。」と後で伝えてくれたときは、心に響きました。

ホストコミュニティ②

絵で女性の自由を表現

ファティマさん(仮名)は、自分の夢と題し、全体を隠さずに好きな服装をして女友達と一緒に町を歩く絵を描いて皆に見せてくれました。「私たち若者、特に女性は色々な表現をしたいと思っているが、保護者やコミュニティ、伝統などがそれを制限している。今回この絵を描くこと、そして発表することは怖かったが、この機会があってよかったと思う。」と語り、周囲の女友達もうんうんと頷いていました。

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©UNICEF/Mauritania

 

読み書きはできなくても俺にはダンスがある

作文のセッションではなかなか実力を発揮できなかったシディくん(仮名)。学校にいけなかったためか、読み書きは苦手だけど、音楽とダンスは好きとのこと。「人前でなかなか踊ることがなかったから恥ずかしかったけど、楽しかった。今後も続けたい。」拍手喝采の踊りを見せつけてくれました。

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©UNICEF/Mauritania

 

生まれて初めて踊った

最初は恥ずかしくてなかなか前に出られなかったけれど、上記のシディくんが楽しそうに踊っているのを見て、勇気を出して前に出てみたというザラさん(仮名)。

「人生で初めて踊った」と恥ずかしそうに語ってくれました。彼女のアンケートには、「これからもダンスを続けたい」と書いていました。

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©UNICEF/Mauritania

 

難民キャンプ

難民になる経緯や将来を表現

難民としての自分の境遇や今後の将来について作文や討論で表現した難民の若者たち。マリから家族と一緒に逃げてきて、最も国境に近い上記のホストコミュニティ②で暮らした日々や、難民キャンプで生活するようになってからの思いを共有してくれました。難民キャンプの若者は、国際支援を受けて色々な活動をしてきたこともあり、ホストコミュニティの若者よりも表現することに慣れていた様子でした。

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ダンスで日々のストレスを発散して自己表現

上述の討論と同様、ダンスのセッションでも活発に表現をした難民の若者たち。特にホストコミュニティに比べると、女性が人前で踊ることにあまり抵抗がない印象があり、モーリタニアとマリの文化の違いについても気づきました。

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©UNICEF/Mauritania

 

 

ヒップホッパーの魅せ所

前回会ったヒップホッパーの一人のサリフくん(仮名)。当時は、「ダンスが好きだけれど、学びや表現の機会がもっと欲しい」と言っていた彼。「はじめて誰かにダンスを教えてもらうことができた。ソロで踊ることしか知らなかったけれど、グループで一緒に楽しく踊るということを初めて体験した。教えてもらったことを練習して、他の友達にも教えてチームを作りたい。」と嬉しそうに語ってくれました。

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©UNICEF/Mauritania

 

以上、いくつかのストーリーを紹介してきましたが、参加した若者の他にも、実施にあたって政府役人や他の国際機関のスタッフが同ワークショップの様子を見守っていました(中には終日参加する人までいました)。

事後ブリーフィングでは、同ワークショップは若者が必要としている活動であり、若者の表現力やスキル構築だけでなく、難民キャンプとホストコミュニティ間の平和構築にも長期的に繋がるのではないかという声があがり、今後の継続・拡大に向けての議論が、他機関や政府関係者間で始まりました。さらに、今回のワークショップの成果が、パートナー団体を通じて広がり、他の地域でも拡大するべきだという声が、少なくとも首都ヌアクショットを含めた他の5地域から挙がったようです。

ユニセフは、子どもたちに加え、若者にも質の高い教育と雇用、スキル構築やエンパワーメントをもたらす新しい取り組み「Generation Unlimited(無限の可能性を秘めた世代)」を推進しています。今回のような活動は、若者のスキル(特に表現力やクリエイティビティなどを含めた21世紀スキルと呼ばれるもの)やエンパワーメントに繋がると信じています。SDGs達成に不可欠な若者開発は、国際支援から取り残されやすいというのが現状です。引き続き、皆様のあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。

難民キャンプM’berraの若者と

©UNICEF/Mauritania

難民キャンプM’berraの若者と

 


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