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日本ユニセフ協会
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ユニセフ報告会
就学率改善の陰で 教育危機下にある子どもたち データが裏付けた投資格差
(ダボス2020 ユニセフ報告を受けて)

【2020年2月21日  東京発】

様々な領域で活躍する世界のリーダーが、環境や貧困、世界経済などの様々な国際課題をテーマに討議する世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」を前に、ユニセフ(国連児童基金)は、世界的に進む就学率改善の陰で、もっとも必要な子どもたちに十分な教育予算が充てられず、持続可能な開発目標(SDGs)の目標4が謳う「すべての子どもに質の高い教育を」が進んでいない現状と、戦略的な教育投資の重要性を訴える報告書を発表しました。

公益財団法人日本ユニセフ協会は、同報告書の概要や、シリア難民のユニセフ親善大使であるマズーン・メレハンさんのスピーチ等から、あらためて現在の教育課題やその重要性について考える報告会を2020年1月21日(火)に開催しました。

各登壇者の報告要旨は以下の通りです。

 

 

 

報告① 教育危機-最貧困層の子どもたちへの支援の必要性
日本ユニセフ協会専務理事 早水 研

日本ユニセフ協会専務理事 早水 研

©日本ユニセフ協会/2020

日本ユニセフ協会専務理事 早水 研

1月20日、ユニセフは、『教育危機:最貧困層の子どもたちのための教育資金調達の緊急の必要性』と題する報告書を発表し、就学率だけでは見えない教育ニーズを報告しました。これはSDGs(持続可能な開発目標)の目標4で掲げている、すべての人に包括的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進するための課題を提示するものです。特に男女の区別をなくし、脆弱な立場にある子どもがあらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにすること、またすべての若者が読み書き及び基本的な計算能力を身につけられるようにすることをどのように実現していくかについて報告されています。

就学率の陰の「教育危機」

1950年代には50%だった学校に通えない子どもの割合は、いま9%に減っています。しかし、低・中所得国の子どもの53%が最低限の読解力を身につけることができておらず、約6億人の子どもと若者が、基本的な読み書きや計算ができない状況です。

教育危機の背景

こうした状況の背景には、資金不足によって起こっている多すぎるクラス人数や教師の訓練不足、教材や設備の不足などの問題があります。2000-2015年の間で、資金不足への対策として教育への公的資金は増加しました。低所得国では、2000年には教育予算の平均がGDPの3.4%であったのが3.82%に増加し、低中所得国では4.2%から4.64%に増加していますが、多くの国では教育への資金配分の国際目標には程遠い状況です。

その予算が誰に振り分けられているのかを高所得国、高中所得国、低中所得国、低所得国を比較すると、もっとも貧しい20%の層への教育予算配分が一番高いのは高所得国で18.6%、一番低い低所得国では10.3%と格差が非常に大きいです。ではもっとも富裕な20%の層に充てられる教育予算は、高所得国で21.7%、低所得国で37.9%。同じ国の中でも低所得層に対する予算配分と高所得層に対する予算配分の差は非常に大きく、低所得国では4倍近い差が出ています。小学校の修了率は高所得国ではほぼ100%ですが、低所得国では予算配分が低い国ほど修了率が低く、40%のところもあります。

また、人道支援資金のうち教育分野に使われる資金はわずか2.6%とあまりに低い数字です。その結果、紛争の被害を受けている国々で、小・中学校へ行くことができない子どもは、1億2,800万人にものぼります。難民の子どもの約半分は小学校に通えず、中学校に通えるのは1/4以下です。

ユニセフの訴え

ユニセフは、 “すべての子どもに質の高い教育を”というSDGs目標4を達成したいという強い意志でプログラムを行っています。国内の予算配分で少なくとも20%の教育資金を最も貧しい20%の子どものために使うこと、初等教育に優先的に資金を使うことに加え、政府、市民社会、ビジネス界を含めたすべてのステークホールダーが、教育を最優先課題にし、データの収集や実態把握、課題を解決するために手を携えることが必要だと、ユニセフは訴えています。

