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日本ユニセフ協会
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日本ユニセフ協会からのお知らせ

子育て・子育ちにビジネスはどう関われるのか
多様なアプローチと可能性
第3回CSRセミナー実施

【2015年11月  東京発】

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© 日本ユニセフ協会/2015

当協会は、日本弁護士連合会との共催で、『子どもの権利とビジネス原則』をテーマとしたセミナーシリーズ「ビジネスで守る子どもの権利」を開催しています。10月22日(木)、第3回セミナーを開催、日本の子どもたちがおかれている状況をふまえ、子育て・子育ちにビジネスが関わる多様なアプローチや、社会貢献活動の位置づけ等について議論しました。

現代の子どもたちがおかれている状況-「困った」子どもたち?

日弁連・子どもの権利委員会事務局長の相川裕弁護士は、講演のはじめに、今の日本には「困っている」子ども、苦しい立場に置かれている子どもたちがたくさんいて、以前と比べてその困難さが見えにくくなっている、また、おとなの側から見ると「困った(厄介な、扱いにくい)」子どもたちとして見えている、と述べ、学校に居場所がなくフリースペース等にたどり着く子ども、さらに家庭にも居場所がなく、子どもシェルターや、JKビジネスにも行きついてしまう子どもたちなどを例に挙げました。

ナナメの関係、企業の役割

子どもが育つ上で親ではないおとなの役割が重要で、企業の役割もそこにあると述べる相川弁護士

© 日本ユニセフ協会/2015

子どもが育つ上で親ではないおとなの役割が重要で、企業の役割もそこにあると述べる相川弁護士

子どもたちを取り巻く社会の変化が速く行政の対応も追いつかない中で、日本では伝統的に、親ではないおとな(近所のおじさんやおばさんなど)が、子どもが育つ上で重要な役割を果たしてきており、そこにビジネスの役割も大きく、子どもにとってタテ(親)でもヨコ(他の子ども)でもない、ナナメ(企業含む)の関わりが重要である、と述べました。ビジネスが様々な局面で-親を介して/直接に、従業員として/顧客・ユーザーとして-子どもと関わる中、例えばひとり親を雇用し続けることや子育てへのサポートなど企業への期待を示すとともに、企業にとっても、子どもたちと関わることで、例えば「困った」子どもたちが企業のファンになってくれる可能性などがあるのではないか、と述べました。さらに、“一般的なコース”をはずれてしまった子どもたちにも戻る力があり、 “排除”ではなく、戻ることを手助けする “ともに生きる”アプローチが重要であることを強調しました。

地域社会と連携して、次代を担う子どもたちを育成

店舗という「場」を生かし地域社会と連携した次世代育成の取り組みを紹介するイオン1%クラブ友村氏

© 日本ユニセフ協会/2015

店舗という「場」を生かし地域社会と連携した次世代育成の取り組みを紹介するイオン1%クラブ友村氏

企業による取り組みの事例として、まず、(公財)イオン1%クラブ事務局長の友村自生氏から、これからは「利益を正しく使えるか」が評価される時代になるとして、1989年にイオン1%クラブを設立(2015年4月から公益財団法人)、利益を地域社会に戻していくことを念頭に、店舗という「場」を持つ強みを生かし地域社会と連携して、平和な社会づくりへの貢献という最終目標のもと活動していることが紹介されました。

そして、地域・国際社会と連携した、次代を担う子どもたちの健全な育成のための様々なプログラムのうち、乳幼児やその保護者向けの「すくすくラボ」(子育てセミナーや童謡コンサート)、小中学生向けの「イオンチアーズクラブ」(店舗をベースにした子どもによるエコ活動)、地域のボランティア団体を支援する「幸せの黄色いレシートキャンペーン」(顧客が支援したい団体の箱にレシートを入れると、合計金額の1%がその団体に希望する品物で寄贈される)、ユニセフと協力して行っている学校建設やセーフウォーターキャンペーンなどの取り組みについて説明しました。

「夢の実現」の機会を子どもたちに

「共感の拡大」を目指し、子どもたちに「夢の実現」の場を提供していると説明するHONDA久保氏

© 日本ユニセフ協会/2015

「共感の拡大」を目指し、子どもたちに「夢の実現」の場を提供していると説明するHONDA久保氏

本田技研工業(株)総務部社会活動推進室・室長の久保秀一郎氏は、まず、同社が人々の喜びのために「夢の実現」を企業方針とし、様々な「世界一」と「世界初」を世の中に送り出してきたことを紹介しました。そして、“信頼と共感の拡大”をキーワードに、社会貢献活動として特に「次世代育成」と「環境取組」に力を入れていること、次世代育成については、ないものを創り(=夢の実現)世の中に貢献する子どもたちの育成をめざし、夢の実現に向けた「場」の提供とサポートを行っていることを説明しました。

年齢ごとに設けているプログラムのうち、小学生向けの「子どもアイディアコンテスト」を紹介、夢を持ち(図面を描き)→立体の試作品を作り→完成した作品を発表するという、社内のモノづくりと同じプロセスをたどることで、子どもたちに自信やチャレンジする意欲が生まれていることを報告し、教育の専門家ではない企業が次世代育成のためにできることはそのような「場」の提供なのではないか、と述べました。また、同コンテストが、活動に携わる従業員の気づき(開発の原点に立ち返る)や社内の活性化、販売店が地域のお客様とつながる機会にもなっていることにも言及しました。そして最後に、社会貢献活動の課題として、効果を数字にしていくことと、本業(経営戦略)との位置付けの2つを提起しました。

