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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

インドネシア
深刻化する子どもと若者のメンタルヘルス
若者主導の課題解決活動を支援

【2020年11月10日  インドネシア発】

「オンライン授業で学び続けることに不安を感じています。」と、北スマトラのメダンに住む18歳の男の子は語ります。「授業を理解するための先生たちからの支援が十分ではなく、このままでは大学に入学できるかどうかとても心配です。」

「パンデミックで職を失いました。今は仕事に就くのがとても難しいです。」と語るのは、中部ジャワの22歳の女の子。「自分は役立たずで、家族に負担をかけているだけに感じて、ますます自信を失っています。」

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に歯止めがかからないインドネシアでは、ほとんどの地域での学校再開が未だに保留にされており、深刻な経済的困難も続いています。多くの学校では、インターネットを活用した遠隔授業が続けられていますが、通信環境により生まれる情報格差や、遠隔授業を実施する上での教師、生徒双方の準備不足など様々な理由により、多くの子どもや若者が学習の継続に不安や困難を感じています。

学習継続への不安とメンタルヘルス

©UNICEF/2020/Vania Santoso

2020年8月から9月にかけてインドネシア全国の13歳から24歳の子どもや若者535人(うち女性が64%)を主な対象としたU-Report[1]の調査によると、3分の1以上がオンライン授業に追いつけないことに不安を感じています。一方で、3分の1以上が、新型コロナウイルス感染症への感染の恐れから、学校再開を危惧していると回答しました。9月に1000人以上の回答者(71%が女性)を対象にした別のU-Report調査では、子どもや若者の半数以上が自身のメンタルヘルスについて他の人に話すことを避けており、約4分の1がメンタルヘルスに対するスティグマ(社会における偏見)のために治療を受けることに不安を感じると回答しました。

メンタルヘルスと心理社会的ケアは、緊急事態や人道危機の状況下においてユニセフが優先的に対応する分野のひとつであり、現在のパンデミック状況下でも重要課題とされています。特に、子どもや若者が支援の受益者であるだけでなく、チェンジ・エージェント(社会の変革者)として、課題解決に共に取り組むための支援をすることも、ユニセフの重要な活動と位置付けています。

メンタルヘルス主流化に向けた取り組み

このような背景から、パンデミックにおける子どもや若者のメンタルヘルスと心理社会的ケアの強化と主流化を目的に、ユニセフは4月以降、COVID19Diariesキャンペーン[2]や関連マテリアル作成ワークショップ等さまざまな取り組みを行ってきました。その中で、8月からは、全国組織の学生団体であるインドネシア医学生協会とのパートナーシップにより、RuangPEKA(ケアの部屋)と呼ばれる隔週のオンラインセッションをYouTubeで提供。最終回は10月10日に世界メンタルヘルスデーの記念イベントとして実施されました。

全5回の本プログラムには、全国から11人の子ども・若者代表(うち女性6人、障害者1人、統合失調症1人)、およびメンタルヘルスと心理社会的ケアの専門6団体、保健省および女性活躍推進と子どもの保護省、そして子どもや若者に人気のインフルエンサー3人が参加。各セッションは、全国の子どもや若者3000人からU-Reportを通じて事前に寄せられた、メンタルヘルスに関する声や質問の紹介と専門家による回答(Q&A)で主に構成され、パンデミックが子どもや若者の生活やメンタルヘルスに与える影響、オンライン授業継続への不安、メンタルヘルスに関するスティグマ、学校におけるメンタルヘルスと心理社会的ケアの不十分さ、メンタルヘルスを維持するための理想的な環境など、さまざまなトピックが扱われました。

©UNICEF/2020/Yukari Tsunokake

RuangPEKA(ケアの部屋)オンラインセッションの様子

 

「より多くの子どもや若者が、他人から差別されることを心配することなく、安心して支援を求められるような社会になることが大切だと思います。」と語るのは、4回目のセッションに子ども代表として参加したジャカルタ近郊の街デポックに暮らす17歳のオードリーです。