 

報告② 子どもの教育と未来~シリア難民としての経験から
ユニセフ親善大使 マズーン・メレハン氏

ユニセフ親善大使 マズーン・メレハン氏

©日本ユニセフ協会/2020

ユニセフ親善大使 マズーン・メレハン氏

難民キャンプでの生活

シリアで紛争が始まる前、私はごく普通の女の子でした。学校に通い、友達もいて、安全で、自分が難民になるなんて思いもしませんでした。でも、紛争が始まってからは多くの困難に直面しました。

しかし、困難に直面しても、それが人生の終わりではありません。紛争が始まって普通の生活が送れなくなった私たち家族は、2013年、シリアから逃れヨルダンの難民キャンプで暮らすという苦渋の決断をしました。

ヨルダンのザータリ難民キャンプでの生活はシリアとは異なり、以前のような生活をすることは困難でした。インターネットはもちろん、電気、水へのアクセスもありませんでした。小さなテントの中に家族全員で暮らし、人間関係も一から作り上げ、すべてが新しい生活でした。とても大変でした。

どんなに辛い状況であっても、私の関心は教育にあり、キャンプの中を回って「私は学校に行ける?」と尋ねました。「Yes」という答えが返ってきたときが私の人生を変えた瞬間で、これで困難に立ち向かうことができる、夢を達成することができると思いました。

教育活動の始まり―夢をあきらめる子どもたち

私はヨルダンでユニセフの支援を受ける学校に通い、シリアで受けていたような質の高い教育を受けることができました。普通に教育を受けることができたのが、私はとても嬉しかったのです。しかし残念なことに、多くの子どもたち、特に女の子たちは、教育は重要ではないと考え、たくさんの子どもたちが、難民だから何もできない、今は学校に行く時期じゃないから、という理由で夢を諦めていました。

ここで私は何かしなければと思いました。教育を受けた世代なしにシリアに帰ることはできません。私だけでなく、他の子どもたちも学校に行くべきです。そこで、子どもたちに学校に行くよう説得することが私の使命だと考えました。これが私の教育活動の始まりでした。

教育活動家として―「この声を使って、世界中に訴える」

ヨルダンで暮らした3年間に行ったのは、教育は大切なんだ、学校に行かなくてはいけないと人々に訴えることでした。教育を受ける権利を失えば、他のすべての権利も失ってしまいます。教育があってはじめて自分を向上させ、他の人のために何かをすることができます。教育があれば私は強くなる、そして人として自立できる、だからこそ、教育はとても基本的なものなのです。誰もが教育へのアクセスを持つべきであり、私たちには子どもたちに挑戦させる責任があります。

最も重要なのは行動することです。でも、行動するにはまず声を上げることが重要です。難民キャンプでの生活を終え、今イギリスで普通の生活をしている私にとって、今でも苦しんでいる人々のことは忘れられません。私は自分のことを知ってもらうためだけでなく、今でも大変な状況で暮らす人々のためにも、彼らに何が起こっているか知らせるため、自分が経験した困難について話します。私のストーリーを知って、考えてもらいたいのです。私はこの声を使って、多くの子どもたちが直面する困難と教育の権利を訴えるという役割を誇りに思っています。

教育は子どもたちの希望

ユニセフ親善大使に任命されてから、私は多くの地域を訪問しました。例えば昨年は、マリ共和国に行き、紛争や貧困のせいで学校に通えない子どもたちに会いました。残念なことに、多くの子どもたちは通える学校がなかったり、紛争により多くの学校が破壊されたりしています。しかし、彼らはどんな困難の中でも未来に希望を持ち、自分たちの社会のために何ができるか考えています。

マリに行った後、私はすぐにジュネーブ行き、子どもたち、特に緊急事態下や紛争の被害を受けた子どもたちが直面する困難を共有する報告書を作りました。それは、実際に私たちがマリ共和国で見たこと、経験したことを行動に移そうとするものです。それ以来、私はより多くの活動をするようになりました。