社会貢献活動の位置づけ

後半のパネルディスカッション(司会:日弁連企業の社会的責任と内部統制に関するプロジェクトチーム副座長 高橋 大祐 弁護士)の中で、HONDAの「コンテスト」等は本業の技術や企業理念にも密接に関連した取り組みと評価できるのではないかという指摘に対し、久保氏は、そのような評価はありがたいが、本業(=商売)と社会貢献の位置づけは本当に難しく、本業とリンクさせていると自信を持って言えるわけではない、また、社会に「貢献」したかどうかは自分たちで決めることではない(久保氏は社会活動推進室の室長)として「等身大」で活動・発信してきたが、最近では投資家評価の観点から、社会貢献活動の企業利益への効果を数値で出すことが求められ、いっそう難しくなっている、と述べました。

イオン1%クラブが、今回のセミナーシリーズの登壇企業の中で唯一、「財団」という形で活動を行っていることについて、友村氏は、ビジネス領域から離れて活動でき、活動の幅は広まることが、いちばんのメリットと感じていると述べ、関心がより「外」に向かっている財団があることで、本社に外の情報を伝えることができること等にも言及しました。

多様なアプローチ

企業のもつ「場」や「モノ」を生かした子育ち支援の可能性や、CSRと企業価値向上を結びつける難しさなどについて、活発な議論が行われました。

© 日本ユニセフ協会/2015

企業のもつ「場」や「モノ」を生かした子育ち支援の可能性や、CSRと企業価値向上を結びつける難しさなどについて、活発な議論が行われました。

同じく次世代育成に取り組みながら、異なるアプローチをとる両社の報告からは、様々な可能性が示されました。「場」を持っているイオンと「モノ」をもっているHONDA、幅広い活動を行うイオンと「夢」に関する活動にフォーカスするHONDA、多様な関係者と連携するイオンと、基本的に自前で(OB等の協力により)活動するHONDA、等の違いに、両登壇者からも互いに「参考になる」との発言が相次ぎました。

友村氏は、「場」を生かした子育ち支援として、店舗内の保育所の設置や、子育て中の母親への駐車場の提供などを紹介しました。さらに、質問に答え、モール内のゲームコーナーなどにいる、学校に行っていないと思われるハイティーンの子どもたちに対しては、見て見ぬふりはせず注意する方針であること、また、子どもたちの放課後の居場所を、7つのモールに設置したことも説明しました。また、「あこがれメーカー」として販売店が子ども・若者とのよい接点になるのではとの指摘に、久保氏も、まさに販売店との協力を重視していると述べました。相川弁護士からは、2社の先駆的取り組みを大いに評価する発言があり、「場」をもつ小売業と、「モノ」をもつメーカー全体に対して、それぞれの特徴を生かして子育ちに関わる期待が寄せられました。

関係者との連携

久保氏が、現在の活動のきっかけとして、子どもや学校の先生たちと接するなかでHONDAらしさである「夢」にフォーカスすることに気づき、活動を整理し「夢の実現」を中心に体系化した、と述べると、友村氏は、「イオンチアーズクラブ」の活動を始めるに際し、子育て中の母親であるパートの従業員の声を参考にしたことを紹介、子ども側の課題やニーズを理解するためには、関係者との連携・情報交換が重要であることが明らかになりました。

また、友村氏は、ユニセフと協力して行っている学校建設プロジェクトには教員研修や水・トイレの設置なども含まれ、効果が持続する取り組みであることを強調し、ユニセフなどの子どもの権利に特化した機関や団体との連携も、企業が子どもの課題に効果的に対応するために有益であることが示唆されました。関係者との連携については、学校や行政における、企業の取り組みに対する柔軟な受け入れや協働の必要性についての期待も寄せられました。

企業価値の向上と「奥ゆかしさ」のバランス

「等身大での発信」(久保氏)、「“秘匿”でやってきた」(友村氏)の発言に見られるよう、両社とも、社会貢献活動をあえて積極的にアピールしないという“奥ゆかしい”(相川弁護士)方針で長年活動してきていますが、最近では、CSRが企業価値に強く結びつけられるようになり、難しいバランスをとることが求められている、との認識で一致しました。久保氏は、HONDAの社会活動は「いいね」(好感)ではなく、「いいので自分たちも一緒に」(共感)の拡大を目指していて、共感が拡大しファンが増えた時に、本当の意味でのブランドアップと言えるのではないか、HONDAの活動がきっかけになって、究極的にはHONDAがいなくなっても続けられるまでになったら社会的課題が解決する、そこまで高めていければいいと考えている、と述べました。また、企業価値の向上は後からついてくるもので、それを前面に出すと共感を得にくいのでは、と述べる場面もありました。友村氏も、“見える化”が重要であり、効果が持続する活動を行ってその社会での効果が見える時に、真の企業価値につながるのではないか、としました。

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