©UNICEF/2020/Yukari Tsunokake

子ども代表として参加したオードリーさん(17歳)

オードリーは、ユニセフが支援する別の教育プログラムを通じて、自ら抱いていたメンタルヘルスの問題意識に基づいた解決策として、子どもや若者向けの携帯アプリケーションの開発も行いました。「このセッションが、メンタルヘルスのスティグマを減らし、特に大変な状況である今、皆がメンタルヘルスの問題を日常の当たり前のことだと考えられるようになったらいいなと思います。」

本プログラムは、全国の子どもや若者に6,000回以上視聴されたほか、各セッションで紹介しきれなかったQ&Aなどの一部をFacebookやInstagramなどのソーシャルメディア(SNS)を通じて発信することで、さらに5000人以上に対し、支援が必要な際のホットラインの情報提供をすることができました。また、プログラムの特設サイトでは、全5回分のセッションを常時視聴することができます。

周囲と繋がり支え合う大切さ

© UNICEF/UNI306613/Ijazah

パプアの子どもたちを代表してセッションに参加した15歳のディタさんと母親。ユニセフが支援する、青少年向けのメンタルヘルスの教育マテリアル作成にも携わった。

「U-Reportで集めた声を読んでいると、圧倒されることがよくありました。」と語るのは、このプログラムの企画・運営に携わった、中部ジャワ・ジョグジャカルタに暮らすインドネシア医学生協会のヤスミンです。「パンデミックの今、本当に多くの人が大変な時期を過ごしています。この活動を通じて、そんな人々に必要な支援を届けることができて、とても嬉しいです。」

同じく本プログラムを推進した同団体の医学生ヘレンは、「このイニシアチブは、子どもや若者の皆に、パンデミックの状況下で“不安になるのは当たり前”ということ、そして大切なのは周りの人とのつながりを保つことだというメッセージを発信してきました。困難な時こそ、皆が周りの人とエネルギーを送り合い、支え合うことが大切だと思います。」と語ります。

パンデミックはさまざまな形で子どもや若者の生活に影響を及ぼしていますが、身体的健康だけでなく精神的健康にも十分な注意を払う必要があります。ユニセフは、子どもや若者、またその家族や地域社会のために、引き続き、メンタルヘルスと心理社会的ケアの提供を続けていきます。

©UNICEF/2020/Yukari Tsunokake

インドネシア医学生協会のヤスミンさんとヘレンさん

 

※備考

[1] U-Report とは、SNS(Facebook、WhatsApp、LINE 等)や SMS を媒体にしたオンラインツールで、現在世界 88 カ国以上で活用されており、13歳から24歳をターゲットとした登録者数は 1,200 万人以上。インドネシアでは 2015年末に立ち上げられ、2020 年 10 月末現在で 20 万人以上の登録者がいます(うち 88%が 24 歳以下)。登録者はU-Reporterと呼ばれ、U-Reportを介した調査に参加したり、問題を通報したりすることができ、それらの情報は、社会的および政治的変化を起こすための声として活用されます。また、U-Reporterたちは、それらの調査結果のほか、ユニセフやパートナー、U-Reporterの仲間からの情報やアドバイスなども受け取っています。

[2] 子どもや若者が、変化した日常の中での過ごし方、考えや想いを専用のハッシュタグ(#UReportCOVID19, #COVID19Diaries)をつけて SNS で投稿し、ユニセフが優れた作品を週次でSNS上で紹介することで、全国の子どもや若者にポジティブなアクションの連鎖を促すエンパワメントキャンペーン。4 月末にキャンペーン特設サイトを立ち上げて以来、これまでに 1000 作品以上が投稿され、ユニセフが紹介した100以上の作品は、8,000万人以上にポジティブなメッセージを届けています(10月上旬時点)。

 

(記事寄稿:ユニセフ・インドネシア事務所 青少年育成担当 角掛由加里さん)

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