ユニセフは本当に素晴らしい機関です。多くの子どもたちの人生を変えています。私もその中のひとりです。難民キャンプでユニセフが支援する学校がなければ、私は今これほど強くはなれなかったでしょう。ユニセフのような、子どもたちのためにより良い世界を作る努力をしている機関を支援することは非常に重要だと考えます。ユニセフの親善大使の一人として、子どもたちのために活動できることを本当に誇りに思っています。

マズーン・メレハン(Muzoon Almellehan)

シリア生まれ。14歳だった2013年に紛争によって隣国ヨルダンに逃れ、難民となる。シリアからヨルダンに逃れるときに持っていた唯一の荷物は、学校の教科書。ヨルダンで難民として3年間を過ごし、その間に、教育の大切さを伝える活動を始めた。その後英国に第三国定住し、2017月6月、19歳のときに、難民として初めてのユニセフ親善大使に就任。

 

 

報告③ 日本政府の取り組み
外務省国際協力局地球規模課題総活課 齊藤順子氏

外務省国際協力局地球規模課題総活課 齊藤順子氏

©日本ユニセフ協会/2020

外務省国際協力局地球規模課題総活課 齊藤順子氏

日本の教育協力、SDGs推進の取組

日本政府は、人間の安全保障を推進するために不可欠な分野として教育分野の支援を重視してきました。世界には学校に通えない子どもが多く残されており、小学校に通えない子どもの割合は世界で9%ですが、非常に地域差がありサハラ以南のアフリカではおよそ20%です。学校に通っていても基本的な読み書きの能力を身につけていない子どもはなお多く、サハラ以南のアフリカでは90%近い子どもたちが学べていないと報告されています。学校に行けない子どもの数を減らすと同時に、すべての子どもたちに質の高い教育をどのように供給していけばよいかということが国際的な課題です。

2015年に持続可能な開発目標(SDGs)が採択されたことを受けて、日本政府の教育分野の戦略として、『平和と成長のための学びの戦略』を発表しました。そこで重点を置いているのが、質の高い学びに向けた教育協力、産業・科学人材育成と社会経済開発の基盤づくりのための教育協力、教育協力関係者とのネットワークの構築と拡大などです。昨年9月の国連総会の際には安倍総理大臣も教育分野における日本の取り組みについて述べました。またその際にSDGsサミットが開催されましたが、SDGsの推進における教育の重要性についても確認されました。

昨年のG20大阪サミットでは、「持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブ」に合意しましたが、その中でも、質の高い教育の推進、イノベーションをどのように生み出していったらよいか、紛争や災害下での教育や女性や障がい者を含めたインクルーシブな教育をどのように促進するかについて合意されています。

Education for all

難民の子どもたちが教育へのアクセスが絶たれてしまう「失われた世代」が問題となっており、日本政府もユニセフと協力して支援を行っています。例えばシリアに関しては、ユニセフが主導して「全ての人に教育を(Education for all)」というプロジェクトを他の国際機関とも協力して進めています。日本政府も資金拠出を通じてそのプロジェクトを支援しており、2018年から2019年にかけて行われた事業報告では、25の学校の修復により約1万7,000人、学校の教材等の配布により約3万5,000人、また教員研修により約1,400人の教員が裨益したという報告がされています。

シリアにおける教育支援では民間企業からのご支援もありました。Education for All のプロジェクトの一環で、集英社様及び紀伊國屋書店様などのご協力により中東地域でも人気のある漫画「キャプテン翼」のアラビア語版を寄贈いただき、ユニセフが支援する国内避難民キャンプの図書スペースに供与することができました。

今後も、NGO及び民間企業等様々な関係者の皆様と協力しながら、日本政府としてもAll Japanとして教育分野での支援に尽力していきたいと思います。


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